384,魔法技術の国
ダンジョンアイテムの鑑定は数日かかるそうで、それが終わるまでキニチ・アハウを観光していることにした。
キニチ・アハウは魔法技術の国、見たことのないアレコレがありそうで、今からウキウキだ。
宿に荷物を置いたら早速街の探索に向かい、あちこちから漂ってくる魔力に目が回りそうになりながら町の中を進む。
なんかすごいな、本当にあっちこっちから異なる魔力が流れてくる。
「お、おぉ……おわ……」
「大丈夫か?」
「ちょっと休憩していい……?魔力の情報量が凄くて酔いそう……」
「あぁ……セルリアにそれは辛いね。休めるところ……魔力の影響弱いところがいいよね?」
「そうだね。……あっちの方ならちょっと魔力弱めかな」
「大丈夫か?運ぶか?」
「んや、歩ける。だいじょぶ」
シャムに手を引かれて路地の方に向かい、少しだけ人通りが少なくなった道を歩く。
そのまましばらく進んでいると、前方にぽっかりと穴が開いたような場所を見つけた。
物理的にではなく、魔力的な意味で。その場所だけ周りと比べて魔力が薄いのだ。
何があるのかと思ったら、看板がかかった扉が見えた。
どうやらここはカフェみたいだ。ちょうどいいから入ってみよう、と扉を開けると、中には品のいいお姉さんが一人立っていた。
「おや、いらっしゃい」
どうぞ?と手で示されたのはカウンター席で、案内されるままそこに座る。
差し出されたメニューを受け取って注文を済ませ、一度深く息を吐いた。
「君たち観光客?魔力で酔ったのかな?」
「はい……」
「はは。この国魔力の流れ馬鹿みたいだもんね。……はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
注文したお茶を受け取って、冷ましながら口をつける。
お姉さんの慣れた様子からして、魔力で酔う人はそれなりにいるんだろうな。
納得しながらお茶を飲んでいると大分落ち着いて来た。
外はやっぱり魔力が混沌としているので、そっちには意識を向けないでおく。
……それにしても、なんでこの店の中だけ魔力が落ち着いているんだろう?
壁に何か細工がしてあったりするのかな?ちょっと気になるなぁ。
「君たちはこの後も観光を続けるのかい?」
「……どうしようか。セルリアが辛いようなら、あんまり長くはいられないけど」
「気にはなるんだけどね……」
「ふむ。なら観光のお供にいい物をあげよう」
お姉さんはそう言って、カウンターの下から一枚の紙を取り出した。
渡されたそれを広げて見てみると、どうやら地図のようだ。
いくつかの場所には印がつけられているようだけど、私はそもそも地図とか読むの得意じゃないんだよね。
なので横から覗き込んで来ていたシャムに地図を手渡し、お姉さんの方を見る。
ニコリと笑ったその表情は、レヨンさんとかヒエンさんとかと同じ気配を感じるものだった。
うーんこの、悪戯心が抑え切れて無い感じというか、やたら同性にモテるお姉さんの気配というか。
「ここみたいに、外の魔力を遮断してる店が結構あちこちにあるのよ。その地図はそういう店の場所をまとめた物」
「こんなにあるんだ……すご」
「この地図貰ってもいいんですか?」
「勿論。そのためにあるからね」
地図の印の場所がそういうお店の場所らしい。
大体はカフェやレストランで、休憩できるようになっているんだとか。
こうして見てみると、結構数があるみたいだ。これならちょこちょこ休憩しながら回れる、かな。
「お嬢ちゃんみたいに、酔いやすい人って割と居るからね。この国に住んでる人も居るし、お上の支援も入るくらいには休む場所って大事にされてんのよ」
「そうなんですね。確かに魔道具師とか、酔う人いそう」
「そういうもんか?」
「魔道具作るのにも魔力は使うし、魔視とかの精度が高い方がいいからって探知能力上げてる人も多いからねぇ」
「ほー……」
お姉さんと話をしながらお茶を飲み、飲み終わる頃にはすっかり気分も良くなっていたので、お会計をしてお店を出ることにした。
お会計の際にお姉さんは多少気分が紛れるからと飴までくれて、お礼を言ってぺこぺこしながらの退出となった。
「いい人だったなー」
「素敵なお姉さんだったね!」
「出た瞬間に魔力の流れすごぉい……」
「セルリア、杖に魔力を通すのやめたらマシになったりはしないの?」
「あー……割と無意識でやってるからなぁ。杖を持ってる限りは相当意識してないと難しいかも」
ロイに言われて無意識に吹かせていた風を止めてみたところ、魔力の探知は多少マシになった。
なった、けど……やっぱりずっと止めてるのは難しそうだな。
ソワソワするっていうか、なんていうか。とりあえず、落ち着かない。
「杖持つか?」
「……そうだね、ちょっと持っててー」
差し出されたリオンの手に杖を預け、ちょっと深呼吸してみる。
杖が手から離れたことで風を吹かせない違和感は若干薄く……なるかと思ったのだけれど、そう上手くはいかないようだ。
「リングが同期されてるから、意味ないみたい」
「あ、確かに杖の方に魔力が流れるようになってるって言ってたね。じゃあちょこちょこ休憩しながらいこっか」
「うん」
リオンから杖を受け取って、とりあえず一度クルリと回す。
うん、多少酔いやすくても、こっちの方が落ち着くしやっぱりこのままでいよう。
ウロウロしてる間にちょっとは慣れるかもしれないしね。
そんなことを考えながら次に行く場所を何となくで決め、街の探索を再開した。
さっきのお店のお姉さんが魔道具工房の場所も教えてくれたので、まずはそこに行ってみよう。
見学も出来るらしいから、リオンも見てて楽しいんじゃないかな。
「お?なんか浮いてんぞ」
「本当だー。灯りかな?」
「綺麗だね。……うわ、すっご。あれも魔道具なんだ」
通りを進んでいると視界の先に色とりどりの明かりが浮いているのが見えた。
なんだか非現実的で、思わず見惚れてため息が零れる。
それと同時にその内部が複雑に組まれた魔道具なのが分かり、一瞬で現実に引き戻された。
「……あ。教えて貰った魔道具工房、あそこじゃないかな?」
「えーっと……そうみたい!いってみよ」
「おー」
「結構でっかい建物なんだね」
話しながら歩いていると、お姉さんが教えてくれた魔道具工房が見えてきた。
ちゃんと開いているみたいなので中にお邪魔して、見学用にガラス張りになっている壁に近付く。
そこから複数の職人さんの手元が見れて、思っていたよりも楽しくて予定よりずっと長居してしまうのだった。




