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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
397/477

397,新しい杖のお披露目

 午前中はちょっと雲があったけれど、午後になったらそれも流れて少し日差しが出てきた。

 そんな外庭を歩いて、授業の場所に向かう。

 今は六限の終わりごろの時間でまだ終わっていないので、私以外に人は居ない。


 でもまあのんびり待ってればいいかなって思って来たので、予定通りボーっと空を見上げて待つことにした。

 この場所の七限は攻撃魔法なので、ほとんど遊びに来た感じになっている。


 今日はやるとしても杖の性能チェックと風の槍の試し打ちだろうし、疲れるほど何かをするってことは無いと思うんだよね。

 なんて考えていたら鐘が鳴り、建物の方に吹かせていた風に人の気配が増えてきた。


「あー!!セルリア先輩だぁー!!」

「おぉ……びっくりした……元気だねぇグラシェ」

「久しぶり!えー久しぶり先輩!帰ってきてたんだー!」

「昨日ねー」


 突然でけぇ声が聞こえてきたと思ったら、すごい勢いでグラシェが寄ってきた。

 わーすごい、ブンブン振られた犬の尻尾が見える。

 一緒に来たんだろうお友達が戸惑って遠くにいるけど、あれはいいのかい?


「先輩杖変わってる!?」

「折れたからね」

「折れたの!?」


 もう勢いが本当にすっごいんだから。

 あまりの声量に周りの人もちょっとこっち気になっちゃってるじゃん。

 というか、そうか。杖が折れてすぐに出発したから、折れたことも知らなかったりするのか。


 先生たちが当然のように知っていたから、何となくみんな知っている気がしてた。

 そっか、長めの遠征をしていた理由とかも聞かれそうな感じだなぁ。

 別に聞かれて困る事でもないし、杖折れたら大変だから気を付けるんやで……って後輩たちに言って回るくらいのテンションで居るんだけどね。


「新しい杖もカッコイイね!」

「そうでしょう!いいでしょう!」


 本当に格好いいんだからこの杖は!

 なんてテンションが上がっていたら鐘が鳴って、先生がやってきた。

 私とグラシェが何やら盛り上がっているのを見てにっこり笑っているけど、あれは圧じゃなくて新しい杖に対してテンションが上がっている事への理解なので大丈夫。


「はい、授業を始めますよ。セルリアの杖が気になるのは分かりますが、グラシェは別の内容です」

「えー」

「放課後暇なら放課後に遊ぼうか」

「分かった!あとでねセルリア先輩!」


 元気よく去って行ったグラシェは先生からの指示で少し離れたところを陣取って杖を構えている。

 それを見送って、先生が戻ってくるまで待機かな。

 四年生の指示は大体最後だから、最初の時間は基本的に待機だ。


 今日は多分私が最後だろう。先生が横で一緒に見ていくだろうからね。

 そんな予想を裏切らず、他の四年生たちと一緒に授業の出席表を出した後にもう一回待機時間が発生した。


「さあ、セルリア。まずは何からやりましょうか」

「聞いてください先生。何とリング五つと同期されてるんですこの杖」

「ほう……それはそれは」


 ジャンっと指を見せると、先生の目がキラリと輝いた。

 エマさんの同期リングの話を聞いた時もそうだったけど、先生も魔導器の同期に興味があるんだろうなって感じの反応だ。


「リング同士も同期されているんですか?」

「はい。なので杖とリングで六つが同期された魔導器になるらしいです」

「凄いですね……ガルダの職人だと言っていましたよね」

「そうです。クリソベリルのモクランさんも同じ職人さんに作ってもらってますよ」


 そんな話をしながら杖を地面に降ろし、リングに魔力を通して杖を手まで引き上げた。

 結びついているから、わざわざ意識しなくても引っ張って来れるのは本当にいいよね。

 風を起こしたりしていないのは先生も分かっているだろうから、魔導器同士の繋がりが見えていいんじゃないかな。


「杖の探知も出来るんですか?」

「はい。なんかある程度なら追跡も出来るらしいです」

「素晴らしい!」


 その後も杖の性能を話題に盛り上がり、ある程度話終わったところで風の槍を撃ってみることになった。

 私は杖を買い替えてすぐに撃ったけど先生には見せてないし、実はどうなるかを話してもいないからね。


 事前情報なしで見せた方が驚いてくれそうだなぁっていう雑な理由なんだけど、ノア先生もよくそんな感じの事をやってるし、まあいいでしょう。

 なんて考えていたら先生が何やらバキバキと音を立てて的を作成していた。


「なんでそんな音が鳴るんですか……?」

「なんででしょうねぇ?」


 本人にも分かっていない謎の音、あまりにも怖くない?

 木か何か混ざってるのかな?先生の属性は氷のはずなんだけどなぁ。

 私も最近木属性の魔法をちまちま練習はしているけど、そんな音がするのはいつになるだろうか。


「さあ!出来ましたよ!」

「はーい」


 ウッキウキな先生に声をかけられて、浮かんだ的に杖を向ける。

 ゆっくりと杖を構えながら魔力を練って、腰も落としていく。

 演唱はフル演唱で。練り上げた魔力が徐々に渦を巻いていくのを感じながらゴリゴリに練り上げて行って、最終的には足元にも風が起こって私もちょっと浮いた。


「穿て、ウィンド・ランスッ!」


 演唱が完了するのと同時に地面に降りて、しっかり踏み込んで風の槍を前に押し出す。

 放った魔法はゴリゴリと音を立てて地面を削りながら進んで行き、的に当たっても止まらずに的を巻き込んで地面を抉っていった。


 他の人への被害が心配になるくらい進んでたけど、そこは皆ちゃんと避けてくれたし先生も途中で止めにかかってくれたから被害は出なかった。良かった。

 自分でやっといてなんだけど、えぐい威力だなぁ。


「セルリア!」

「はい!」

「風の槍には付属効果があるんですね!?」

「あるらしいです!私の魔力は渦巻いてるらしいです!」


 抉れた地面を観察していたら、過去一テンションが上がったノア先生が駆け寄ってきた。

 おお、凄い。まるでレークさんみたいなテンションの上がり幅だ。

 私も最初撃った時はかなりの大はしゃぎだったから人の事言えないけどね。


「せんぱーい!これ何どんな魔法ー!?」

「前から使ってる風の槍だよー」


 割と遠い場所で別の事をしていたはずのグラシェまで寄ってきて、これはもう収集がつかなさそうな感じになって来たな。

 こうなったらとりあえず一旦全てを諦めて、クリソベリルの所で調べた内容を語っておこう。


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