400,残るお土産は一つ
休みの日の朝、朝食を食べた後に図書館に行って、借りた本を部屋に置いてから散歩をしていたら後ろから駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
振り返ると、ルナルが杖を抱えてこちらに走ってきている。
「セルちゃん先輩!」
「ルナルー。久しぶり」
「久しぶり!杖!新しくなってる!」
「そうだよー」
軽く息が乱れているから、私の姿が見えたところから走って来たのかな?
可愛いねぇ、ととりあえず頭を撫でて、ルナルの呼吸が整うのを待つ。
……あ、その間にお土産渡しちゃおう。杖の話は忘れないだろうけど、こっちはうっかり忘れそうだからね。
「ルナル、手ぇ出して」
「ん?うん」
素直に差し出された手のひらの上にラッピングされた箱を乗せると、ルナルはコテンと首を傾げた。
そのままこっちを見上げてくるので、可愛いなぁとしみじみ思いながら頭を撫でる。
「お土産」
「おみやげ……開けていい?」
「いいよ」
ラッピングのリボンをゆっくりと慎重に解いているルナルを眺めて、邪魔にならないように頭を撫でていた手を止める。
解かれたリボンと空き箱を貰おうかとも思ったけど、ルナルは杖から蔦のようなものを出して、それを机のようにして箱を乗せていた。
「わぁ……きれい……」
「気に入った?」
「うん!」
「良かった。使い方説明するね」
目をキラキラさせてこちらを見上げてくるのが本当に可愛い。
アリアナもだけど、なんで後輩たちは皆こんなにおめめがキラキラなんだろうね?
私からはそう見えてるってだけで、実際はそんなことないのかな?
あまりの可愛さにキラキラして見えてるのかなぁなんて考えながら、ルナルのお土産にと買ってきた髪留めの使い方を説明する。
ねじって開いて、髪をはさんでねじって止める。使い方としてはそれだけだ。
説明を聞いたルナルは早速髪留めを開いて動きを確かめており、何度か小さく頷いた後杖を抱えなおして髪を弄り始めた。
……やりにくそうだから、荷物は私が風で浮かせておこうかな。
「下から全部まとめて挟めば簡単だと思うよ」
「下から……」
ルナルが髪を纏めているところを見たことが無いなぁと思ってこれを選んだんだけど、正解だったかな。
こういう作業はあんまり得意では無いようで、少し苦労しているようだ。
「出来た!」
「うん、全部纏まったね。授業で髪が邪魔な時とかにでも使って」
「ありがとう、セルちゃん先輩」
「どういたしまして」
ポニーテールっぽく纏まった髪をゆらゆらさせて、ルナルがキャッキャッと笑う。
可愛いねぇ。楽しそうにクルクル回っているから頭は撫でないでおくけど、そうじゃなかったら思いっきり撫でまわしていただろうなぁ。
そのまましばらくはしゃいでいたルナルは、ひとしきりはしゃいで落ち着いたのか私の正面に戻ってきてこちらを見上げた。
動いたからかちょっと血色が良くなってる。
「セルちゃん先輩、今回はどこまで行ってたの?……ですか?」
「ガルダを通ってイツァムナーから第五大陸に渡って来たよ。……そういえばルナルはキニチ・アハウの出身なんだっけ」
「うん。アハウ、どうだった?」
「魔力の量が凄くて、酔っちゃうからあんまり観光出来なかったんだよね。ルナルは国の中に居ても大丈夫なの?」
「研究所は外の魔力を遮断してるの。外に出る時は、遮断用の魔道具がある、です。あと、そういうのが得意な人もいるから、その人と一緒なら平気」
初めて会った時にキニチ・アハウから来たって言ってたなぁと思って聞いてみたら、何やら面白そうな話が出てきた。
魔力遮断用の魔道具があるのは知っていたし、自分の魔力を吸うタイプのものなら使ったこともあるけど、遮断が得意な人がいるのが居るなんて知らなかったな。
自分の魔力を遮断して探知から隠れる事なら出来るけど、自分のではなく周りの魔力を遮断するってのはどうやるんだろうか。
しかもそれで他の人も影響範囲に入れられるのか。……気になる。私も出来るようになるかな?
「セルちゃん先輩の杖は、ガルダで作ったんですか?」
「うん。前の杖と同じ職人さんに作ってもらったんだ」
「カッコイイね」
「ふふふ、そうでしょうそうでしょう。ルナルの杖はキニチ・アハウで作ったの?」
「うん。いっぱい工房あるよ」
イツァムナーは同盟国内で大体のものは手に入りそうだよねぇ。
そういえば結局、リオンは剣を新しくはしなかったな。色々見てはいたけど、ビビッと来るものはなかったらしい。
ロイもそんな感じで、イツァムナーでの買い物はほとんどしなかった。
まあ急ぎでもないから今後ものんびり探す感じかな。どこの国にいい職人が居るかとか、意外と分からないからね。
そろそろ休みにもなるし、手元から離れても大丈夫になる期間はそのあたりだよね。
私は杖が新しくなったばっかりだから、やることと言えば魔力を通して魔法ぶっ放すくらいかな?
魔導器は魔力を込めすぎると壊れるけど、ある程度は通していかないと手に馴染まないのだ。
この杖は最初から私用に作られただけあって今の状態でもかなり馴染んでいるけど、これからもっと馴染みが良くなる。
楽しみだなぁ。へへ。
「……あ、そういえばルナルは最近授業とかはどう?少しは楽しめてる?」
「ん、ちゃんと受けてる。ひとり、良く話す子も出来た」
「そっか、良かったねぇ」
「うん。……あのね、授業で魔法使いは皆別々になるでしょ?だから、話す時があんまりないの。どうしたらいいのかな?」
「あー……そうだねぇ。来年になったら科目選択あるから、そこで一緒になる魔法の人とは割と話すようになると思うよ。後は、気になる魔法を見かけたらそれを口実に声をかけてみたり……?私はそれで声かけられることが多かった……気がする」
「……ん、分かった。頑張ってみる」
私も自分から声かけに行ったりは苦手だから、あんまりいいアドバイスが出来なくて申し訳ない。
大体声かけて貰うことしかなくてね……先生に声かけに行く時ですらシャムについてく感じで行ったし、なんならヴィレイ先生が先に声かけといてくれたりするしなぁ。
私が遠慮せずに甘えてるのもあるけど、周りが皆私に甘いんだよね。
うーん、甘やかされて育った末っ子の何かしらがあるのかな……?ロイもやたらと私を子供扱いするし、そういう気配があるのかもしれない。
そんなことを考えながらルナルには先輩面をして、頭を撫でつつその後ものんびり話をして、夕飯前に解散した。
遂に四百話に到達しました。すごいね。
四年生になってから時間の進みが遅いせいでなんか全然進まないので、まだまだ続きます。
ブクマ、評価、いいね等ありがとうございます!
まだラストスパートとは言えない感じですが、終わりは見えて来てる気がするので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




