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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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41,休暇の始まり

 荷物をまとめて、最後に部屋の中を一度見渡した。

 まあ、置いて行って困るものは全て持ったことを確認済みなので問題はないだろう。

 それに、向かう先は実家なのだから別段何がなくて困るということはないのだ。


 水周りにも置忘れがないか確認して、何もなかったので荷物を抱えて部屋を出る。

 鍵をかけて向かう先は中央施設だ。

 今日から長期休暇なので、鍵を一旦返す必要があるのだ。休暇から戻ってきたらもう一度受け取ることになるらしい。


 部屋の番号を覚えておかないといけないが、そもそももう四か月生活している部屋なので覚えている人がほとんどだろう。

 どうしても覚えられない人は管理の先生に申告しておくと名前と簡単な問答で鍵を返してもらえるらしい。


「こんにちはー」

「こんにちは。鍵の返却かな」

「はい。お願いします」


 手続きを済ませて門の外に出ると、そこに寄りかかって立っていたリオンを見つけた。

 手を振られたので寄っていくとにーっと笑顔を向けられる。


「もう行くのか」

「うん。リオンは何してるの?」

「どうせならお前らの事見送ろうと思って待ってた」

「暇なの?」

「まあ、やる事はそんなにねえな」


 この感じからして、ロイとシャムはまだ来ていないのだろう。

 それなら私も一緒に待とうと横に並び、荷物の中から一枚の紙を取り出した。

 リオンにそれを渡すと不思議そうな顔をされたが、書いてある文字を見て納得したようだ。


 渡したのはリコリスの出店日程と、私手書きの割引券。

 まあ割引と言っても正確な数字を書くのではなく手心加えてあげてと書いてあるだけなのだが。

 それでもあればその時店番している誰かしらがそれなりの額を引いてくれるだろうという信頼があるのでその書き方にした。


「くれんの?よっしゃーありがとな」

「うん。店番してるのは多分トマリ兄さんかコガネ兄さんだけど……まあ、他の人でも私の字だって分かると思うから」

「字で判断すんのか。すげえな」

「後はその横の落書き」

「……猫?」


 そう。名前を書く代わりに猫の落書きをしておいたのだ。

 その落書きは私が昔からよく描いていたもので、昔ずっと抱えていたぬいぐるみを模した絵である。

 ボロボロになってしまったので置いてきたが、今でもお気に入りの一品だ。


「セルって猫好きなのか?」

「まあ、そうだね。羊もキツネも鳥も狼も好きだけど」

「基準が分かんねえ」


 はは、と笑って誤魔化したが、基準は端的に兄姉の種族である。

 よく囲まれて昼寝をしていたのだ。……まあ、トマリ兄さんはあまり狼の姿を取らないのだけれど。

 一度ねだって見せてもらったきりである。


 そんなことを話していたら門からロイが出てきて、私たちを見つけて歩いてきた。

 ロイは大きな荷物を抱えていて、これからどうやって帰るのだろうかと少し心配になってしまう。

 乗り合いの馬車なんかに乗っていくのだろうか。


「やっほー。二人とも今から戻るの?」

「うん。私は待ち合わせの時間までもう少しあるから」

「俺はそもそも帰らねえしな」

「そっか。シャム待ち?」

「ロイのことも待ってたよ」


 休暇の前に皆の顔を見ておこうと思うのはロイも同じなようで、じゃあシャムが来るまで、と私の横に並んだ。

 三人で並んで門の方を見ていたらミーファとソミュールが出てきて、私たちを見つけて寄ってくる。


「セルちゃん!リオンとロイクン、も。誰か待ってるの?」

「シャムの顔だけ見ておこうって思って。二人はこれから?」

「そーだよぉ。僕は知り合いのところで寝るだけだけど」

「そこまで送って行ったら私は里帰り!」

「そうなんだ」


 ミーファはこの四か月ですっかりソミュール運搬係が板についてしまっている。

 ソミュールが学校生活を送れているのは半分くらいミーファの功績だろうと思ってしまうくらいには世話を焼いているようだ。


 そのまま数言話して去って行く彼女らを見送り、ついで門から出てきたシャムに抱き着かれた。

 最初は驚いていたが、シャムが抱き着いてくるのも日常になってしまったので今では何も言わずに抱き着かれている。


「どうしたのみんな揃って!もう行っちゃったかと思ってたよ!」

「顔見ておこうと思って。待ってたらみんな揃っちゃったね」

「二人とも帰りの道中気を付けてね」

「うん!セルちゃんはお店の車に乗って帰るんだもんね。リオンは冒険者活動気を付けて」

「おう。生活に困らない程度に稼いで大人しくしてるわ」


 それほど無理をしないと言っても、移動などでどうしても避けられない危険があるのでみんなお互いが心配なのだろう。

 手紙を出す先も分からないし手段もないので休みの間お互いの動向が分からないのも不安になる一因だ。


「どうしても会いたくなったらここに来ればリオンはいるもんね」

「ぜってー来ねえだろお前ら」

「来るかもよ。出店に乗っけて貰って」

「セルは来そうだな。そのまま本とか買ってんだろ」

「なんで知ってるの……!?」


 そんな話をしている間にロイが乗る予定の乗合馬車の出発時間が近付いてきたらしく、そのまま解散になる。

 一応リオンが泊まっているであろう宿の名前と場所は教えて貰ったので、何かあれば本当に会いに来るだろう。


 シャムも出発するらしく、その流れに乗って私も指定された場所に向かう。

 休み明けに全員無事に再集合出来ることを願いつつ、とりあえず今はこれから休み明けまで続くであろうお出かけの数々に意識を向けないといけない。


 確定事項として、お茶会に呼ばれているらしいので。

 楽しいが、落ち着かないお茶会なのだ。楽しいのだけれど。昔から呼ばれているので通った回数は数えきれないが、それでもあの空間で落ち着ける精神力はない。


 まあ、呼ばれたら行くけれど。

 きっと学校のことをあれこれ聞かれるのだろう、と予想を立てて一人で笑う。

 根掘り葉掘り、ではないと思うが、あの人はかなり娯楽に飢えている。


 自分の立場を気にしなくていい相手を求めているという点では姉さまと同じだが、姉さまより自由が利かない人だから仕方ないのだろうけれど。

 嫌いな相手ではないので茶会に呼ばれて話をするくらいならまあいいだろう。と納得してしまう程度には付き合いが長い相手だ。……一生慣れはしないだろうけど。


 なんて考えている間に知らされていた時間になったらしい。

 道の向こうからトマリ兄さんが歩いてきて、手を振ると陰に消えていった。

 人が多い道を渡るのが面倒だったのだろう。私の後ろ、壁の影からにゅっと現れて私の頭を雑に撫でた兄さんに笑い、そのまま揃って出店・リコリスに向かうことになった。


今回から休暇中の話になりますので、前作リコリス、前々作エキナセアの登場人物たちがちょこちょこ顔を出してくれるんじゃないかなーと思っております。

出て来てくれるといいな。

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