393,なんで居るんだ
第四大陸に入ってから一日で進む距離はちょっと短くなったとはいえ、それでも十分な速度で問題なくフォーンへの道を進んでいる。
昨日はイピリアが見える位置で野営をしたので、フォーンまではもう少しだ。
イピリアに入って宿に泊まるって選択肢もあったんだけど、私とシャムとリオンが割と魔力に敏感なので、落ち着かないだろうということで野営になった。
四分の三が落ち着かないんだから、宿に泊まるより野営が良いってなるよね。
なんて言いつつ休んだのが昨日の夜。今は既に昼休憩が終わった後で、曇り空の下をのんびり歩いている。
雨は降ら無さそうで良かったなぁ、なんてのんびり考えていたら、リオンがお?と声を出した。
「どうかした?」
「なんか居る……人か?セル?」
「……うん、人だね。団体さん」
「街道の方かな」
「なんか、戦ってねぇか?」
「戦ってそうだね。でもなーんか、戦い慣れてる感じはしないね」
「行ってみようか。大丈夫そうなら離れよう」
「分かったー」
場所を伝える前に歩き出したシャムの向かう先があっているので、そっちに街道があるだろう。
第四大陸にいる間は私の所為で人がよく通る場所を避けていたりするからね、合流するのは少し時間がかかるかもしれない。
まあ、急ぐという事なら追い風を吹かせて速度を上げて行こう。
起こした風に乗って、相乗りしてきたリオンは好きにさせておいて、シャムとロイを置いて行かないように風を調節する。
そのまま例の一団が見える位置まで来たら、ロイを伴って上空に上がった。
「どう?」
「……手伝った方が良さそうかな。討伐に来たわけじゃなさそうだ」
動き方を確認していたのか、少し考えてからロイがそう言った。
地上に降りつつ遭遇戦をしているらしい団体を見ていたんだけど、なんかちょーっと嫌な予感がするな?
外れて欲しいなぁと思いつつ魔獣の方に風を向け、シャムに左腕につかまってもらって一気に移動する。リオンは自分で風に乗れるので、お好きにどうぞのスタイルだ。
移動しながらも索敵用の風は撒いていたので、団体の人たちの魔力も若干察知してるんだけど、嫌な予感の主であろう人が予感通りな気がしてならない。
別に会いたくないとかじゃないんだけど、ないんだけどさ。
会うと思ってなかったわけよ。こんなところで、可能性を考えてすらいなかったわけよ。
見たことのない魔力のはずなのに、そうだという確信があるせいで内心冷や汗がタラタラだ。
「どこから倒すとかあるのか?」
「中央にいる人が一番偉い人だから、守るならそこだよ!」
「いや、外からでいいよ。あの人大丈夫」
「セルリア、知り合い?」
「まあ、うん、多分。予想通りなら、中央の人が一番強いから守らなくても大丈夫」
実際風で見てる限り危なげが一切ないからね。
周りの兵隊さんを助けて回った方がいいだろう。
そんなわけで途中でリオンが降りて行き、シャムとロイを適当な位置に降ろしたら私は空に上がって上から戦場を見下ろす。
逃げそうなやつを、って思ったんだけど、あんまり逃げそうな感じしないな。
迷いの森から出てきた魔獣だろう。リオンが居る方は任せてしまっていいし、ロイも普通に戦えるのでそっちも気にしなくていいかな。シャムも一緒にいるしね。
私は全体を見下ろして駄目そうな人の所にちょっと風を吹かせて、あとは追加が来ないか見張っていればよさそうだ。
随分魔獣の数が多いけど、一体何があったのやら。
「舞え、踊れ。我風の民なり、風の歌を歌う者なり」
念のため周りの風を強化していたら、上から魔力が降ってきた。
弾き飛ばして空を見上げると、鳥が一羽飛んでいる。
……あれも魔獣か。確実に私を狙ってきていたし、倒してしまった方が良さそうだ。
「んー……ここら辺かな」
風の球を作って飛ばしながら位置を見ていたら、いつの間にか目の前に光の球が浮いていた。
なるほど、下から吹き上げさせてた風に巻き込んで運んだのね。
流石、シャムは杖がタスクなだけあって細かい調整が職人の域だ。
「セルちゃーん、聞こえる?」
「聞こえるよー。今私上を飛んでる鳥を狙ってるんだけど、他にした方がいいことある?」
「んや、その鳥を全力で撃ち落として欲しい!出来れば地面まで落として!」
「ほう、なるほど?任せろ」
よく分からんけど、シャムが言うならそうした方がいいんだろう。
そういう攻撃は得意なので任せてほしい。杖を一回クルリと回して、魔力を練って先ほどとは違ってちゃんと狙いを定める。
「絡み付け、突き落とせ」
普段から使ってる風蛇の向きを少し変えて、ついでにしっかり操縦して鳥に絡ませる。
当たったのは翼の先端だったけど、少しでも当たればそこから捕まえられるんだよなぁ。
翼を絡め取るように風を巻き付けて、さらに上から下に突風を作れば鳥は地面まで真っ逆さまだ。
「さっすがセルちゃん!ありがとー!」
「いいえー。もう大分終わった?」
「うん、多分。上から見て残ってるの何匹くらい?」
「一、二、三……五かな?あ、今四になった」
「オッケー。追加は来ないと思うから、降りて来て大丈夫だよ」
「はーい」
一応風は残したまま地上に降りて、シャムたちと合流する。
……わあ、この鳥こんなに大きかったんだ。なんか人が集まってざわざわしてるけど、珍しい魔獣なのかな?
「セルー、これもう居ねぇかー?」
「居ないよー」
リオンも合流したので次の行動の指示を貰おうとロイを見、たら、後ろの方に立っている人と目が合った。
にっこりと笑いかけられて、思わず顔が引きつりそうになる。気合で笑顔を浮かべれたのは偉かった。姉さまに教わった外面用の笑顔は無理だったけどね。
というかこれ、私から声をかけないと向こうから来るやつだな?
私が急に固まったせいで皆そっちに立ってる人に意識が向いちゃってるし、これはさっさと声をかけた方が色々と被害が少なさそうだ。
「お久しぶりです、サフィニア様」
「久しぶり、セルリア。まさかここで会うとは思わなかったよ」
「私もです」
なんでイピリアの王子様がこんなところにいるんですか、とかは言わないでおく。
普段から一応気にしてはいるけど、ここは外だからね。
カーネリア様の温室とは緊張感が違う。余計な事を言わないようにと気を引き締めたところで、シャムとロイが固まっていることに気が付いた。
……うん、そうだよね。二人は名前を聞いたら分かるよね。
分からないらしいリオンも何かを察したのか黙っているので、とりあえず話を続けることにした。
何と遂にこの話の総文字数が百万を越えました。
見たことない数字になっててなんかもう笑っちゃってます。
こんな長い話に付き合っていただきありがとうございます。まだ終わらないので、ぜひ最後までお付き合いくださいませ。




