382,楽しい散策
朝の散歩を終えて宿に戻ってくると、シャムが椅子に座ってボーっとしているところだった。
着替えとかは終わっているみたいだから、このまま朝食に引っ張って行っても大丈夫そうかな。
ギリギリ起きていそうなシャムの手を引いて部屋を出て、隣の扉をノックする。
「リオン起きたー?」
「おう。シャムは起きてんのか?それ」
「多分ギリギリ起きてる」
声をかけるとすぐにリオンが顔を出し、そのまま連れ立って朝食に向かった。
昨日の夜は行かなかったけど、宿の一階に食堂が併設されてるんだよね。
せっかくだから今日の朝食はそこで食べようと散歩中に話していたので、リオンにもそれを伝えて宿の一階に降りた。
食堂にはそれなりに人もいたけど、席は空いていたのですぐに座ることが出来た。
シャムの分はいつも通り適当にお茶を選んで、私はミックスサンドを頼むことにした。これならシャムがちょっとなんか食べたいってなっても大丈夫だしね。
「リオン決まったー?」
「おう」
「じゃあ注文しようか。……シャムは起きてないかな?」
「起きて無さそう。お茶は余ったら私が飲むよ」
最終確認をしてから店員さんを呼んで注文を済ませ、待っている間に今日の予定を話し合うことにした。
街を見て回るのも楽しいだろうし、ロイとリオンの剣をちょっと見てみてもいいかもしれない。
私も料理用のナイフとか、ちょっと見たいんだよね。
なんだかんだ兎とか狩って食べることもあるし、新しくしても良いかなぁと前から思っていたのだ。
今のやつは特に問題なく使えるけど、他にいいのを見つけたら買い替えろ、って言われてるんだよね。トマリ兄さんから。
「ロイは弓使わないの?」
「触ったことが無いかな。セルリアは弓兵が欲しいの?」
「いや、そういうわけでもないけど。弓の作成も盛んなんでしょ?だから気になっただけ」
「そうだねぇ。やってみてもいいかもしれないけど、最初は学校でやるかな」
「それもそっかぁ」
話している間に料理が来たので、一旦食事に集中する。
目の前にティーカップを置いたら手を付け始めたシャムを見て、リオンが開いた皿を一枚シャムの前に置いた。
そこにサンドイッチをひと切れ乗せると、のっそりと手が伸びて来てサンドイッチが口に運ばれて行った。
思わずおぉ……と謎の歓声が零れた。リオンも同じ反応をしていて、少し笑ってしまう。
「シャムもそろそろ起きた頃かな?」
「んー?おはよぉ?」
「はよ。観光行こうぜー」
「いくぅ……」
「大分起きて来たかな」
もう起きそうだから、このまま観光に行っても大丈夫そうだ。
そんな話をしながら朝食を食べ終えて外に出た。いい風が吹いてるなぁ。
とりあえず昨日行かなかった方から見て回ることにしたので、シャムの手を引っ張って大通りの店を覗いて回る。
「お、なんかすげぇ形の剣あるぞ」
「蛇腹剣だね。剣に切れ込みが入ってるのが見えるかな?」
「おう」
「あそこから剣がばらけて鞭みたいになるんだよ」
「え、なにそれなにそれ」
「中央に糸が通ってて、それで制御するんだったと思うよ。詳しくは知らないけど、かなり難しい武器らしいね」
「だろうなぁ。教わる相手も居ねぇだろ」
「完全独学で特殊な武器はしんどいよね」
クリソベリルの誰かしらなら使いこなせるだろうか。
万能型の人も多いし、一人くらい使える人もいるんだろうなぁ。
今度聞いてみようかな。蛇腹剣、蛇腹剣ね。覚えておこう。
「蛇腹剣で有名な人居たよねぇ、なんの報告書だっけ」
「ギルドの報告書のどれかだと思うよ」
「そんなんも書いてあるのか」
「ものによってはね。読んでると色々差があって面白いんだよ」
二人にとってはギルドの報告書も楽しい読み物なんだなぁ。
私は結局のところ読みやすいように書かれた物語とかの方が好きだからね、凄いなぁって思うよね。
全く読まない訳じゃ無いし、面白いのがあるのも分かるんだけど、どうしても「読み物」とは思えない。
文章硬いし、読みやすさより正確性が優先されるから読んでて目が滑るのだ。
あれ、どこまで読んだっけ?ってのがかなりの頻度で起こるから、全然進まないんだよね。
のんびり読むにはいいんだけど、読んでる間に他のものが読みたくなっちゃって、そのまま別のものを読み始めて続き読まなくなるのが常だ。
「……お?なんだあれ」
「石碑じゃないかな?」
「せきひ……?」
「昔の事を記録した石板だよ。カウイルの街中には結構いっぱいあるみたい」
「へぇ……なにが書いてあるんだろ……」
「気になるなら探してみよ!石碑を探してる間に街も回れそうだし」
背の高い建物が建ち並ぶ通りを抜けると、ちょっとした広場のような場所に出た。
足元は芝生で、木が生えていてベンチなんかが置いてある。
円形の広場の中央には一基の石碑が置かれていて、まずはそれを読んでみることにした。
そこには昔のお祭りの様子なんかが記録されていたらしい。古い文字だから私とリオンは読めなくて、シャムとロイが翻訳してくれた。
その年のお祭りがどれだけ豪華だったかを書いているそうだ。
「あ、後ろに看板立ってるよ。他の石碑の場所、一個だけ書いてあるみたい」
「本当に宝探しみたいになってきたな」
「楽しくなって来たね」
「行ってみよー!」
謎かけのようになっている看板を読み解いて、大体の場所を予想したら移動を開始する。
向かう先は大体しか分からないから、道中の店や街並みを楽しみながらのんびり歩いて行く。
途中で買い食いもしながら町を歩いていると二つ目の石碑が見えてきた。
今回は分かれ道の一角に置かれていて、一つ目と同じように二人に翻訳してもらう。
こっちの石碑は昔の日常とかが書かれてるらしい。
古い文字が使われてる時代だから相当昔の事らしいけど、ちゃんと残ってるのすごいなぁ。
「お?なんか広いところ出るぞ?」
「あぁ、他の国への定期馬車の乗り場だね」
「イツァムナーの他の馬車?」
「そうだよ。ここからだと……カブルに向かう馬車かな?」
「そうみたい。このまま右に行くとトル行きの場所があって、左に行くとキニチ・アハウ行きだって」
イツァムナーは同盟国である四国の間にしっかり道が引かれているので、こうして馬車も出ているし歩いて行くことも出来る。
私たちは四国全てに行きたいので、そのうちその道を通ることになるだろう。
まあもう数日はカウイルに居る予定だから、実際に通るのはまたもう少しだけ先の事かな。
そんな話をしながら広場を通り過ぎ、街の探索に戻ることにした。
夕食まではまだまだ時間があるし、もう少し進んでも宿に戻るのに困ったりはしないだろう。




