379,出発前の小休憩
レペの村に泊まった翌朝、まだシャムとリオンが寝ている時間帯にロイと二人で宿を出て散歩をしていると、ハルフさんがちょうど家から出てくるのが見えた。
向こうもこちらに気付いたようで、笑顔で手を振ってくれたのでそちらに寄っていく。
「おはようございます」
「おはようございます。二人とも早いですね」
そのまま少し立ち話をして、時計を確認したらまだ二人が起きるまで時間がありそうだった。
ロイに時計を見せると小さく頷いていたので、多分考えていることは同じだろうな。
ということは、朝ごはんもまだもう後になるってことになるんだよね。
「……二人はまだ時間はありますか?」
「ありますよー」
「ではお茶でもいかがです?サラが居ないので、一人で暇なんです」
微笑んだハルフさんに、ロイと顔を見合わせる。そして同時に是非、と声を出した。
どうせしばらく暇だからね、昨日話せなかったことも含めて話したいし、嬉しいお誘いだ。
そんなわけで昨日も行ったハルフさんの家……というか薬屋にお邪魔することになった。
「あぁ、そうだ。昨日の怪我人ですが、夜中に一度目を覚ましましたよ。今は眠っていますが、今日中には意識が戻ると思います」
「そうなんですね、良かった」
「……ハルフさんは小さい頃のセルリアも知ってるんですか?」
「ロイ?急に何に興味を持ってるの?」
「私が初めて会ったのは彼女が十歳の時でしたね」
「ハルフさん?」
なんでノッちゃうのかなぁ。こういう所ばっかりノリがいいよねぇ、誰も彼も。
私の小さい時の話とか聞いても別に楽しくないでしょ。
姉さまたちだって知ってるのは七歳以降なんだから、話を聞いて楽しい時期は過ぎてると思うんだよねぇ。
なんて話しながら入れて貰ったお茶を飲んで、今日出発して向かう先や大元の目的地などを話す。
イツァムナーまで行って船で帰る、と言ったら、オススメの船を教えて貰った。
ハルフさんは薬師会の関係などで第五大陸とかまで行くことが多いらしく、よくトルからムスペルまで行くんだとか。
確かに会う時は第四大陸や第五大陸だったなぁ、とのんびり考える。
上位薬師会があるのがその辺なんだっけ。正確な位置は知らないけど、その辺のはずだ。
姉さまがそんなに遠くないって言ってたから、多分近いんだろう。
「食堂は朝から開いていますから、出る前に寄って行くといいですよ」
「分かりました、ありがとうございます」
「ここからモーブまでは一日で進むのは難しいですかね?」
「急げばいけないことも無いですが……あぁ、でも皆体力もありそうですから、大丈夫なんじゃないですかね」
「なるほど……じゃあ一日日程で行こうかな。セルリア、食料大丈夫だよね?」
「大丈夫だよ。元々余裕持って用意してあったし」
話している間に良い時間になったので、話を切り上げて一度宿に戻る。
それぞれシャムとリオンを起こして合流、食堂に向かうことにして、部屋の前で一度別れた。
部屋の扉を開けるとシャムがほとんど開いていない目で髪を結んでいたので、それを待ってから声をかける。
「おはようシャム。朝ごはん食べにいこ」
「んー……いくぅ……」
着替えなんかはもう終わっているみたいなので、荷物を回収してシャムの手を引く。
部屋から出ると丁度隣からロイとリオンも出てきた。……リオンは起こすところからだったはずだけど、出てくるのは同じタイミングだったな。
なんて思いつつ歩き始めた二人の後を追い、まだまだ眠そうなシャムの足元に小さく風を起こす。
転ばないのが一番だけど、転んだ時に怪我しないようにね。
まあ、シャムはこの明らかに頭が起きてない状態でも、転んだり壁にぶつかったりはしないんだけどね。転ばぬ先の杖、ってやつだ。
「今日はどこまで行くんだ?野営?」
「いや、今日はモーブまで行くよ」
「お。意外と日程ズレなかったんだな」
「進行方向から完全に外れたわけでもないからね。少し急ぐくらいで無理なく行けると思うよ」
「あれ、そんな余裕ある感じなんだ?」
「自覚は少ないと思うけど、僕らの移動速度って結構速いからね」
「そうなんだ……」
家に居た時の移動手段が大体とんでもない速度だったから、普通はどのくらいの速度なのか分かんないんだよねぇ。
なにせ初めて乗った馬車がアジサシさんな訳だし。家の人は皆何かしらの手段で空飛べるし。
よく分からなくなってしまうのも仕方ないことだと思う。うん、こればっかりは私の所為ではないだろう。それが普通ではない、っていうのは、トマリ兄さんがよく言っていたから一応認識はしてたんだけどね。
それでもちゃんと納得したわけではなかったので、じゃあ普通ってどういうことなのか、って兄さんに聞いてみたこともあった。
けど、それは時と場合によって変わるって詳しい事は教えてくれなかったんだよね、確か。
多分トマリ兄さんも常識的な移動方法とか移動速度とか、認識はしてるけどしっかり理解してはいない感じだったんだろうなぁ。
なにせ兄さんの基本的な移動手段は影の中を通っての高速移動だからね。
「さて、朝食を食べ終わったらすぐに出発するけど、大丈夫かな?」
「大丈夫。……シャムは目、覚めた?」
「んぅー……だいじょうぶ……」
「まだ駄目そう」
考えながら食堂に入って、案内された席に座って朝食を選ぶ。
シャムはまだ眠そうだけど、食べてる間に起きるかな?
とりあえずシャムの分のお茶を適当に選んで自分の分と合わせて注文し、来るのを待ちつつちょっとだけ風を起こして村の中を眺める。
「セル?なにしてんだ?」
「んぇ、いや特に何も?強いて言うなら暇だから?」
「お前なぁ……」
リオンに呆れた目を向けられたので、小さな風を顔に当てておいた。
極端に弱った気配がしないのを確認して安心していたところなんだから、もうちょっと待ってよ。
なんてやっている間に頼んだ料理が運ばれてきたので、風を消して料理を受け取る。
「シャムー。お茶来たよー」
「んー……」
「ここ置くからねー」
「んー……」
まだまだ眠そうなシャムの正面にお茶を置いて、私は自分の朝食を取ることにした。
今日のお昼がどうなるかは分からないけど、ゆっくり食べれる時に食べておくべきなのに変わりはないだろう。
そんなわけでサンドイッチとスープを口に運び、んま……と緩い声を零した。
これ美味しいなぁ……野菜と肉の旨味がしっかり出てる。流石に野営でこの味は出せない。
サンドイッチも美味しい。野営中に食べれないから、こういう時に生野菜食べたい欲求を発散しておかないとね。
「ふぁ……お茶美味しいねぇ」
「そうだねぇ。おはようシャム」
お茶を飲んでいる間にシャムの目も覚めたようなので、移動も問題なさそうだ。




