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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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408,一時帰宅

 宿に置いていく荷物の中に貴重品が残っていないことを確かめて、最後に杖を一回転させて薄く魔法を張る。

 これで不在中に誰かが入ってきたら分かるようにはなった。効果は数日で切れるけど、今回は一泊で戻ってくる予定だからね。


「セルちゃーん、準備できたー?」

「出来たよー。行こうか」


 扉の外からシャムに声をかけられたので、返事をして部屋を出た。

 リオン達はもう外かな?今日は快晴だから、移動は楽だと思うんだけど……


「ソミュールって起きてるかな?」

「どうだろう、さっき見た時は一応自力で立ってたよ」


 今日はミーファとソミュールも一緒に、ちょっと家に遊びに行く予定なのだ。

 明日は出店リコリスがフォーンに来るから、帰りはそれに乗せてもらうつもりで居る。

 一泊だけだからソミュールはどうするかなぁと思っていたけど、姉さまと話したいらしく一緒に行くことになった。


 四年生になってから絶対参加しないといけない授業って言うのは無くなったから、ソミュールが薬を飲む頻度は格段に減っている。

 多分それに関しても色々話があるんだろうなぁ。


「おはようミーファ、ソミュール。もう出発するけど大丈夫?」

「おはようセルちゃん、大丈夫だよ」

「ソミュール起きてる?」

「起きて……ないかも」


 ソミュールは軽いから運ぶのに苦労はしないけど、行く先が迷いの森だからなぁ……

 まあ私からすると育った場所なので特に迷ったりはしないんだけどね。

 一人なら飛んで帰るけど、みんなが居るのにそれをするわけにもいかないから、久々に森の中を歩いて帰るのだ。


 一人ずつ上から運ぶってのも考えたけど、無駄に時間がかかりそうだからのんびり歩くことにした。

 普通に歩いてるとめっちゃ迷うから「迷いの森」な訳だけど、その中心部に姉さまが住んでいるからそこに行く手段は確立されてるんだよね。


「そんなわけで、使うのがこれです」

「初めて見る魔道具だね。失せ物探しの道具に似てる」

「お、流石ロイ。大体構造は同じらしいよ。まあ、それ言ってた人が規格外だから実際そうなのかは分からないけど」


 フォーンを出て迷いの森の近くに来たところで、懐からとある魔道具を取り出す。

 紐の先に細長い石がついているだけの簡単なつくりをしているこれが、森を突破して家まで帰るための道具だ。


 紐の石がついているのとは反対の端は輪っかになっているので、そこに中指を通して石をぶら下げる。その状態で森に入ると、揺れていた石がピタリと止まって一点を向き始めるので、そこに向かって歩いて行けばリコリスがあるのだ。


「それだけ聞くとすげぇ簡単そうだな」

「うん。これが森の外なら、同じような魔道具いっぱいあると思うよ」

「迷いの森が迷いの森な理由は、道案内の魔道具が機能しないからなんだよね。……これ、機能してるけど」

「発動の条件をすっごい絞ってあるんだって。森の中でしか使えないし、持ち主の魔力を先に登録しておく必要もあるし」


 多分うっかり誰かがこれを落として別の人が拾う、なんて事があったとして、その別の人が姉さまの所に辿り着けないようにっていう安全装置でもあるんだろう。

 姉さまは能力値が色々狂っているから色んな人に狙われているのだ。横に常にコガネ姉さんが居るから今まで何も起こらずに終わっているらしいけど。


 これは私用の道しるべなので、紐は薄緑。石は姉さまの魔力を込めてあるので、こっちは薄い青のような、紫のような、ちょっと不思議な色をしている。

 綺麗なんだよねぇ、この石。姉さまの魔力の色って言われるとやたらと納得感があるし。


「……あ、マジか」

「どうしたの?」

「前まで使ってた獣道が木で埋まっちゃってる。ちょっと迂回しよう」

「そんな速度で木って育つのか……?」

「この森が迷いの森な理由は、魔道具が誤作動を起こすレベルの魔力が常に溜まってるからなんだよ」

「おう」

「そんで、森の中で暮らしてる魔獣なんかはその影響を受けて変な進化をするわけだよ」

「……おう」

「動物が影響を受けるなら、植物だって受けるんだよね。結果、とんでもない速度で木が育つから、すぐに森の中の獣道が変わるの。一年前の道は使えないことがほとんどで、毎日遊びまわってようやく把握できるくらい変わる。その辺もあって、迷いの森なんだよね」


 私は学校に行く前は結構な頻度で森の中を遊びまわっていたけど、それでも毎回道が変わっている部分があるから兄姉たちの誰かと一緒じゃないと入っちゃ駄目だったし。

 でっかい木を目印に進むことも出来るけど、でかい木はあちこちに点在しているから他の特徴を追加で認識しておかないといけないし、慣れていても迷うのが迷いの森だ。


「うーん、もう一個迂回かなぁ」

「セルリア、どこを見て判断してるの?」

「ん?あぁ、あそこ。木の根っこが浮いてるでしょ?」

「あ、もしかしてビーモーの巣?」

「そう。近付くと出て来ちゃうから、避けて行こう」


 私の頭の上から顔を出したロイが、私が見ていた先を聞いてくるので木の根っこを指さす。

 流石シャムは知っていたようで、すぐに納得の声を上げた。

 倒すのに苦労する相手ではないけど、わざわざ巣から出してまで戦う相手でもないからね。


 ビーモーについてはシャムが説明してくれているのでそれを聞きながら歩き、道に横たわる木を乗り越えて進む。

 出店リコリスが普段通っている道を使ってもいいんだけど、あれはあれでちょっと特殊なんだよね。


 出店の方にかかっている魔法が無いと、あの道は使いにくい。

 歩いて帰るなら森の中を出来るだけ直線で突っ切った方が早いのだ。

 なんて考えている間に石の向きが少し変わったので、そちらに合わせて進む先を見極める。


「今どんくらい進んでんだ?これ」

「半分くらいかな」

「セルちゃん、ずっと水の流れる音がしてるんだけど……小川があるの?」

「それはねぇ、多分地下水脈」


 話しながらのんびり歩き、視界が開けるとみんな一斉に歓声を上げた。

 分かる、木が大きいから森の中って結構暗いし、足元も悪いから慣れてないとやたら疲れるよね。

 その後に見えるこの広い敷地は、そりゃあ歓声も上げたくなるだろう。


「セルちゃーん!おかえりー!」

「わぁ、サクラお姉ちゃん。ただいま」

「主とシオンがずっとソワソワしてるよ!」


 道しるべをしまって居たら、正面からサクラお姉ちゃんが飛びついてきた。

 その直後に家の影からはトマリ兄さんが出て来たし、勢いよく玄関が開いて姉さまが飛び出してくる。本当にずっとソワソワしていたんだろうなぁ。


「おかえりセルちゃーん!」

「ただいまー!」

「皆もいらっしゃーい!」

「お邪魔しまーす!」


 玄関を出て停止し、そこから叫んでくる姉さまに叫び返してみたらみんな釣られて声が大きくなってしまった。

 思わず笑いながら歩みを進め、姉さまに抱き着いておいた。


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