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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
39/477

39,嘘ではないが雑ではある

 今日の午前中の最後は騎乗の授業だ。

 学園内で飼育されている馬に乗って、のんびり草むらを歩く平和な授業。

 そのうち走ったり騎乗戦をしたりもするらしいが、今は乗って歩ければいいのでのどかで平和な授業風景になっている。


 座学の間ずっと寝ていたリオンはまだ欠伸を噛み殺していて、その頭を小突いて馬のもとに向かう。

 生徒の数と同じだけの馬がいるので、順番を待つ必要はない。


 この子たちも必要とあらば戦場を駆け抜けたりするらしいので、基本的に肝が据わっている。

 私たちが多少騒ごうが穏やかな目で見てくるくらいの度胸がある。

 なんというか、こう、子供を見る目をしている気がするのだ。


「セルは乗れんだよな?」

「まあ、歩くくらいなら」

「じゃー適当に歩いてるかー」


 私は入学するまで一人では乗れなかった人間だが、リオンは元々乗れるらしく私の速度に合わせて横に並んでくる。

 家に居た時は、遠出についていくとなって馬を借りてきても私は一人で乗らずにシオンにいの後ろに乗っていたのだ。


 あれはあれで楽しいのだが、一人で乗るのももちろん楽しい。

 先生の所から離れすぎない様に気を付けつつ適当に馬を歩かせて、その間は雑談の時間だ。

 先生は乗れない人たちを見ているので、こちらに意識が向くことはあまりない。


「そういえば、長期休暇中に泊まる宿は決めたの?」

「あー。三か所くらいは目星付けた。一か所の留まれなかったら他に行く感じになるだろうな」

「そっか。冒険者登録は?」

「もう終わってるぜ。ま、討伐にはあんま出ないで安全第一にやるわ」

「そうして。長期休暇中にやられたら戻ってきてリオンがいなくても花も添えられないから」


 軽口を叩きはするが、学校に戻ってきてリオンがいないのはかなりショックである。

 なので是非とも安全第一、命大事に動いてほしい。

 何も考えていないようで意外と考えて動いている人なので大丈夫だとは思うが、それでも。


「セルは?帰ったらどっか出かけんの?」

「さあね……多分連れまわされるけど」

「ほーん。どこ行くとか分かんの?」

「いつも行ってた場所回るだろうから……まあ、第四大陸内は大体行くんじゃないかな?」


 第四大陸内の三つの国には姉さまの店である「薬屋・リコリス」の移動販売が出向くのだ。

 それに乗せて貰ってその日一日国の中を探索するのが、昔の私のお出かけであり国というものを知るための勉強会だった。


「まー、暇になったらこっち来いよ。俺は基本この国の中にいるし」

「そっか。じゃあそっちもなんかあったら移動販売の出店見つけて声かけて。こないだ見たでしょ?」

「あのでかいやつ?薬屋なんだもんな。単純に買い物することになりそうだわ」


 割引券とか渡すべきだろうか。

 渡したい相手がいたら勝手に作って渡していいよ、と言われているのだ。

 そんな感覚でいいのだろうかという疑問もあるが、まあ姉さまの収入源はあの出店ではなく薬師会や知り合いから頼まれる高難度の薬なので、別にいいのだろう。


 あの出店は半分道楽、残りは信用できる薬を売ってくれという各国のご要望に応えたものだとシオンにいが言っていた。

 ……もしかしたら道楽は半分もないかもしれない。なにせ、姉さまはいつもひいひい言いながら薬を作っているので。あれは道楽を楽しむ姿ではないだろう。


「……いや、そもそも道楽じゃなくて本業じゃん」

「急にどうした?」

「ちょっと、前に聞いた話のツッコミどころを見つけてしまって」

「よく分かんねえけど大変だな」


 気遣うように言われた言葉に、悲しい笑みを返す。

 シオンにいは、割と適当に物事を言うのだ。あまり真に受けてはいけないと分かっているつもりだったが、今回のように改めて思い出してみるとおかしなことを言っている、なんてことも普通にある。


 あまりに適当なことを言っていると他の兄姉が来て修正をいれてくれるのだが、誰にも気づかれないところで適当を言われると修正が入らず私の知識がズレて終わりになる。

 優しくて大好きな兄だが、帰ったら一発くらい殴らせてもらおう。優しいからきっと許してくれる。


「拳より杖の方が痛いよね、きっと。流石にグーパンで行くけど」

「よく分かんねえけどほどほどにしとけよ」

「うん。でもどうせ私じゃ歯が立たない相手だから全力で行くよ」

「おうそっか。頑張れよ」


 リオンは何も知らないだろうに、呆れたように笑いながら応援してくれた。

 これはもう、振りかぶって殴りに行くしかないだろう。多分笑いながら受け止めてくれる。優しいから。


「そういや、結局ソミュールがどうすんのかって聞いたのか?」

「あー……なんか、知り合いの所においてもらうんだって。休暇が明ける前にミーファが回収するらしいよ」

「へー……あいつら本当に仲いいな」


 そう言ってリオンはどこかを見ている。

 視線を辿ってみると、その先にはミーファとソミュールがいた。

 どうやら眠気に襲われ沈んだソミュールを木陰に設置したミーファが馬へ戻るところのようだ。


「まあ、居心地がいい人っているよね」

「セルもそうだろ」

「私?……そうなのかな」


 言われても、自分では分からないものだ。

 曖昧な返事をしつつ思い出すのは姉さまの事。

 あらゆる種族から居心地がいいと言われる姉さまは、周りに動物がいることが多い。


 人にも好かれることが多く、特に亜人たちからはとても好かれているようだった。

 私にとって「居心地がいい人」というのは姉さまが基準になっているので、私がそうだと言われても内心首を傾げてしまう。


 だって私は、姉さまのように動物と会話をすることも無ければ警戒心の強い動物を一瞬で手懐けたりも出来ない。

 姉さまが特殊なのは知っているが、それでも私は違うだろうと思ってしまうのだ。


「セルー?」

「ん、ごめん、なに?」

「何でもねえけど、お前またなんか考えてただろ」

「あはは……まあ、ちょっとね」


 話している間にも時間は進む。

 先生からある程度の距離を保ってのんびり歩いていただけだが、乗馬に慣れていない身としてはそれなりの疲労を感じてもいた。


 鐘が鳴ったのを確認してから先生の元へ向かい、馬を降りて手綱を預ける。

 そのまま解散の号令がかかったのでリオンと話しながらミーファと合流し、ソミュールを回収して食堂に向かうことになった。


 この時期、誰と話していても話題になるのは長期休暇の事である。

 特に一年生は初めての長期休暇なので、誰も彼もある程度浮かれているようだ。

 私も例にもれず多少浮かれてはいるので、何も言わずに会話に混ざることにした。荷物がどうとか、久々に会う人がどうとか、話題は何の変哲もないようなものである。


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