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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
423/477

423,ビリジアン到着

 揺れる馬車の中で、ソミュールの頭が落ちないように自分の方に傾けさせておく。

 一応反対側に風を敷いてあるし、倒れても大丈夫なようにはしているんだけど……

 この辺を抜けたら揺れも少しマシになるらしいし、それまではこのまま風も保っておいた方がいいかな。


 周りの気配やらなんやらを風で拾ってきているから、仕掛け箱を仕舞っていてもそれなりに暇は潰せている。

 遠くに何やら大勢の人の気配もするし、そろそろビリジアンの外壁が見えるくらいには来てるのかな。


 ソミュールが着いたら起こしてって言ってたんだけど、起きるかなぁ?

 声をかけても揺さぶっても、起きない時は起きないはずだ。

 今回は起きられる確信でもあるんだろうか。まあ、何はともあれ言われたからには起こす努力はするけども。


「おっと」


 どうやって起こそうかなぁと考えていたら馬車が大きく揺れたので、ソミュールを引き寄せて風も起こしておく。

 ついでに体勢を崩しかけていた隣のお姉さんも風で支えて、一度外に意識を向けた。


 大きく揺れる場所は抜けたかな。この後は道もそれなりに舗装されているから、さっきまでよりは安定して進んでくれそうだ。

 風に軽く遠視を乗せたら外壁も見えたし、そろそろソミュールを起こす努力を始めないと。


「ソミュール、そろそろ着くよ」


 まだ馬車の中なので、小さく声をかけて身体を揺さぶってみたけれど、やっぱりこれくらいでは起きる気配がない。

 しっかり起こすのは馬車を降りてからにするとして、この状況で出来る起こし方ってなんだろう。


 魔力系の何かの方が起きやすそうかなぁ。

 でもあんまり変な風に魔力弄るとどうなるかが分からないから、あんまりやりたくはないんだよね。

 そんなに繊細でもないよってソミュールは言ってたけど、それでもね。


 なんて色々考えていたら、馬車がビリジアンに入ってゆっくりと止まった。

 他の人がある程度降りてからソミュールを浮かせて馬車を降りる。

 荷物も浮かせてきたので、このまま宿を探すか……いや、とりあえずソミュール起こす努力だけするか。


「ソミュールー。ビリジアン着いたよー」


 浮かせたソミュールを揺らして声をかけてみるけれど、一切起きる気配がない。

 まあ、とりあえず一旦は宿を探しながらソミュールを引っ張って、探してる間に起きたらいいなぁと雑な希望を持っておくことにしよう。


 宿はどういうところにするかを事前に聞いてあるので、メモしてあるそれを探すことになる。

 普段四人で宿に泊まる時よりもグレードの高い宿だから、すぐに満室になる事は無いだろうしのんびり探そう。


 そんなわけでのんびり街を歩き、宿を見かけたら一応確認をしていく。

 ……お?こことかちょうどいいのでは?

 空き部屋あるか確認してこようかな、と扉を開けようかと思ったところで、風の上のソミュールが身動ぎをした。


「んぅー……ん」

「おはよう?」

「んー……」


 起きては無さそうかな?いや、もうちょっとで起きそうか?

 入ろうと思ってたけど、もうちょっと待ってみようかな?

 扉の前から退いて、ソミュールをそっと揺さぶってみる。


「起きてー」

「んー……うん……」

「ビリジアン着いたよー。宿決めるよー」

「うん……うんー……」


 徐々に意識が覚醒してる感じはするから、そろそろ起きてくれそうだ。

 半分くらいでも起きてくれれば宿決めも手伝ってくれると思うから、とりあえず一回覚醒してほしい。そのままもう一回寝てもいいから。


「セルリアぁー」

「うんー?」

「宿決まったぁ?」

「とりあえずここに空室があるか確認するところだよ」

「……ん、任せた」

「はいよ、任された」


 ソミュール的にもここが空いてたらここでいいみたいだから、ササッと確認を済ませよう。

 さて、空いてるかなー。

 予定では三日くらい滞在するから、連泊出来るからしちゃいたいんだけど……


「いらっしゃいませ、本日のお泊まりですか?」

「今日から三日くらい連泊したいんですが、空いてますか?」

「はい。二部屋ご利用になりますか?」

「いえ、一部屋でベッド二つに出来ますか?」

「畏まりました。ご案内いたします」


 荷物を抱えてソミュールを引っ張って、案内してくれる宿の人の後ろについて行く。

 私が寝てるソミュールを浮かせて引っ張ってても驚かないのすごいな、これやってると街中で結構目線が集まってきたりするのに。


 ついでに抱えていた荷物まで持ってもらってしまったし、なんというか、高い宿は色んな意味で質がいい。

 そんなことを考えながら部屋に入り、荷物と鍵を受け取った。


「外出の際は鍵をカウンターにお預けください。その際に引き換え用の木札をお渡しするので、そちらを無くさないようにお願いいたします」

「はい、わかりました」


 去っていく宿の人にお辞儀をして、中から部屋の鍵を閉める。

 そして浮かせていたソミュールととりあえず椅子に降ろし、荷物を軽く整理して懐中時計を引っ張り出す。


 夕食にはまだちょっと早い……かな?

 もう食べに出てもいい時間ではあるけど、ソミュールが起きそうだし待ってみよう。

 その間に部屋の中を探索しよう。なんか扉が幾つかあって、凄い気になるんだよね。


 ここはトイレか。こっちはなーんだ?あ、お風呂だ。

 個室にしっかり湯舟まであるなんて豪華だなぁ。お湯に浸かれるの、普通に嬉しい。

 最後の扉はクローゼットだった。小さいけどキッチンもあるし、長期滞在も出来るっぽいな。


「ふぁ……あぁあー」

「お。おはようソミュール。目覚めた?」

「うん、おはよう。いま何時ー?」

「六時になったかな?夕食食べに行く?」

「行くー」


 椅子に座らせて置いたソミュールがグーっと伸びをして立ち上がった。

 貴重品はいつも通りウエストポーチに入っているし、目が覚めたならこのまま夕食食べに出かけようかな。


 ソミュールが私を誘った理由については、明日か明後日に教えてくれるだろうから今は特に聞かないでおく。

 もう日も落ちるし、時間ないからね。そのために連泊出来る宿を探したわけだし。


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