394,ほどほどに真面目なお話
笑みを湛えたサフィニア様の雰囲気は、どこか柔らかい。
……いや、普段から温厚な人ではあるんだけど、なんかこう、直近で会ってた時がカーネリア様成分マシマシだったからさ。
長期休みの事件を思い出して思わず目を逸らしたら、サフィニア様の従者さんと目が合った。
お辞儀をされたのでお辞儀を返して、こういう所にもついて来るのかぁとぼんやり考える。
そういえば、あの人も物理で強いんだっけ。カーネリア様のメイドさんも強いらしいから、護衛の役目もあるのかもしれない。
まあ、護衛されるはずの王族が一番強いとか普通にあるのがイピリア王族だから、思わず遠い目になるけどね。
なんて思いつつ目線を戻して、現実に向き合う。
「セルリア達は、フォーンに戻るところかい?」
「はい。ちょっと遠出をしておりまして」
手紙の返事も送ってないし、多分察してはいたと思う。
サフィニア様は頭いいからね。というか、私が遠征している間に一回くらいは姉さまがお茶しに王城まで行ってそうだし、その時に話題にもなってそうではある。
「それにしても……ふふ、母様に羨ましがられてしまうな」
「カーネリア様に?なにをですか?」
「セルリアの魔法を見ることが出来たことを。母様はわざわざ予定を組もうとしていたくらいだから」
「無しになったようで非常に安心しています」
「……まだ、諦めていないかもしれない」
「止めておいてくださいお願いします」
カーネリア様……魔法見たいって仰ってるのは姉さまとかから聞いてたし、何なら本人からも言われたことあったけど、まさかそこまでだったとは。
流石に目立つだろうし、わざわざお越しいただくのはちょっとね……
今後も止めておいて欲しいです、とささやかな要望を伝えたら、サフィニア様はにっこりと笑った。
うーんこれは別に止めてもくれないやつ。仕方ないので、せめて卒業を待ってもらおう。姉さまとカーネリア様がイピリア国外で会うってことになったら、それについて行く感じにすれば私へのダメージはちょっと減るだろうし。
なんて話していたらサフィニア様が従者さんに呼ばれて、そちらに歩いて行った。
そうだよねぇ、この団体さんのトップ、確実にサフィニア様だもんねぇ。
私とばっかり話しているわけにはいかないだろう、と納得していたら、サフィニア様が完全に離れたと判断したのかリオンとシャムが両サイドに現れた。……ロイも真後ろにいるな?これ。
「セルちゃん、ふっつうに話してたね……?」
「割と普段忘れてっけど、お前もアオイさんの影響受けてやべぇ人たちと知り合いなんだよな……」
「まさか王子と個人的に話すくらいの仲の良さだとは思わなかったよ」
「……サフィニア様は、割と昔から会ってるからね……姉さま曰く幼馴染に換算してもいいのでは、って感じらしいからね」
はわ、と声を出して、シャムが腕から離れていった。
距離を取らないでよ、悲しくなるじゃんかよ……やめてよー。
悲しみのままにシャムに手を伸ばしていたら、ロイが頭を撫でてくれた。……その全てを諦めた笑顔も悲しくなるね?
そんなことをやっている間にサフィニア様が戻ってきて、三人がスッと後ろに下がってしまった。
生贄のごとく私を捧げるのやめようね?目の前の王子様は察しがいいし賢いから、みんなが自分を若干恐れて私を捧げたのバレてるからね?
ほらもう、凄い笑ってるじゃんか。
「ふふふ、仲が良いんだね」
「そうですね。何だかんだ四年間ずっと一緒にいますので……」
「そうか。……さて、本題なんだけれど、ミョービスピュの討伐報酬について話しても?」
「シャムー、ミョービスピュってどれー?」
「セルちゃんが落とした鳥だよ」
「あぁ、あれか。で、えっと、討伐報酬ですか?」
「ああ。詳しい説明は……しなくても大丈夫そうだね。今回手間取ったのはミョービスピュが原因なので、その討伐に対しては報酬を払うべきだという話になった。同時にモリュヴィ……地上に居た、群れの魔獣の討伐にも報酬を支払いたいんだが……嫌そうだねぇ」
あ、バレた。別に隠すつもりもなかったけど、楽しそうに言うものなのかな?
というか、説明してる時の雰囲気カーネリア様にそっくりですね。
やっぱりどんどん似てきてるなぁ、なんて現実逃避をしていたら、後ろから背中をつつかれた。はい、真面目にお話聞きます。
「今からは絶対に嫌だね?」
「だって絶対目立つじゃないですかぁ……」
「それはそうだろうね。だから、今すぐに報酬を受け取りたいわけではないのなら、アオイさんに渡しておこうかと思うんだ。ちょうど母様と約束があるらしいからね」
「その方が有難いです。……いいかな?」
「セルちゃんが楽なようにで大丈夫だよ」
「じゃあ、それでお願いします。姉さまの方が色々慣れてるだろうし」
「分かった、ではそのように。即日ではないことに関して何か言われたら、こちらの都合だと言っておいてくれ」
「……何か言われることがあるんですか?」
「無いとは思うけれどね、念のためだよ」
なんだかいっぱい気を使ってもらったみたいだ。
とりあえず話もまとまったし、シャムとロイからも追加のお話はないみたいなので、これで必要なことは全部終わったかな?
サフィニア様の方も話している間に事後処理が終わったようで、もうイピリアに戻るらしい。
まあ、もし何かあっても姉さまに話が行くだろうから大丈夫だろう。
最後に従者さんにもう一度お辞儀をして、一言だけ話して別れた。
「はー……びっくりしたぁ」
「私もビックリしたよ。もう本当に、心臓に悪い……」
「それにしちゃあ話し慣れてたけどな」
「それとこれとは別なんだよなぁ……」
今は特に、会うのが一番気まずい人まであるからなぁ……
そのあたりは説明するのもなんか恥ずかしいし、ちゃんと説明できる気もしないから黙っておくけどね。
何はともあれ、終わったのだから移動を再開しないといけない。
もう考えたくないし、一旦忘れて今日の夕飯の事でも考えていよう。
最近同じような味付けばっかりだったから、今日はちょっと変えていきたいんだよねー。
「……あ、そういえば、ミョービスピュとモリュヴィって結局どんな魔獣だったの?」
「モリュヴィは魔獣中位、そんなに強いわけでもないし、普段はあんなに群れないよ。面倒だったのはミョービスピュの方で、あっちは魔獣上位種。他の魔獣を従えて指揮を執る事があって、今回もそうだったんだよね。
そうなるとかなり面倒で、モリュヴィの場合は単体じゃなくて二、三体でグループ行動するようになって戦闘の危険性が上がるし、通常の群れと比べて二倍近い個体が属する群れを作るの。だから、とにかく面倒で見つけたらすぐに倒せー!ってギルドが言ってるくらいの個体だね」
「そんな面倒なやつだったの……?なんかあっさり落ちたけど……」
「セルリア、自覚がないかもしれないけれど、ほぼ上限なしの上空飛行が出来る人はほとんど居ないんだよ」
ロイに言われて、結構本気でそうだった……!と衝撃を受けた。
私は風に乗ってフラフラするタイプだから上限はほとんどないんだけど、アリアナやグラシェが使っている水魔法の飛行だと上がれば上がるほど水がブレたりもするらしいから、結構な上空を飛んでいるミョービスピュは面倒な相手なのか。
そもそも飛びながら攻撃魔法使うのも、ちょっとコツがいるしね。
つまりあの鳥の天敵が私だったんだなぁ。これはもう、空で私に勝てると思うなー!って言い張ってもいいかもしれないな。
……恥ずかしいから、言うとしても心の中だけにしておこうかな。




