407,平和なクエスト
地図を頼りにフォーンの入り組んだ道を進み、印のついている家を探す。
今日はフォーンの中で完結する簡単なクエストを受けており、私は荷物の運搬をしているのだ。
先ほど別の家から荷物を受け取ったところで、浮かせて運んでいるんだけど、目的地の家が中々見つからない。
この辺のはずなんだけどなぁ……上なのかな?
フォーンの住宅街は高低差もあって入り組んでるから、歩きなれてないと本当に迷うんだよね。
私は飛び回れるからまだマシな方で、目的地は見えてるのに階段が見つからなくて辿り着けない、なんてこともある。
「……あ、あれかな?こーんにーちはー」
「はい?あぁ、荷物。ありがとうございます」
「お名前窺ってもいいですか?」
「ノーマンです」
「ありがとうございます。ここにサインください」
「はいはい。ありがとうね」
書類に名前を貰って、これでクエストは完了なので一度ギルドに戻る。
……戻るのも大変だなぁ。飛んでいけば早いけど、国の中を勝手に飛び回るのもどうかと思うし……大人しく歩いて帰ろう。
「さて、他は終わったかなぁー」
今日は皆で別々のクエストを受けて、終わったら集合ということになっている。
なのでもしかしたらこの後待機になるかもしれないけど……とりあえず、戻ってみて考えよう。
もし待つようならギルドが見える位置で座ってようかな。
「あ、セルちゃーん」
「シャム。終わったの?」
「うん、これからギルドに戻るところ。セルちゃんは?」
「私も」
シャムも荷物のお届けクエストだったはずだから、最終目的地がこの住宅街のどこかだったんだろうな。少なくとも一人で寂しく待つことにはならなさそうで安心した。
「あ、セルちゃんごめん道間違えた」
「戻る?」
「この下の道に行きたくて……」
「よし、飛んじゃえ」
シャムの手を取って風を起こし、地面を蹴って下にショートカットする。
あんまり褒められた行為ではないけど、フォーンの住民でこれが出来る人は皆やるから、見られてなければまあいいよね、って感じだ。
ふわっと着地してシャムの手を放し、私も地面に降りて風を薄くする。
さて、見られてないね?よしよし。
ちなみに私は風でふわっと降りるけど、イザールは普通に飛び降りてたりする。
飛び降りてるのに着地の音がしないのすごいよね。猫だからって言ってたけど、靴の音はどうしても出てしまうものでは?
猫が静かなのは肉球のおかげなのでは?イザールの靴には肉球がついているの?
「あ、大通り見えた」
「よーし、帰ってきたー」
「フォーンの中はもうちょっと分かりやすくならないのかな……」
「看板置いたらそれはそれで迷いそうだよね」
大量に矢印と文字が並んだ看板は、どれがどこを指してる……?ってなって結局分からなくなるんだよね。
ちなみにここより入り組んでるのが第三大陸のキマイラで、あそこはもうすっごい入り組み方をしているのだ。
目的地は下なのに、一回階段を上がらないと行けなかったりするからね。
地元の人でも迷いがちなのがキマイラ、地元の人は妙なショートカットをするのがフォーンだ。
キマイラは、道が入り組み過ぎててショートカットすら出来ない。立体交差過ぎる。
「皆でキマイラあたりにいくのも楽しそうだよねぇ」
「キマイラ?……あ、そういえばキマイラにもアオイさんのお知り合いが居るんだっけ」
「うん。すっごい仲良いよ。会いに行くと話しこみ過ぎて絶対一日は滞在するくらい」
「すっごい仲良しだ!」
あの二人は本当に、会うたび会うたびあれだけ話していて良く話題が尽きないなぁと思う。
カーネリア様と姉さまも結構な頻度で会って話しているけれど、あの二人は仕事の話がちょこちょこ入るからね。
「よーし、じゃあ完了報告して入口集合にしよっか」
「うん」
報告の窓口はいくつかあるので、別れて同時に完了報告を終わらせる。
なんかちょっと人が並んでるけど、そんなに時間がかかるわけではなさそうだからすぐに終わるかな?今日の受付嬢さんたちは皆熟練の顔つきだ。
「次の方どうぞ」
「お願いしまーす」
呼ばれたカウンターに書類を出して、それと引き換えに報酬を受け取った。
これでクエスト完了なのでお金を鞄の中にしっかり仕舞ってギルドの入口に戻る。
さて、シャムはどこかな?もう終わってる頃だと思うけど……
「お?セルー」
「リオン。お疲れ」
「おう。終わったのか?」
「そうだよー。シャムも終わって今報酬受け取りしてると思う」
「終わったよ!」
ちょうど戻ってきたリオンと話していたら、完了報告を終えたシャムが戻ってきた。
後はロイだけど……ロイは今日、書類整理のお手伝いという中々見ないクエストに行ってるから、どのくらい時間がかかるか分からないんだよね。
「とりあえず俺も報告行ってくるわー」
「いってらっしゃーい」
離れていくリオンを見送って、シャムと一緒に邪魔にならない位置に移動する。
時計を引っ張り出して確認するとちょうどお昼ご飯の時間になっていて、今からご飯を食べに行こうと思うとどこも混んでいて時間がかかりそうだ。
「ロイはどんくらい時間かかるかなー?」
「どうだろうねぇ、場所はすぐそこだし、終わったら戻るのに時間はかからなそうだけど」
「見えるところに居たら合流は出来そうだよね」
屋台通りとかに行っちゃうと合流は難しくなりそうだし、出来ればこのあたりで待っていたい。
ただ、お腹空いてるんだよねぇ。
私が割とお腹空いてるってことは、そろそろリオンの腹の虫が鳴り響き始めるってことなんだよね。
その状態で待たせるのもなぁって思うけど……
どうしようかな。せめて伝言でも残せたら、他にあんまり人が来ない店とかに行って待ってられるだけど……ロイにだけ伝わるように長時間残せる魔法なんて無いしなぁ。
「どうする?」
「どうしよっか」
「何が?」
「うわぁ!?ロイ!?」
後ろから急に声をかけられて、びっくりして飛び退いてしまった。思わず振りかぶった杖は戻ってきたリオンに止められたので未遂だ。
何はともあれロイの方も終わったみたいだし、あれこれ考える必要はなくなったかな。




