410,シオンにいとお喋り
リオンが出店リコリスを動かせることが判明して大盛り上がりした後、私は芝生に寝っ転がるシオンにいの横に腰を下ろしてゆっくりと風を吹かせていた。
目線の先ではトマリ兄さんとリオンが何故かステゴロを始めており、ロイが巻き込まれそうになっている。
「シオンにい」
「んー?どしたんセルちゃん」
「なんか知らない魔力がある気がするんだけど、あれなに?」
「どれー?……あぁ、あれなぁ。悪いもんとは違うよ」
「それは何となく分かるけど……」
シャムとミーファがこっちに意識を向けていないのを確認してから、小さく呟くように声を出す。
ミーファには聞こえてるだろうけど、まあそれは一旦置いておこう。集中してこっちの声を聞いてるならともかく、今はリオン達の方を見てるからね。
「コガネが作っとる魔道具やろなぁ。最近色々調節しとったから」
「魔道具?……あんな複雑な魔力を発する魔道具……?」
「んはは。コガネだけで作っとるわけやのうて、たまーにレラプが来て一緒にいじくっとるんよ」
「あぁ……なるほど」
出てきた名前を聞いて納得してしまった。
レラプさんが一緒に作ってるなら、そりゃあ意味が分からないほど複雑な魔力の発し方もするだろうさ。
私が貰った湯沸かし器はかなり簡単なつくりだけど、それでも他とは作りが違うみたいでシャムが色々確認していた。
まぁ簡単の基準が違うんだろうな、って感じだよね。
「前にセルちゃんの切った髪回収しとったやろ?」
「……あぁ、うん。そういえばそんなことしてた気がする」
「それ使うて、セルちゃんがでっかい怪我とかしてないか分かるように魔道具組むんやて」
「遠隔で確認できるように、ってこと?」
「そ。どこに居るかも分からんし、どんな状態化も分からんけど生きとるかだけは知りたいんよ」
「心配させちゃってる?」
「これは俺らが勝手に心配しとるだけやから気にせんで。セルちゃんは好きにしててくれたらええんよ」
いつのまにかコガネ姉さんも参戦して大騒ぎになっているステゴロ組を眺めつつ、何となく声を潜めて会話をする。
……あ、ついにウラハねえが混ざった。これはもうウラハねえが全員沈めておしまいだな。
「セルちゃん」
「うん?」
「ここには、休みに来るくらいでええんよ。家なんやから」
「……うん」
「……あ、でもそれとは別にとりあえず誰かに告白されたとかあったらとりあえず教えて欲しいんやけど」
「急に早口」
急に早口だし急に体勢起こすじゃん。
ずーっと片腕枕にして寝てたのに、ガッツリ上半身起こすじゃん。
そういえばサフィニア様と文通するようになってからシオンにいが荒れてるって、姉さまが手紙に書いてたなぁ。
「ないん?誘われたりしてないん?」
「しててほしいの?」
「いやしてほしくない。最悪爆破しに行く」
「わ。すご」
「居るん?出来れば名前まで教えて欲しいんやけど」
「こーらシオン。詰め寄らないの」
シオンにいの魔力が徐々に高まって目が輝き出したところで、ステゴロ組を沈め終わったらしいウラハねえがやってきた。
そのままシオンにいの頭をベシンと叩いて地面に押し戻している。
シオンにいが全く抵抗していないのは、しないだけなのか出来ないのか。
……どっちもありそうだなぁ。抵抗できないのを知っているから、わざわざ抵抗しない、みたいな。
猫と羊じゃ力の差は歴然だよね。大人しくでろーんとしているシオンにいからは、さっきまでの鬼気迫った様子は消え失せている。
「セルちゃんももう子供じゃないのよ」
「でも俺の妹やもん……」
「しつこいと嫌われるわよー」
「セルちゃんは俺の事嫌いにならんやろ?」
「ならないけどさ」
グズグズと言い募っていたシオンにいが体を起こしたので、それに合わせて立ち上がったウラハねえを見上げる。
多分姉さまとソミュールの話が終わったんだろう。
懐から懐中時計を引っ張り出して時間を確認すると、夕方四時になりそうなくらいだった。
そろそろこのあたりは日が暮れるだろうし、話が終わったなら家の中に戻った方が良さそうだ。
杖を支えに立ち上がったところでシャムが駆け寄ってきて、抱き着かれたので抱き留めて、その勢いでクルリと一回転しておく。
「セルちゃん!闇魔法の第一種って得意?」
「普通に使えはするけど……なんで?」
「光魔法と混ぜてみたくて!さっきコガネさんが影に入ったトマリさんに光魔法ぶつけて引っ張り出してたの見て、そういえば闇と光混ぜた事なかったなぁって」
「あらまぁ兄さん達ったら魔法出すレベルで遊んでたのね」
コガネ姉さんとトマリ兄さんのじゃれ合いは、基本的には魔法無しの物理じゃれなんだけど、ヒートアップしてくると魔法が飛び出すんだよね。
ウラハねえが止めに行ったのは魔法が混ざり始めたからなのかもしれない。
普段は割と放置だけど、今日は皆が遊びに来てるわけだしほどほどにさせておいたんだろう。
どうせ止めたって明日どころか今日の夜にはまたじゃれ始めるんだからね。
冬場は雪合戦してたりもするからな、兄さん達。
「大きさどんくらいにする?」
「とりあえずこんくらい。あんまり大きくすると被害も大きくなるからね」
「何かしらあってもコガネ姉さん居るし大丈夫だと思うけどね」
「確かに……でも最初は小さめにしておこ」
手のひらの上にちょうど乗るくらいの球体を作って、シャムの手の上の球体と大きさを比べて同じになるように調整する。
……こんくらいかな?おんなじかな?
「よし、合わせてみよう」
「おー!」
作った魔法の球を押し付け合って一個に纏めると、なんだかいい感じに色が混ざった。
……なんだこれ、初めて見る感じになったなぁ……
普通はこんなマーブル模様にはならないんだけど……纏まりはしたけど反発してるのかな?
「なんかもにもにしてない?」
「不思議な感覚……混ざってるのに反発してるのかな?」
混ざった球を左右からツンツン突っついていたら、段々反発力が強くなってきた。
……これ、このまま突いてるとバンッってなるやつかな?
「どうするこれ」
「どうしよっか。壊れる前に包んだ方がいいよね」
何が起こるか分からないし、一旦壁を作って球体を包んでおくことにした。
コガネ姉さんも覗きに来たし、何かあっても大丈夫だとは思うけどね。




