4,予想済みの診断結果
入学式の翌日、通常の始業と同じ時間に教室に集まった入学生たちは他の組の人も合わせて全員で移動をしていた。
向かった先は教室よりも広い部屋。
部屋の中心には魔法陣が描かれていて、他の物はほとんど置いていない。
何となく何をするのか察して、杖をきつく握っていた手を緩める。
分からない人たちも多いのか部屋の中は騒めいていたが、前に立っている先生たちが気にした様子はない。
ヴィレイ先生が魔法陣に魔力を込めると、魔法陣が光を放ち始めた。
それを見て余計にざわめきが大きくなるが、もう一人の先生がパンと手を叩いただけで声は止む。
「はい、今から魔法適性と属性を調べます。魔法適性の内容は、知っている人もいると思いますが説明するので一度聞いてくださいね。
魔法適性はその名の通り、魔法を扱う才をどの程度保有しているかという基準になります。魔力量とは違うので間違えないようにしてください。
単位として、上からA+、A、A-、B+と下がっていきます。下はDが最低ですが、Dは魔力を持たない種族を表す値なので皆さんの最低値はC-だと思っていて下さい。
一般的に魔法使いとされる人たちは基本的にBより上の適性を持つものとされています。それより低いと、中位魔法から扱えないものが出てきますからね。
魔法使いでない人たちは、C値でも気にする必要はありません。ひとつのデータ程度に思っていてくださいね」
丁寧な説明をする先生の後ろで、魔法陣は準備を終えたのか一旦光を収めた。
周りに魔法使いがいないと、自分の属性も適性も知る機会がないものだと姉さまが言っていた。
私は姉さまに拾われて周りが魔法であふれていたが、そうでない人も当然いるのだろう。
「もう一つ、属性についてですが、これは魔力の種族、とでも思っていて下さい。
扱いやすい属性、相性のいいものです。その属性でなくとも扱える魔法もありますし、気にしすぎるものでもありませんので」
そういって話を締めくくって、先生は後ろを振り返る。
準備を終えた魔法陣の横で、ヴィレイ先生が頷いているのは、始めていいということなのだろう。
「さて、じゃあ席の並びで順番にしましょうか。こちらの組の左前から行きましょう」
最初に選ばれた人は可哀そうだ。どうしたって他より視線を集めてしまう。
かといって、やりたい人からと言っても進んで前に出る人がいるとも限らないので仕方ないのだろうけど。
適性も属性も何となく分かっている身からすると、少し暇な時間だ。
手に持った杖を弄っていると一人目は調べ終わったらしい。
時間はそうかからない。流れるように二人目が始まり、魔法適性も属性も公開しないので淡々とことは進む。
しばらくぼんやりしていると、順番が回ってきた。
前に出ると杖は預かると言われたので素直に預け、魔法陣の中心に立つ。
そこで少しじっとしていれば調べ終わって文字が浮き出た紙を渡され、杖も返してもらって人ごみの中に戻るだけだ。
作り物のようなきれいな字で書かれていたのは、
「魔法適性 A+ 属性 風」
の文字。
……知ってはいたので驚かないが、まさか本当にA+で出てくるとは思わなかった。
姉……時々兄になるが、まあ姉である。姉の一人が魔法特化種族であり、家を出る前に多分A+で診断が出る、とは言われていたのだ。
紙を眺めている間に最後の一人まで診断は終わったようで、先生たちに先導されて教室に戻り、席に着く。
この教室の良いところは、机の横に杖をひっかけられる突起が付いているところだ。
これなら倒れないし取られない。
杖は魔法使いの命ともいえる道具なので、常に持って移動するように作られた机なのだろう。
「さて、自分の魔法適性値も分かったところで在学中の流れを説明する。
一年目は、全ての基礎を齧りつくしていくことになる。その中で、やりたいことか向いていることを見つけておけ。
二年目に入ると一つ、最優先となる専攻授業を決める。
三年目にもう一つ専攻を決め、二年目に選んだものと合わせて時間を見て他の授業も選ぶ形になる。
四年目は基本自由だ。何もしないことは許されないが、何か自分の時間を使う方法を決めてそれをやっている限り問題はない。あまりさぼると全て泡と消えることを忘れずに自分を磨け。
そのまま問題がなければ晴れて卒業だ。
ある程度何かを身に付けておけば職場を探して推薦もしてやる。今後生きていく方法が定まっていないやつは励めよ」
言いながら配っているのは、授業の一覧が書かれた紙らしい。
二年目になったら、ここから授業を選ぶことになる。
まだ先の話だけれど選ぶのは楽しそうだ。……楽しそう、と言っても、きっと魔法の攻撃分野を選んでしまうだろうけど。
結局それが好きだしそれが一番やりやすかったので仕方ない。
風で飛ぶのも風で飛ばすのも楽しいのだから、まあ仕方ないのだ。
「さて。後は……ああ、そうだ。今日は昨日回らなかった敷地内の施設に向かう。その紙は無くしても次はやらんから各自取っておけ」
言いながら耳に当てたのは、通信用の魔道具のようだ。
魔力を込めると使える、さまざまな効果をもった道具。
魔法を扱うのが苦手な姉さまでもしっかり扱える優れものである。
「行っていいか?よし。移動する、ついてこい」
耳に当てていた魔道具をどこかへしまった先生は颯爽と歩き出し、見失う前にと慌てて杖を抱える。
急いで教室を出ると、先生はそこで待っていた。
十人ほどが廊下に出たタイミングで歩き出してしまうので遅れかけた人は生徒の背を追ってくることになるのだろう。
考えているあいだに先生は校舎の外へ出ている。
後を追っていくと、向かう先に林が見えてきた。
食堂の中から見えていたので、気にはなっていたのだ。
目的地はその林かと思ったのだが、違うらしい。
林の左側に向かうようだ。
後ろからついてきていた人たちは走ってきたのか息を切らしていたが、追いついたらしい。
ヴィレイ先生はなんというか、突き放してみてついてくる人だけ面倒を見る、みたいな。全員を同じレベルに、とか考えるひとではないらしい。
悪い人ではないと思うのだが、性格は悪いのかもしれない。姉さまと知り合いらしいのに「キャラウェイ」と呼んでいるし。
「見えてきた。あれだ」
失礼なことを考えている時に振り替えられるとびっくりしてしまう。……全面的に私が悪いけれども。
余りに余った布で覆われている手の示す先には巨大な柵と巨大な建物があった。
校舎よりは狭いのだろうが、それでもかなり巨大な柵。
広い草原を囲むその柵に何人かが息をのんでいる気配がする。
「この先は獣の飼育小屋だ。飼育の教師が抑えてはいるが、今のお前たちで敵う相手ではないものが生活している。うかつなことをして食べられるなよ」
ここまで来てから、そんなことを言う。逃げた方が危険なのだろうし、逃がすつもりもなさそうだ。
前を歩いていた人が何人か下がったせいでだいぶ前の方に来てしまったが、まあ楽しみなので良しとする。