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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
405/477

405,長期休みの初日

 校内を散歩していると、正面からヴィレイ先生が歩いてきた。

 今日も今日とて忙しそうだなぁと思っていたら、先生はそのまま真っすぐこっちに来る。


「おはようございます」

「おはよう、暇か?」

「いや流石に長期休み初日に暇はないですけど、どうしたんですか?準備室片付けましたよね?」

「急に仕分ける小物が湧いて出た。出るまで何時間ある?」

「今回はフォーンに留まるんで、連絡さえ入れればとりあえず夕方まで暇ですけど……ちょっと待ってくださいね」


 心底面倒そうに「湧いて出た」って言うあたり、本当に認識していなかった何かが出て来たんだろうなぁ。

 杖をゆっくりと回しながら時計を引っ張り出して確認し、この時間ならまだみんな部屋かなぁとあたりを付ける。


 風を起こして研究職の寮に風を向け、ロイの部屋を探す。

 場所は知ってるけど、風で探すと歩いてる時とかはちょっと感覚が違うんだよね。

 一個一個確認しながら並んだ扉を眺めて、ロイの部屋番号を見つけたのでその場で止まる。


「ローイ」


 実は乗せていた音魔法で声を飛ばしてみたら、しっかり発動していたようで扉が開いてロイが出てきた。

 周りを見て少し考えた後に目に魔力を溜め始めたので、魔力の塊を見つけて貰えそうだな。


「……あぁ、セルリア。どうしたの?」

「ヴィレイ先生に急ぎの手伝い頼まれたから、時間までに門のところ行かなかったら先に宿行っておいて」

「分かった。そうなったら宿は取っておくから、急がなくても大丈夫だよ」

「ありがとーう」


 これで連絡は出来たので、夕方までは暇になった。

 風を霧散させて接続を切り先生に向き直ると、先生はまた別の書類を確認していた。

 今日から休みだってのに、本当に忙しそうだなぁ。


「何を仕分けるんですか?」

「布だ。刺繍に魔力を込めたもので、魔視の精度が一定以上でないと分類が出来ない」

「わ、珍しいやつだ」


 確かにそれは一人ではやりたくないだろうなぁ。

 珍しいし綺麗だけど、複雑だし繊細だからしっかり確認しないといけないんだよね。

 私はモエギお兄ちゃんに見せて貰って、しっかり確認したこともあるから仕分けも出来る。


「行くか……」

「凄く嫌そう」

「面倒くさい。ノアが暇なら押し付けるんだがな」

「ノア先生も忙しいんですね」

「あっちは一年生対応だな」

「なるほど?」


 相変わらず先生の手は足りて無さそうだ。

 話しながら歩いて空き教室に入り、そこに置かれた箱を確認する。

 思ったより数がありそうだなぁ……これ、私が捕まらなかったら他の人を捕まえてやってたんだろうな。


「昼を過ぎても終わらないようなら外に食べに行くぞ」

「あ、そっかもう食堂開いてないんですね」

「今日の朝で全ての食材を使い切ったから賄いも無いらしい」

「今まではあったんですか?」

「場合による。余らないことも多い」


 そこまでしっかり調整が出来るのは、流石食堂の人たちはプロだなぁって感じだ。

 あまりが出ないように期間中にきっちり食材を使い切るのって、思ってるより難しいんだよね。

 私は最悪全部煮ればいいだろうの精神で生きてるけど、食堂でそれは出来なさそうだしなぁ。


 なんて考えながらヴィレイ先生の向かい側に腰を下ろして、箱の中の布に手を伸ばす。

 これはまた随分と複雑な……仕分けは属性ごとにするらしいので、まずは分かりやすく仕分け用の箱に色を付けておこう。


「こんなにたくさん、どこから買ってくるんですか?」

「教師の知り合いの職人が弟子を取ったから弟子の練習作が大量に出たらしい」

「なるほど。練習作でもこれだけしっかりしてれば欲しい人も多そうですねぇ」


 魔道具の研究室とかは使えるなら使いたいだろうし、鑑定のほうでも使いたいだろうし。

 あって困るものではないよなぁ、なんて思いつつ目に魔力を溜めて、持ち上げた布を眺める。

 刺繍は強度上げと耐火、属性は……


「うわぁ、最初っから曖昧なの引いた……」

「何だ?」

「爆破と炎の間みたいな感じです。刺繍は耐火だし、これどっちだろー……」


 色だけじゃ判断が難しそうなので、手の中に風を起こしてその中に浮かべてみることにした。

 風に対する反応の差でどうにか判断出来れば……いいなぁ。

 これで駄目なら別の属性で試すことになるんだけど……面倒だから、これで判別出来てほしい。


 全属性試すのだけは嫌だ……まだ一枚目なのに……

 なんて嘆いている間に、ヴィレイ先生も布を魔力の中に突っ込んでいた。

 先生の方も見分けが難しいのか。……あれ、もしかしてこれ、箱の中身全部こんな感じ?


「もう一人くらい暇な人居ないんですかね」

「職員室にメモは残してきた。魔視精度の高い奴が暇になることを祈るしかない」

「おぉん……」


 なんて細い望みの綱。そりゃあヴィレイ先生も私を捕まえに来るはずだわ。

 喋りながらじゃないとやってらんない。

 今日ソミュール起きてたりしないかな?一時間でもいいから付き合ってほしい。


「ここから叫べばミーファが聞き取ってくれるのでは」

「ソミュールは起きていないぞ」

「あ、もう確認済みなんですね」

「夢魔族からするとさほど面倒な仕分けでもないらしいからな。朝のうちに確認したが、今日は起きないだろうと昨日の夜に言っていたらしい」

「あー……じゃあ駄目かぁ。後輩巻き込むのはどうかと思うし」

「そうだな」


 うだうだ言いつつ手の中の風を霧散させ、落ちてきた布を掴む。

 地属性あんまり得意じゃないんだけど……炎と爆破を見分けるのには地だよねぇ。

 霧散させた風の代わりに、地の魔力を練って手の中で整形し、そこに布を入れる。


「……よし」

「どちらだ?」

「爆破です」


 こっちの反応は良くて助かった。

 無事仕分けが終わった布を箱に入れようと思ったら、先生が机の端に積まれた紙を指さしてきた。

 何かと思ったら、そこに刺繍の内容を書いておくらしい。


「ついでに属性も書きますか?」

「……そうだな」


 仕分けは属性ごとだけど、どこかで分からなくなる可能性はあるからね。

 どうせ書くなら情報多い方がいいよね。

 書き終えたら布に紙をピン留めして、それを箱の中に入れた。


 ……これが、まだ箱にいっぱいあるんだよね。

 はぁー……夕方までに終わるかなぁ?これ。


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