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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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399,何度目かの杖自慢

 夕食を食べた後、部屋に戻って昨日は確認しなかった手紙を確認し、家に手紙を書くことにした。

 無事に帰って来たよーって話とか、新しい杖が何故が作られていたんだが?って話とか、後は単純に旅の道中も話を色々としたいからね。


 全部書いたらとんでもない量になりそうだからある程度書く内容は絞って行こうと思うんだけど……何を書いて何を書かないことにしようか。

 とりあえず楽しかった事とかは書こうと思う。そのあたりは省く理由も無いしね。


 戦闘とかの話は特に書かなくてもいいかなぁって思うから、時々あった魔物との遭遇は飛ばそう。

 あ、でもハルフさんに会った話はしたいからそこだけはちょろっと書こっかな。

 姉さまから貰って四年間カバンの中に入ってるだけだった軟膏がついに役に立ったよーって報告もしたいしね。


「……これは後で。こないだ会ったし」


 質の良い封筒は一旦端に避けて、見なかったことにしておく。

 上に家からの手紙の封筒を乗せて完全に見えなくしてしまおう。後で、後でちゃんと確認するから。

 なんて何かに対して言い訳をしながらレターセットを取り出して、インクの色を選ぶ。


 どうしよっかな、青にするか、紫にするか。

 ……ここはあえての桃色にしておこうかな。瓶が可愛くてつい買っちゃったんだけど、あんまり使ってないからね。


 授業では使わないから、家への手紙か自分用のメモくらいでしか使う所がないんだよね。

 それも普段使ってる深い青のインクをそのまま使っちゃったりもするから、本当に減らない。

 まあ、そっちのインクもこの二か月くらい使ってない訳だけど……座学の授業も出たいな。


 なんて色々考えながら、旅のことに思いを馳せる。

 なんだかんだ楽しい旅だったなぁ。最初の方は、早く杖新しくしたいって思いが強くてあんまり楽しめてはない感じだったけどね。


「んーっと……あ、ケートスの事も書こう」


 旅の道順通りに楽しかったことを手紙に書いて、いつもより大分枚数が増えた手紙を封筒に突っ込んだ。

 うーん、隙間が無い。サフィニア様への返事は次の機会にしよう。


 手紙は明日の朝に出しに行くことにして、今日はもう寝た方がいいかな。

 書くのに時間がかかったから、もう大分夜遅い時間なんだよね。

 さっきから欠伸が止まらないし、机の上を片付けたらさっさと寝よう。





 かふり、と欠伸を零して、朝の身支度を終えた。

 杖と手紙を持って部屋を出て、食堂に行く前に中央施設に行って手紙を出した。そのまま中庭を突っ切って食堂に向かう。


「あっ、セルちゃん」

「ミーファ!久しぶり」

「うん、久しぶり。帰ってきてたんだね」

「一昨日ね。ミーファはこの一か月くらい何してた?」

「いつも通り、授業に出たり、フォーンの周りでクエストに出たりしてたよ。またセルちゃんたちともクエストに行きたいな」

「そうだね、また一緒に行こう」

「ソミュちゃんもみんなの事気にしてたよ」

「お、じゃあ探して声かけてみようかな」


 食堂に入ったところでちょうど出るところらしいミーファとばったり出会って、少し話をしてから別れた。

 適当に朝食を選んで席につくと、すぐにロイがやって来たので持ち上げたティーカップを一度置いて片手を上げる。


「おはようロイ」

「おはよう、セルリア。今日は少し遅かった?」

「手紙出しに行ってたの」


 いつもの事なので軽く答えて、一度置いたティーカップを手に取って口をつける。

 うん、美味しい。見たことない名前の茶葉だったけど、今度市場で見かけたら買ってみてもいいかもしれない。


 そんなことを考えつつ、今日の予定をロイと話しながら朝食を食べて、四年生以外が居なくなってから移動を始めた。

 ロイは図書室に寄ってから授業に参加するらしいけど、私はどうしようかな。


「セルリア」

「うわ!ビックリした……サヴェール?」

「うん。おかえり」

「ただいま。どうしたの?」

「ベルベティ先生が、セルリアの新しい杖が気になるから暇なようなら連れてこいと言っているんだ」

「あぁ、なるほど。今暇だけど、行っていいのかな?」

「なら一緒に行こう」


 食堂を出て廊下をのんびり歩いていたら、後ろから急に声をかけられた。

 びっくりしてちょっと跳ねちゃったけど、声をかけてきたサヴェールが気にした様子はない。

 後ろから忍び寄ってくるのはやめて欲しいなぁ……そんなつもりはないのかもしれないけどね。


「俺もセルリアの新しい杖は気になっていた」

「いいでしょー」

「うん。格好いい」


 魔法使いたちが皆カッコイイって言ってくれるから、嬉しくなって毎回自慢しちゃうな。

 実際この杖凄いカッコイイからね。ふふふ。

 なんてったって明らかに魔導器なのに、槍のような形状なのだ。


 何度目かになるウキウキな自慢をしている間に、ベルベティ先生の担当している研究室である魔導器工房に到着していた。

 サヴェールがその扉をノックすると、すぐに扉が開いてベルベティ先生が顔を出した。


「あら、あらあらまあまあ!セルリア!来てくれたのね、どうぞ入って」

「お邪魔します」

「サヴェールもありがとう、わざわざ声をかけて来てくれたのね」

「俺も気になってたので」


 顔を出したベルベティ先生は、パッと表情を明るくして扉を開けて中に入れてくれた。

 教室の中には他に人はおらず、入ってすぐに先生がお茶を出してくれたので進められた席に座る。

 杖は……机の上に乗せておく方がいいか。


「まぁ……!素晴らしい杖だわ……」


 ベルベティ先生が杖を眺めて感嘆の声を上げているので、とりあえず邪魔しないようにお茶を飲んで待つことにした。

 魔導器職人が杖に対してテンションが上がるのと、魔法使いが杖に対してテンションが上がるのは別の部分に対してだからね。


「……あら、この杖何かと同期されてるのね?」

「はい。リングと同期されてます」

「五つあるみたいだが?」

「全部同期されてるよ」

「全部……!六つの魔導器を結びつけるだけの技量……!私ちょっとガルダまで行ってみようかしら」


 わあ、アンドレイさんの技量がまた知れ渡ってしまったなぁ。

 本人が自分のあれこれに興味が無いから、こうやって広まってくれるのはちょっと嬉しい。

 とはいえベルベティ先生がガルダまで行く余裕はあるんだろうか。


 このままの勢いだと突撃していきそうだけど、そのあたりは常識人なベルベティ先生を信じよう。


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