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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
42/477

42,皆が皆、楽しみに待っていたので

 人力の荷台が森の中を進む。通れるギリギリの幅しかない、道とも呼べないようなそこを器用に進んでいった先には木が伐採された空間が広がっている。


 開けた視界に目を細めていると、庭で待っていたらしい姉さまが大きく手を振っていて、隣にいたコガネ兄さんから行っていいと言われたので出店を降りて駆け寄った。

 艶やかな黒髪を今日は一つに纏めていた姉さまの腕の中に飛び込み、思い切り抱きつく。


「ただいま、姉さま!」

「おかえりセルちゃん、待ってたよー」


 自分より低い位置にある肩にぐりぐりと頭を押し付けて、頭を撫でてくれる手に思う存分甘える。

 久々に会った姉さまは、どこまでもいつも通りだった。

 髪を結んでいるということは、私が帰ってくるのを楽しみにしてくれていたということでいいのだろう。


 姉さまは来客があることを知っている日、それが楽しみにしていたことだと朝早くからずっと外に出てはソワソワとしているのだ。

 それをウラハねえに捕まって髪を結ばれ、その間だけでもじっとしているようにと言われる。


 それ以外で髪を結んでいる時は遠出をするときなので、きっと今日も朝からソワソワしていたのだろう。

 そこまで楽しみにしてくれていたという事実が何よりも嬉しい。


「セルちゃーん。おかえりー」

「あ、シオンにい。……せいっ」


 家の方からのほほんとした声が聞こえて、抱き着こうかと思った心を一旦落ち着かせて勢いをつけてから殴り掛かる。

 パシッと軽く手を捕まえられてしまったが、それでも一応殴られてはくれるようだ。


「一応聞くねんけど、俺なんで殴られてん?」

「色々!とりあえず雑なこと教えられたのが分かったから」

「やっぱりそれかぁ」


 何やら他にも心当たりがあるらしい。どういうことなのか問いたださないといけない。

 その文句を先に終わらせてから、思う存分甘えるとしよう。

 そう心に決めてじりじりと距離を取るシオンにいに詰め寄っていると、後ろから抱きしめられた。


「おかえりセルちゃん。シオンのことは放っておくのが一番効果的よ」

「ちょ、ウラハ?俺もセルちゃんと遊びたいんやけど」

「反省しなさい。まったくもう」


 私を後ろから抱きしめているウラハねえを見上げると、にっこりと微笑まれて頭を撫でられた。

 姉さまとは違う、だけれど同じくらいに優しい手。

 大好きなその感覚に目を細めて笑うと、そのまま抱きかかえられてしまった。


 ウラハねえはその細腕に見合わず、家の中でもトップを争う力持ちだ。

 私くらい軽々持ち上げるし、たまにシオンにいを運んでいるのも見かけることがあった。

 なので私を持ってそのまま家に戻っていくのも朝飯前である。なんなら片腕で私を持って扉を開けているのだから余裕がうかがえる。


「ちょお、ウラハ?俺にセルちゃん渡す気ないん?」

「ないわよ。反省しなさい」


 同じことをもう一度言って、ウラハねえは付いてきたシオンにいをさっぱりと切り捨てる。

 ウラハねえの肩越しに困り顔でついてくるシオンにいを確認して、思わず笑ってしまった。

 そのまま運ばれた先はリビングで、手を洗うように言われて素直に実行している間に姉さまもやってきてお茶会の支度が進んでいく。


 手を洗い終わって席に着こうとしたら、正面からピンク色の塊が突っ込んできた。

 半ばタックルのような勢いだったが一応加減はしてくれていたらしくそれほど痛くはない。

 自分よりだいぶ低い位置にある頭をわしゃわしゃと撫で、勢いよくクルリと回る。


「おかえりセルちゃあん!」

「ただいまサクラお姉ちゃん!」


 そう、この少女も姉である。

 とっくに身長を追い越していようが、見た目年齢も追い越していようが、まごうことなき姉である。

 近くにいるであろう彼女の片割れを探して目線を動かすと、サクラお姉ちゃんは分かっていたのか私の手を引いた。


「モエギはこっちだよ!落ち着かないからって別のことしてたら集中してるみたい!」

「そうなんだ。……何やってたの?」

「なんか服作ってるー」


 それはまあ、集中してしまうわけだ。

 この家の服は、モエギお兄ちゃんとウラハねえが作ったものがほとんどだ。

 布を買ってきては二人で楽しげに服を作っている姿をよく見ていた。


 そうなると二人はそれに集中していまい、他のことは何も耳に入らなくなるのだ。

 それにしても、今日は誰の服を作っているのだろうか。

 大体は姉さまの服なのだが、唐突にドレスとかを作り始めたりもするので見ているのは中々楽しい。


「モエギー。セルちゃん帰ってきたよー」

「……え、もうそんな時間?わあ、おかえりなさいセルちゃん」

「ただいま、モエギお兄ちゃん」


 二階にあるモエギお兄ちゃんとサクラお姉ちゃんの部屋に入ると、机に向かって黙々と縫物をしている美少女……もといモエギお兄ちゃんがいた。

 炊事洗濯縫物とあらゆる家事をこなす優秀な嫁……であるが、彼は男である。

 どんなに美少女にしか見えなくても、サクラお姉ちゃんと姉妹にしか見えなくても、男である。


 そんなお兄ちゃんは針をしまってから立ち上がり、私の手を取ってニコニコと笑う。

 そのままサクラお姉ちゃんに纏めて手を引かれてリビングに戻り、夕飯の時間までつかの間のお茶会が始まった。


 話の内容は、私の休みの間に何をするか、だ。

 姉さまたちがやりたいことや連れていきたい場所はいくらでもあるらしいが、それを全て行うことは出来ないのでどれをやるかを先に決めてしまうらしい。


 確定事項は、お茶会くらいらしい。

 そのほかはやりたいことをやりたいように選んでいいと言われたので、コガネ姉さんがリストアップしてくれた姉さまたちのやりたいことに印をつけて返すようにと。


 ……楽しみにされていたのは分かっていたし、私も楽しみにしていたのだがここまでだとは思わなかった。

 随時書き足されていった形跡のあるやりたいことリストを見て笑いながら、とりあえず後で考えようと一旦紙を置く。


「まあ、とりあえずはセルちゃんの話が聞きたいな」

「うん、話すこと、いっぱいあるの」


 姉さまの言葉に笑ってそう答えると、全員が聞く体制に入った。

 トマリ兄さんまで影から出てきて座っているのが面白くて仕方ない。

 家の中で一番小さな声であるはずの私の声を、皆が拾ってくれようとするのだ。


 昔からずっと大事にされてきたのは分かっていたが、家を出て余計にそのことを思い知った。

 だから、話したいことがたくさんある。沢山ありすぎて、どれから話せばいいか分からなくなってしまいそうだ。


「えっとね、そうだ!私、一人で馬に乗れるようになったよ!」

「なん……えー、セルちゃんもう俺と一緒に乗ってくれないん?」

「素直に喜びなさいよ。すごいわセルちゃん。上達が早いんだから……」


 まったく違う反応が返ってくるのも、楽しくて仕方ない。

 これでは夕飯までどころか、明日の朝まででも話せてしまいそうである。


十月はポイントが動かない月だなぁと思っていたら最後の最後に纏めて評価を頂きました。

ありがとうございます……ありがとうございます……

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