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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
386/477

386,懐かしい先輩たち

 昨日教えて貰った場所にある工房の扉をノックする。

 今はお昼を過ぎて少しした頃で、この時間なら訪ねても迷惑にはならないだろう。

 何時くらいが都合がいいか、聞いておけば良かったなぁなんて思いもしたけれど、それはまあ一旦置いておく。


 今更考えても意味ないからね。既に扉はノックしたわけだし。

 そんなわけでちょっとソワソワしながら待っていると、中から足音が聞こえて来て扉が開いた。

 顔を出したのはメイズさんで、目が合うとパッと笑顔になる。


「いらっしゃーい!入って入ってー!」

「お邪魔します」


 どこまでも楽しそうなメイズさんに案内されて建物の中を進み、そのまま工房に通された。

 学校の研究室と似た雰囲気の工房内で、何となく辺りを見渡していると奥から一人の女性が駆けてくるのが見えて、思わずあっと声が出る。


「セルリア!久しぶり!」

「お久しぶりですメリサさん!」


 久しぶりに会うメリサさんは、大人っぽくなっていたけれど雰囲気なんかは全然変わっていなかった。内面も変わらず行動力の化身なんだろうな。

 なんて考えている間にメリサさんに抱きしめられていて、抱きしめ返してはしゃいでいるのを微笑まし気に眺められていた。


「研究の調子はどうですか?」

「まだ成功品は出来てないけど……毎日色々試すのはすっごい楽しいよ」

「メリサちゃんは研究熱心だからなぁ」

「俺たちもいい影響を貰ってるよ」


 応接用っぽいソファスペースに移動して腰を下ろすと、他の職人さんがお茶を出してくれた。

 職人さんとも仲が良いのは流石メリサさん、でいいのかな?

 まあ、多分そもそもこの工房はみんな仲が良い感じなんだろうな。そのあたりも含めて、学校の研究室みたいだって思ったんだろう。


「セルリア達はどんな感じ?学校、何か変わったことある?」

「学校は変わらずですね。私個人としては……杖が変わりました」

「あ、本当だ!前はもっと丸っこかったよね」


 ジャンっと杖を掲げながら、この二年で学校に何か大きな変化はあっただろうかと記憶を探る。

 とりあえず、D魔道具に大きな変化はないはずだ。今年も一年生が何人か加入して、元気に研究をしているはずである。


 自分では思いつかなかったので横に座ったシャムとロイを見つめてみると、二人とも私が言いたいことを察したのかお茶を置いて考える姿勢を取ってくれた。

 少し待つと、シャムがそういえば、と声を出す。


「入学生の人数が増えてきたから、一学年一組じゃなくて二組にしようか、って話があるらしいよ」

「え、そうなの?」

「うん。先生の数も増やさないとだからすぐにってわけじゃないけど、三年以内にはそうなるんじゃないかって」

「あー……確かに年々入学生増えてたもんねぇ。私たちの学年より、君たちの学年の方が人数多いし」

「気にしたことなかったな」

「ね」


 リオンをひそひそ話ながら、先輩と後輩にそれぞれ思いを馳せてみる。

 ……駄目だ、分からん。そもそも私が関わりあるのって各学年二、三人だし、分かるわけがない。

 みんなどこでそういう情報拾ってくるんだろうね。後輩たちと話してても、学年の人数とか話題になったことないよ。


「人数増えたら賑やかだろうなぁ」

「賑やかどころじゃないわよ。私たちの時でさえ騒がしかったのに」


 先輩たちは学校生活を思い出しているのか、目を閉じて楽しそうに笑っている。

 ……私も卒業したら、あんな風に懐かしむようになるんだろうか。

 気付けば最終学年になっていて、もう一年もしないで卒業だというのにその自覚はあまりにも薄い。


「そういえば、イツァムナーを出た後の予定は決まってるの?」

「船で第五大陸に向かいます。その後は、陸路でフォーンまで」

「おっ、船旅?いいねぇ、楽しいよ、あれ」

「あんた本当に船好きね……レウルムは船酔いで辛そうだったのに」

「先輩たちは船旅したことあるんですね」

「卒業後にこっちに来るのに乗ったんだ」

「レモラを経由して、三日とか四日とかかな。船酔いさえなければ快適だよ」


 先輩たちは、今回私たちが通る予定のルートを逆走する感じでイツァムナーまで来たらしい。

 目をキラキラさせるメイズさんとは対照的に、実は会話に混ざれる距離に居たレウルムさんがげっそりしているのが見えた。


 船酔いの有無でここまで変わるんだなぁ。

 私は普段から風に乗って飛びまわっているのもあってか、乗り物酔いってしないんだよね。

 つまり帰りの船旅は存分に楽しめるってことだ。


「……あ、そうだ。セルリアって風の魔法使いだったよな?」

「え、はい。そうですよ」

「なら、船乗る時に臨時船員の方の窓口行くといいかも」

「臨時船員、ですか?」

「うん。船の速度って風の影響受けやすいからさ、強い風を吹かせれる魔法使いは運賃を貰わない代わりに手伝って欲しいんだって」

「ほう……?」

「乗合馬車の護衛と同じ感覚でいいのかな?」

「あ、なるほど」


 それなら分かりやすい。あの時は、目的地に向かう馬車に乗る運賃の代わりに護衛をしていた、って感じだもんね。

 風を吹かせるだけなら負担は無いし、確かにいいのかもしれないな。


 話を聞く感じずっとやってないといけない訳でもなくて、昼間の数時間とかだけみたいだし。

 嵐とかに襲われたら多少仕事はあるかもしれないけど、そうじゃないなら風を吹かせつつ船旅を楽しむことは出来るだろう。


 これはいい話を聞けたなぁ。その場にいた他の職人さんが詳細が書かれているチラシをくれたので、それも読んでとりあえずロイに渡しておく。

 自分で持っててもいいんだけど、ロイに渡しといた方が確実だと思ってるからね。


「わっ」

「うお。……なんだ?」

「お?どしたどした?」

「何か爆発でもしたかな……すいませーん、ヴァニさーん?」

「爆発未遂でーす!大丈夫!」


 のんびり話していたら急に魔力が膨れ上がって、びっくりして固まっている間に状況確認が終わっていた。

 ……もしかして、何かしらが爆発するのが日常だったりする……?


「未遂だったの珍しいなー」

「本爆発は明日かな」

「気軽ですね……本爆発って何……?」

「まあ、ヴァニさんは週に二、三回は何かを爆発させるからね。慣れるんだよね」

「何があったらそんな頻度で爆発が……?」


 疑問は尽きないけど、メリサさんたちの表情からこれ以上聞いても何も無いことを察してしまったので、疑問の解消は諦める。

 これはあれだ、気にしたら負けってやつだ。


 家ではよくある事だったから、私はそのあたりの対応は得意なんだ。

 こういう時は、話題を変えるに限る。このまま突いても何も出てこないからね。


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