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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
432/477

432,雨が降りそうな空

 吹いてきた風に乗っかって、地面に足が当たらない程度に浮かぶ。

 空は朝からずっと分厚い雲が覆っているせいで太陽は見えない。

 雨は降らないといいなぁ、なんて思いつつ前を進む三人に目を向けたら、私が止まったことに気付いたらしく振り返ったロイと目が合った。


「何かあった?」

「んや、何でもないよ、大丈夫」


 雨降りそうだなって思っただけ、と言葉を続けて、風に乗ったまま前に進む。

 風を足すことはしないで、足元にあった分が消えたらそのまま地面に降りる。

 第五大陸に入ってもう二日ほど経っているので、だんだん風の感じが変わってきた。


 第四大陸は森だけど、第五大陸は海の印象が強いからね。

 魔力も風も、大分違う気配がするのだ。

 私は第四大陸で生まれ育ってるから森の方が落ち着く。海風も乗ってて楽しいけど。


「あ、見えたよー」

「ムスペルに一泊するんだよな?」

「うん、だから急がなくて大丈夫。……シャム、走らない」

「はぁい……」


 ここまで関所の仮眠室に泊まった以外はずっと野営で進んで来たんだけど、船に乗る前にムスペルで一泊することになっているので、今日は久々に宿に泊まる。

 野営でも魔法で髪とか洗ってはいたんだけど、お風呂には入りたいから宿に泊まるのは嬉しい。


「リオンは宿取ったらすぐ寝る?街見て回る?」

「あー……前来た時は回れなかったもんな。荷物置いて軽く見て回ろうぜ」

「そのタイミングでお昼ご飯食べようか」

「いいねぇ」


 話しながら歩いていたのだけれど、楽しみなことがあるからか皆ちょっとだけ歩く速度が上がった。

 とはいえ早歩きってわけでもないし、本当に誤差程度ではあると思うんだけどね。

 それでも確実に速くはなっている。さっきシャムに釘を刺していたロイが何にも言わないから別に構わないんだろうし、私も何にも言わないでおくけど。


 なんて考えながら歩いてムスペルの中に入り、まずは宿を取って荷物を置きに行く。

 まだ昼だからか、割とすぐに宿は見つかった。

 今回は割と大き目な部屋で、リビング部分から二部屋ある寝室に行ける感じの部屋だ。


 これなら明日の朝はロイと座って喋ってられるな。

 まあ、散歩とかしに行くかもしれないけど、その辺は明日の朝にならないと分からないからね。

 今考えても仕方のないことを考えるのはやめて、貴重品を持って宿の外に出た。


「さて、どっちに行く?」

「海の方行ってみる?この通りは結構ご飯屋さんもありそうだし」

「そうだね。なんか気になるものがあったらそっち行こう」

「おう。行こうぜー」


 宿を出て向かう方向を決めて、一塊になって歩き出す。

 市場とかもあるのかな?あるならちょっと覗いてみたい。

 宿とかも国によって違いはあるけど、市場が何よりも分かりやすく違うから見て回ると面白いんだよね。


 その国に住んでいる人が利用する場所の方が国ごとの違いは分かりやすい。

 フォーンには謎の古物商とかよく居るけど、他の国ではあんまり見なかったりするし。

 ムスペルだと何があるんだろうなぁ。


「そういえば、乗船券とか明日でいいの?」

「あー……明日でも大丈夫だとは思うけど、見に行ってみてもいいかもしれないね」

「このまま船着き場まで行ってみよっか。途中で気になるご飯屋さんあったら入ってみよ」

「おー。腹減ったわ」


 話しながら大通りをのんびり歩いて、何やらいい香りが漂ってきたのでそっちに釣られるように進む方向を変える。

 少し進んだところで香りの発生源らしき屋台を見つけたので、そこに立ちよってお昼ご飯を確保した。


「タレの焼ける匂いって食欲そそるよね」

「うめぇ」

「食べるの早」

「いただきまーす」


 味濃いめのお肉が挟まれたサンドイッチなんだけど、葉野菜も多めで中々美味しい。

 パンも美味しい。表面が焼かれてるからこっちもパリパリでサクサクだ。

 流れるように全員揃ってつられて行ったけど、これはつられて正解だなぁ。


 邪魔にならないように壁に寄って食べてたんだけど、全員夢中になりすぎて無言だった。

 ちなみに私は四分の一くらいが食べきれなかったのでリオンに食べて貰った。

 美味しいんだけどね、食べ応えも量もちょっと多くてね。


「うーっし、船の方行こうぜー」

「食べるのはっや」

「セルが遅ぇんじゃねえのか?」

「いや私は普通だよ、モエギお兄ちゃんの方が遅いよ」

「あー……なんかぽいわ」


 モエギお兄ちゃんは食べるのゆっくりだし、あんまり量も食べないんだよね。

 たまに作りながらつまんでるだけで満足する時もあるくらい。

 そこが基準点になってるから、私は断じて自分が小食な訳ではないと主張している。


 そんな話をしながら船着き場まで歩いて行くと、何やら人が沢山集まっていた。

 ……どうやら、何かあったみたいだ。

 顔を見合わせつつ人だかりの方へ向かうと、停泊している船の人っぽい人たちが集まって何か話しているのが見えた。


「……僕とシャムで話を聞いてくるから、二人は少し待っていてくれる?」

「おう」

「はーい」


 歩いて行くシャムとロイを見送って、言われた通りリオンとその場で待機する。

 前回四人で来た時のこともあるから念のため風で周りを確認してみたんだけど、変な魔力とかは見つからなかった。


 なんだろうなー、どうしたんだろうなーとちょっとソワソワしながら待っていたら、無意識に回していたらしい杖をリオンに掴んで止められた。

 本当に無意識だったから、掴まれてちょっとびっくりしちゃった。


「……お、戻ってきたぞ」

「早かったね」


 びっくりしている間にシャムとロイが戻ってきて、人が多いのでちょっと移動することにした。

 人がある程度少ないところで道の端に寄り、一応風で周りを覆って声が通りやすいようにちょっとした細工だけしてみる。あんまり意味は無いと思うけどね。


「何だった?」

「海が荒れてて船が出せないらしいよ。明日はどうなるか分からないけど、もしかしたらもう一泊しないといけないかもね」

「あー……天気悪いもんね」

「これ以上荒れるかもしれないし、出発が遅れた時の予定とかも考えようか」

「クエストでも行くかー?」

「そうだね、宿代を稼ぐ程度を目標に受けるのはいいかもしれない」

「宿に戻ったら連泊出来るかどうかも聞いてみようか」


 こればっかりは自分たちではどうにも出来ない問題だからなぁ。

 海の状況が良くなることを祈りつつ、どうするのかを考えておいた方が良さそうだ。

 クエスト受ける感じになるだろうけど、同じことを考える冒険者は多そうだしどうなるかな。


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