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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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409,忘れてた話

 荷物を部屋に置いて一階に降りると、ウラハねえがお茶の準備をしていた。

 姉さまがウキウキでそれを手伝っていたので、私はとりあえず手を洗ってくることにする。

 ソミュールは起きたかなぁ……姉さまと話したくて来たんだろうし、どうにか起こしたいけど寝ているソミュールを起こすのは至難の業だ。


 なんて考えながら手を洗ってリビングに戻り、残りの支度を手伝っている間に客間に荷物を置き終えたらしい皆がやってきたので椅子に腰を下ろした。

 ソミュールは寝たまま運ばれてきたけど、なんかむにゃむにゃ言ってるからそのうち起きるかな?


「みんないらっしゃい!来てくれて嬉しいな。話したいことも聞きたいこともいっぱいあるけど、まずは忘れないうちに一つね」


 ニコニコ笑った姉さまは、そう言って机の上にそれなりの大きさの袋を乗せた。

 ジャラ、と音がして、なんだか嫌な予感が過ぎ去っていく。

 ……なんか、なんか忘れていたことを思い出した気が……


「サフィニア様からセルちゃんたちへ、討伐報酬です。四人で分けてねー」

「多いよ!」

「私に言わないで……コガネがまあこのくらいだって言うんだもん……」

「王族からの報酬があまりに少ないと、向こうの評価に関わるからね。これで最低限だよ」


 そういえばそんな話もあった気がする。

 姉さま経由で、って言った気がする。

 しっかり経由されてしっかり渡されてしまったから、これはとりあえずロイに渡しておきたい。


「流石にそのまま置いておこう?後でちゃんと分けるから」

「分かった」

「お前ら、もうちょっと喜んだらどうだ?臨時収入だぞ?」

「額が大きすぎてちょっと」

「トマリ兄さんは大金が急に舞い込んできたらどうする?」

「とりあえず宝石に変える。その方が後々使いやすい」


 なるほど、兄さん達くらいの長命種になるとその方がいいのか。

 たしかにトマリ兄さんは、個人的にお金が必要になるとどこからか宝石を持ってくることがあった。

 あれは昔稼いだお金なのか。ちょっと不思議だったことが分かって得した気分だ。


「……あ、そういえば渡そうと思ってた物もあったんだった」

「誰に?」

「うーん……シャムちゃんとかは使えるんじゃないかなぁ……?うちの物置に眠ってたものなんだけどね、私は使わないから……」


 ちょっと待っててねーと小走りに去って行った姉さまは、物置に物を探しに行ったんだろう。

 うちの物置魔境だからなぁ……何が出て来たのかちょっと不安だ。

 トマリ兄さんが止めに行ってないから、そんなに変なものじゃ無いとは思うけど。


「見てくる」

「ええ。お願いね」


 何度も言うけど、うちの物置は中々の魔境だ。

 なので、姉さまがうっかり目的のものを見失った場合ものすごい時間がかかる可能性がある。

 トマリ兄さんもその可能性に気が付いたのか、座った姿勢でそのまま床に溶けるように消えて行った。


 そのまま壁とかすり抜けて物置に移動したんだろうな。

 種族としての特性だとは分かっているけど、便利そうだなぁって思っちゃうよね。

 まあ私だってその気になれば、ダンジョンとかぶっ壊して直進出来るんだけどね。


 我ながらおかしなことが出来るようになったなぁ、なんて思っている間に、姉さまとトマリ兄さんが戻ってきて机の上に細長い箱を乗せた。

 そんなに大きくないな。何が入っているんだろう?


「よい、せ。これなんだけどね」

「これは……望遠鏡、ではないですよね?」

「うん。説明はシオンがしてくれるよ」

「丸投げやめぇやマスター」

「だって私これ使った事ないもん。物置に放り込んだのシオンでしょ?」

「なんでバレてるん」


 掛け声付きで箱の蓋を開けた姉さまは、中に入っていた筒のようなものを取り出してシャムに渡した。

 私も見たことないんだけど……何だろうこれ?シオンにいが放り込んだっていうなら星関係かな?


「星観鏡って言うんやけど、分かる?」

「星の魔力を確認するための道具……ですか?もう作れる人がほとんどいないって聞いた気がします」

「うんうん。合っとる合っとる。魔視で覗いて夜空見上げれば、星の魔力が視えるんよ。これは俺がむかーし貰ったもんやけど、作りは変わっとらんから使えるで」


 シオンにいが言う昔って、どんくらい昔なんだろう。

 少なくとも百年は前な気がするけど、その頃から作り方が変わってないってすごいなぁ。

 ちなみに私は星の魔力云々は一切分からないので、早々に理解を諦めてスコーンに手を伸ばしていたりする。


 姉さまが薬を作るのにたまに気にしてるもの、ってくらいの認識だからね。

 シオンにいが詳しく説明したりしなかったってことは、私には必要ないものなんだろう。

 そう思って調べたりもそんなにしていないので本当に分からない。


「貰っちゃっていいんですか?」

「おん。俺もウラハも、別にそれ要らんくて見えるさかい。うちにあっても物置に置かれるだけなんよ」


 私が何故かこちらを凝視してくるリオンから目を背けてスコーンを食べている間に、シャムとシオンにいの話はまとまったようだ。

 何に使うのか分からないけど、持っていくなら何かしらに使うんだろう。


「私からの用事はとりあえずそのくらいかな。みんなはしたい事とかある?」

「あ、リオンに出店リコリス引いてみて貰いたいんだよね」

「お。いいな。出して来ようぜ」

「出店リコリスって……あれだよな?普段フォーンに来てる」

「そうそう。うちであれ魔法使わずに動かせるの、トマリ兄さんとウラハねえだけだからやってみてほしくて」


 トマリ兄さんがノリノリで影に沈んで行ったから、さっそく家の横に止めてある出店リコリスを出しに行ったのかもしれない。

 兄さんこういう純粋な力試し系好きだよねぇ。


「セルは魔法で動かせんのか?」

「うん。私は完全に風で押す感じ」

「あれねぇ、作りがしっかりしてるから重いんだよねぇ」


 のんびりと呟く姉さまを横目に窓の外を見ていると、家の影からゆっくりと出店リコリスが出てきてちょうど窓の外で止まった。

 ……とりあえずあれが先かな?それとももう少し話してから出るかな?


「んうー……ふぁ……」

「あ、ソミュちゃん起きた?」

「んー……もうついてる……?」

「うん、セルちゃんのお家だよ」

「……ソミュールが起きたなら、私たち外行ってる?姉さまとソミュールは話したい事あるんだよね?」

「そうだね、そんなに時間はかからないと思うけど」


 ずっとうつらうつらしていたソミュールが起きたので、今のうちにそちらの話を済ませて貰うことにした。

 帰るまでにソミュールがもう一回起きるかって言われたら、多分起きないからね。


 そんなわけで私たちは外に出て、リオンの出店リコリス引けるかなチャレンジを見守るのだった。


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