434,やっと出航
船が出れるようになるまでクエストに出ることにして、雨の中クエストに出る事数日。
ようやく船が出せるくらいに天気が安定したので、荷物を纏めて宿を後にした。
数日振りに晴れた空が見えて、大分気分がいい。
「セルは荷物置いたら甲板か?」
「うん。皆はどうする?」
「私たちも甲板行くよー。暇になったらお喋りしようね!」
「見えるところには居るつもりだから、何かあったら呼んで」
イツァムナーから船でムスペルまで来た時と同じように、私は魔法で風を吹かせて船を動かす手伝いをすることになっている。
乗船料がかからないってのもあるけど、今回はそれに加えて優先して乗せて貰えたのでやらない手はないんだよね。
私にとってはさほど面倒な事でも疲れることでもないし、久しぶりに晴れた空の下で思いっきり風を吹かせられるのは楽しいしね。
そんなわけで荷物を客室に置いたらそのまま甲板に移動する。
「こんにちはー」
「こんにちは。君が手伝いの魔法使いだね」
「はい。出発までは待機ですか?」
「そうだねぇ、出たらまた言うけど、最初はちょっと弱めにね。ある程度進んだら速度上げていくから」
「分かりました」
まだ出発時間まで少しだけ時間があるので、それまでは皆と話していることにした。
今回は第一大陸までなので、船に揺られる時間は前ほど長くはない。
けど、前に乗った時より少し船が揺れている気がする。出航は出来るけど、若干荒れてはいるのかな?
酔いやすい人は辛いだろうなぁ、この感じ。
私はどうせ浮いているからあんまり関係ないんだけど、寝てる間もゆらゆらしてるのはどんな感じなんだろう。
なんてあれこれ考えながら話している間に鐘の音が響き渡って、船に上がるためのタラップが取り外されたので杖を持って先ほどの船員さんが居る所まで歩いて行く。
合流したら手招きで誘導されて、一段高い場所に移動した。
「ぃよーし、そんじゃー出発しよう」
「はい。真後ろからでいいですか?」
「いいよ。徐々に強くしていってくれる?いいところでストップかけるから」
「分かりました」
船の帆が開いたのを確認して、杖を回して一気に風を起こしていく。
最初は弱い風でって言ってもこの大きさの船を動かすだけの風だからね、思いっきり起こさないと。
ある程度の量の風を作ると自動的に自分の周りも覆われてしまうんだけど、これは別に邪魔でもないし……というかこの状態の方がやりやすかったりもするのでそのまま進める。
少しだけ浮いた状態で風を起こし続けて、船の後ろからドンドン吹かせていく。
徐々に徐々に強くしていって、船員さんの合図があったところで威力を一定にする。
そのまましばらく進んで、再度合図が出たので再び風の威力を上げた。
「おー……すごいすごい。久々にこんな強い風魔法見た」
「しばらくこのままで大丈夫ですか?」
「んー……ちょっと向きだけ変えるかも。ちょっと待ってね」
「はい」
舵を取っている船員さんと何やらやり取りをしているのを眺めつつ風を吹かせて、今度は指示に合わせて向きを少しずつ変えていく。
強風を吹かせ続けるのも中々楽しいな。普段はこんなにいっぱい風作れないし。
新しく風を作っては吹かせて、作っては吹かせてと作業に集中していたら、視界の端でリオン達が何やらわちゃわちゃやっているのが見えた。
……何やってるんだ、あれ。
「よーしよし……いい感じ。しばらくそのまま」
「はい」
「もうちょっと進んだら自然の風が出てくるだろうから、そしたら休憩入っていいからね」
「分かりました」
「そんじゃ、もうちょっとだけ頑張ってねー」
「はーい」
気を取られている間にも船はぐんぐん進んでいるので、気付けばもう港は見えなくなっていた。
その後もしばらくご機嫌に風を吹かせていたら、自然の風が出てきたようで一旦休憩になった。
はぁー楽しかった。思いっきりやっていいのが何よりも楽しいよね。
「お、セルー。終わったかー?」
「一旦休憩。さっき何してたの?」
「下に魚の群れがいたんだよ」
「鱗が反射してキラキラだったんだよ!」
「とりあえず座りな。お茶飲む?」
「飲むー」
リオンとシャムの間に誘導されたので素直に腰を下ろし、差し出されたお茶を飲む。
楽しかったけど、気付かない間に喉が渇いてたみたいだ。
ついでに腰を落ち着けたらなんかお腹空いてきたな。
「あ、もう十一時じゃん」
「そうだね」
「思ったより時間経ってるなぁ……お腹空いてきた」
「俺も。飯食い行くか?」
「そうだねぇ、食堂行こっか」
「場所は?」
「把握済みです!レッツゴー!」
いつの間に……私が別行動してたから把握してないって訳ではない、みたいだ。
リオンもロイもちょっと驚いた顔してる。
驚きはしたけど、割といつもだからそのまま流す感じだ。
かく言う私も驚きはしたけど詳しく聞く事でもないかなぁと流して、先頭を進むシャムについて行く。
甲板から船内に入って少し進んだ先にある扉を開くと食堂があって、売店が備え付けられていたのでお昼ご飯を買って開いている席に腰を下ろした。
「何にするー?」
「フィッシュサンド……」
「お前前もそれ食ってなかったか?」
「よく覚えてるね。食べてた気がする」
船に乗ってるからなのか、なんか魚食べたいんだよね。
我ながら単純だなぁとも思うんだけど、食べたいんだから仕方がない。
並んでるサンドイッチ美味しそうだしね。葉野菜が一緒に挟まってるのもポイント高い。
「私フルーツサンドにしようかな。ベリベリベリー」
「ベリベリ……」
「俺はあのでけぇのにする。あれだけ他の二倍くらいの大きさしてんぞ」
「僕はパルニッキのサンドイッチにしようかな」
「何だそれ」
「知らない」
「知らないのに買うんだね……」
「あの挟まってるのがパルニッキだと思うんだよね」
「あくまで予想なんだね」
知らない物に躊躇いなく挑戦できるの、凄いと思うよ。
やたらと赤い果物……?野菜……?みたいなのが挟まってるし、気になるのは分かるんだけどさ。
何なら一口分けてほしい。私のフィッシュサンドも一口あげるから。




