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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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392,落ち着く森の気配

 第四、第五大陸間の関所を越えて、ついに第四大陸に戻ってきた。

 関所を越えた瞬間に濃くなる森の気配に、思わずちょっと気が抜ける。やっぱり第四大陸が落ち着くんだよね、生まれ育ってるわけだから。


 そんなことを考えながらグーっと身体を伸ばし、向かう先を確認しているシャムとロイの方を窺う。

 あの地図だけで一体何が分かるんだろうか。

 後ろから地図を覗いていたリオンは理解を諦めた顔をしてこっちに来たので、色々書き込んであるとかではないんだろう。


「セルー」

「なにー?」

「学校戻ったら空飛びてぇ」

「お、出たな飛びたがり。いいよー」


 リオンも気が抜けたのか、ゆるーい感じで声をかけてきた。

 空飛ぶの好きだねぇ。私も好きだから気持ちは良く分かる。

 私は戦闘時とかも飛んでるけど、リオンは安全な時にしか飛んでないから学校にいる時に比べると頻度が凄く下がったんだよね。


「おーい!行くよー二人とも!」

「はーい」

「どっちだ?」

「あっち。前にも通ったルートと似てる感じだね。イピリアの方に向かうよ」


 第五大陸からフォーンに行こうとすると、やっぱり大体イピリアを通ることになるんだなぁ。

 なんて考えながら、先に歩き出した三人を追いかける。

 ついでに風を吹かせて周りに撒いて、じわじわと探れる位置を増やしていく。


 今日は元々いい風が吹いてるから、それに乗っかるようにして風を広げる。うん、やっぱりいつもより広がりがいいな。

 こうもいい感じに広がってくれると、段々楽しくなってくるよね。


「お?セルちゃんご機嫌?」

「今日は広がりがいいよー。楽しい」

「広がりやすさとかあんのか」

「うん。広がらない時は無理矢理やるんだけど、今日は勝手に広がってくれる」


 ウキウキで風を吹かせていたらシャムに気付かれてしまった。まあ、別に隠してるわけでもないからいいんだけど、あまりにもウキウキしていたのでちょっと照れる。

 照れて風の量を若干減らしたりしている間に普段よりも少し大きめな索敵網が出来たので、これを維持しながら進もう。


 ちなみに今日……というか、第四大陸は基本野営の予定で、ここから昼の休憩時間を長くすることになっている。

 今までの日程は、かなり急いでいる感じの動き方だったらしい。言われて初めて知った。


 短期の日程ならそれでよかったし、今回の遠征の行きは私の杖の件なんかがあって実際急いでいたから、その日程で突き進んでいたんだとか。

 どこかで切り替えようって話ではあったらしい。このあたりは、リオンとロイが話し合っていたって聞いた。


 私は基本的に後から聞いてるだけだなぁと思いつつ、なるほど?と分かった顔で頷いておいた。

 とりあえず、リオンが昼間に休めるようにその時間帯は私が主戦力になってればいいんだよね。

 索敵は得意だし、寄せ付けないのも得意だからそのあたりは任せてほしい。


「あそこなんか居る?」

「おっ、鹿か?あれ食えるやつか?」

「すぐ食用にしようとするんだから……」

「食べられるはずだよ」

「あぁ、ロイがノリノリだ……」


 これはもう止まらないな。どうせ狩って捌いて扱いやすい大きさにする所まではやってくれるんだから、周りを警戒しながら眺めてることにしよう。

 シャムも傍に来たので、一緒に浮いて鹿を追いかけて行ったリオンとロイを見送った。


「すーっごい追いかけてる」

「まだ捕まらないかな?」

「そうだねぇ。……というか、大剣で鹿狩りって、なんかおかしくない?」

「出来ちゃってるからねぇ。普通はやらないよね」


 大剣って普通は大型の敵を狙うものであって、鹿くらいのサイズを狙うには大振り過ぎると思うんだけど、なんでリオンはあれで鹿狩りが出来ているのか。

 意味が分からないなぁ。あんなに重い大剣を、なんであーんなに軽々と振えるのかな。


「やっぱり筋力お化けだからか」

「ふふ、セルちゃんそれ、響き気に入ってるでしょ」

「うん。ちなみに私は魔力タンクらしいよ」

「誰が言ってたの?それ」

「誰だっけな……あんまり記憶にない人?興味ないから忘れちゃった」

「そっかぁ」


 多分悪口だったのかなぁ?とも思うけど、魔力量が多いもので、ホホホホホ。と軽く流して言ってきた人の事をすっかり忘れてしまったから、今となっては確かめようがない。

 まあ、わざわざ確かめるほどの興味も無いから別にいいんだけどさ。


 そんなことを話していたら、リオンが鹿を捕らえていた。

 直前にロイと何やら話していたから、多分何かしらやって上手く行ったんだろうな。

 とりあえず地上に降りて、二人の方に向かう。


「お疲れー」

「おう。見ろ、この立派な角」

「おー……本当に立派。これって薬の材料にもなるんだっけ?」

「材料になるのはごく一部の特徴を持った角だね。これは……違うかな」

「そっか。さてリオン、解体までお願いね」

「任せろ」

「僕も手伝うよ」


 二人が鹿を解体している間は先ほどと同じように見張りをすることにして、シャムも連れて空に上がる。……なんかリオンがやいやい言ってるな。

 学校に戻ったら飛ぶってば。今は大人しく鹿を解体しなさいよ。


「飛びたがりめ……」

「楽しいもんねぇ。自分で飛べないから連れて行ってもらう時が余計に楽しいんだよね」

「そういうもの?」

「うん!みんな飛ぶとき楽しそうでしょ?」

「後輩に一人絶対に飛びたくないって言ってる猫がいるよ」

「あ、高いところ苦手なんだ……」


 イザールだけは一回目以降、二度と一緒に飛んでくれないんだよね。

 無理強いするつもりも無いし、そもそもする理由もないんだけど、あんまりにも断固拒否の姿勢を取られていると、こうね。悪戯心がね。

 学校にいる間は基本的に大人しくしてるから、ちょっとうずうずしてしまう。


 そもそもうちの兄姉たちは割とみんな悪戯好きなので、その影響を直に受けているんだろう。

 実は何もやらない人っていないからね。コガネ姉さんとサクラお姉ちゃん、モエギお兄ちゃんはヒエンさんの所にいた頃から時々姉さまに悪戯を仕掛けていたらしいし、シオンにいは日常的にそういう事するし、ウラハねえも止めずに便乗する。


 唯一何もしなさそうなトマリ兄さんは、足元の影から急に出てきて身体を持ち上げる。

 あと、たまに部屋の影でじっとこっちを見ていたりもする。あれは本当にびっくりするからやめてほしい。


 そんなわけで、私のこのうずうずは家で日常的にあったちょっとした悪戯の機会をすっかり失っているのが原因な訳だ。

 なんてシャムに言っていたら「でもセルちゃん、ちょっとした悪戯はよくやってない?」と言われてしまった。……確かに、やってるかもしれない。


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