396,思わず笑いも零れる
ぼーっと校内を歩いていたら、廊下の角からヴィレイ先生が現れた。
今は午前中の授業時間なので、なんというかお互い暇なのかな?って感じだ。
そして、ヴィレイ先生が私を雑務や掃除に誘う時の台詞は大体
「暇か?セルリア」
なのだ。これ、一年生の時から変わらないんだけど、多分最初は放課後に研究室に行く可能性とかも考えて聞いてくれてたんだろうなぁ。
今となっては「そういうもの」になってる感じがするけどね。
「暇です。……そういえば、休みよりも長くいなかったですもんねぇ……何回雪崩起こしました?」
「数えていない」
「そんなに崩れたんだ……」
並んで魔術準備室に向かいながら、総崩れを起こしているであろう準備室に思いを馳せる。
今まで片付けない最長期間は休みの間の一か月だったけど、今回はそれよりも長い期間居なかったからなぁ。
正直、ヴィレイ先生の研究室の事は今日の朝に食堂でボーっとお茶を飲んでいる時に思い出したんだよね。
なんかもう一周回って冷静になったからそのまま校内をお散歩してたんだけど、そこでばったり会ったあたりもしかして探されてたりしたんだろうか。
「……ははっ」
「なんだその反応は」
「あまりの惨状に思わず漏れた笑いです」
ゴチャ……っていうか、ドチャ……っていうか、物が散乱しているってよりは、山が形成されて崩れてを繰り返してそうな感じっていうか……
まあ散乱はしてるんだけどもさ。なんかさ、地層みたい。
「前に姉さまと地層見たんだよなぁ」
「流石にそこまで積み上がってはいない」
「感覚がマヒしていらっしゃるようで。これは地層です」
もうさっさと始めないとお昼ご飯の時間になっちゃいそうだから、まずは床に落ちた物を回収していく。
机の下にもまた色々と落ちてるなぁ……紙はまだ分かるけど、なんで本が落ちてんだ?
「先生、とりあえずそこの机開けましょう。もう最悪どんな開け方でも構いやしません」
「ああ」
杖で床を突いて風を起こし、回収したものを浮かせていく。
ついでにヴィレイ先生に雑なお願いをして、私はいつも通り機能していない棚を機能させるために棚の前のものを退かすことにした。
なんか色々と分からんものが出てくるけど、一旦退かさない事にはどうにもならないよね。
さあドンドンいこう。なんか謎の水晶みたいなのも出て来たけど、とりあえず浮かせておけば割ることも無いし邪魔にもならない。
「杖の作成に時間がかかるかと思っていたが、戻ってくるのが随分と早かったな」
「あー……なんか、行ったらすでに作られてました」
「そのリングもか」
「はい。同期した魔導器に興味があるって話したことがあったんですけど、その時に作ってたみたいです。代金も既に支払い済みだったので、予定が大幅に縮まりまして」
「キャラウェイか」
「姉さまと姉さまのお師匠さんらしいです」
ため息が聞こえて来て、思わず苦笑いをする。
私も同じような反応をした気がするなぁ。まあ、私は杖の性能にテンションが上がってたからアレだけどね。
「ん?なんだこれ」
「……そこにあったのか」
「何ですか?これ」
「これから加工する道具の部品だ」
「何故ここに……?」
よく分かんないけど、見つかって良かったって感じかな?
そんなものを雑に置いておかないで欲しい気持ちもものすごくあるんだけど、言っても仕方ないから出てきた小石のようなものを先生に渡して、大量の紙類を浮かせて積んでいく。
「イツァムナーにも行ってきたらしいな」
「はい。卒業した先輩にも会ってきました」
「そうか。道中、何か問題などは?」
「……あ、第五大陸の、ムスペルで悪魔種に遭遇しました」
「詳しく聞かせろ」
これには流石のヴィレイ先生もビックリ。なんて脳内で呟きながら船を降りた後あたりからの流れを説明して、悪魔種については先生が知っているだろうから雑に省いておく。
足りないところは聞かれるからね、その時に補足して行けばいいのだ。
「災難だったな。早々に気付いて逃げられたのは幸いだったか」
「そうですね、最悪リオンが気付いた気もしますけど」
「また鬼人の魔力濃度が上がっていたな」
「そうなんですか?なんか最近目ぇ光ってること多いなぁって思ってたんですよね」
身体の中で魔力を回して濃度を高めていくと、暗闇でも物が見えたり色々便利だから野営の間はよくやってるとは聞いていた。
だから私が起きた直後とか、よくリオンの目がぼんやり光ってたりするんだよね。
「後は……ミョービスピュ?だっけ?って鳥と遭遇しました」
「どうなった?」
「叩き落しました。何なら落とした後に詳細を聞きました」
「そうか。まあ、お前なら落とすことも難しくないだろうな」
「あれってやっぱり地上から狙うと面倒くさいんですか?」
「ああ。一度校内からでも確認できる位置に出没したことがあったが、その時は業を煮やしたノアが地上から氷で道を作ってグラルとカルレンスを射出していた」
「わぁ……」
想像してみたらあんまりにも派手な光景で、思わず声が漏れてしまった。
だって、ノア先生が業を煮やしてってことは、遠慮のない全力の氷ってことでしょ?
そんなの幅も長さもいつもとは段違いだろう。
そんな派手な足場から、グラル先生とカルレンス先生が飛び出していくんでしょ?
見てみたいなぁ、その光景。傍から見てる分には楽しそう。
……とりあえず分かるのは、グラル先生とカルレンス先生は、上空に射出されてもどうやってか無事に着地が出来るらしいってことだね。
「あの時はアリシアが地上で待機していたな」
「なるほど」
気になったので聞いてみたら、納得の答えが返ってきた。
アリシア先生は補助魔法の先生だしハーフエルフだし、回収用に魔法を張っておいてくれたんだろうな。
猶更見たかったなぁー。いつあったんだろうその事件。
何かしら手伝うってなったら気を遣うし大変そうだけど、見てるだけなら絶対楽しい。
先生たちの全力ぶっ放し魔法コンボは楽しくない訳がないんだから。
「ん?……先生、明らかに私が見ない方がいいものが出てきました」
「あぁ、それか」
棚の前に積まれた書類やらなんやらを浮かせていたら、見覚えのある名前が並んだ紙が出てきたので、見ないようにして先生に渡す。
話してる間も手は動かしてたんだけど、まだまだ棚の前に物が多いなぁ……




