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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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377,行き先の変更

 吹き飛んだ魔獣を見て、思わずうわぁと声が漏れた。

 あれを吹き飛ばせた私にもびっくりだし、かなり威力の出た風の槍で身体に穴が開かないあの魔獣の魔法耐性にもびっくりだよ。


 とはいえ流石にもう息はないらしい。シャムとリオンが確認してくれたので、それを聞きつつ私はロイの方に走る。

 ロイは倒れていた人の状況確認をしているようで、その表情は険しい。


「……シャム、あの魔獣って?」

「オルフギフドっていう、魔獣中位種。毛皮に毒があるんだけど、水に濡れた時に強い毒性を発揮してその後は無毒化されるの」

「あぁ、だから水撒けって言ってたのか」

「うん。雨みたいにしてくれて助かったよー。この人は毒受けてたんだけど、その毒も一応流しきってあるよ」

「けど外傷が多いな。ポーションも使ったんだけど、あんまり効いてない……?」

「まだ毒が残ってるのかな……毒消しとかじゃ消えないレベルだとちょっと不味いね」


 魔獣の確認を終えたシャムが戻ってきたので、とりあえず魔獣の事を確認しておく。

 遭遇戦だったから、よく分からないまま戦ってたんだよね。

 一応このあたりに降らせた水は乾かしておいて、話を聞きながらカバンの中を漁る。


 常に持ち歩くように貴重品を入れているウエストポーチに、確か入れてあったはずなのだ。

 杖をどうにか抱えつつゴソゴソやっていたらリオンが杖を持ってくれたので、預けてしっかりカバンを確認する。


「あ、あった!」

「これ……え、これずっと持ち歩いてたの?」

「うん。入学するときに姉さまが荷物に突っ込んでてね」


 取り出したのは、ずっと持ち歩くだけ持ち歩いていた軟膏。

 外傷であれば切り傷でも擦り傷でも炎症でも大体治せる、というかなーり高価なものである。

 この人は早く傷を塞がないと血が足りなくなりそうな顔色をしているので、惜しみなく使って行こう。なにせこれ、ずっと宝の持ち腐れ状態だったからね。


「とりあえず呼吸は安定してるけど……モーブまで持つかな……」

「そんなやべぇのか」

「もし毒が残ってたら絶対に持たないね。解毒が完璧に出来てたとしても、僕らじゃ対処しきれない可能性がある」


 真剣なロイの顔を見て、急に怖くなってきた。

 姉さまは私を薬師としてのあれこれに関わらせることはなかったので、人の生死を身近に感じるのはこれが初めて……な、気がする。


 背筋が伸びる感覚がして、それと同時に何か忘れているような妙な気分になった。

 なんだろう、何か、どうにかなる何かを私は知っているんじゃないか。

 そんな風に思ったそれは、予感というか確信のようで、思い出さないといけない、と強く思う。


「……セルリア?」

「……あ」


 どうするか相談していたシャムとロイが、こっちを向いた。

 その拍子にシャムに渡していた軟膏が目に付いて、それで急に思い出した。

 そうだ、ここ、第二大陸だ。第三大陸寄りの、モーブと関所の間くらいの場所。


「ねえ、このあたりの村の位置って分かる!?」

「村の位置?えっと、二つくらいあったよね?」

「一番近いのはレペの村だね。向きとしては……イツァムナーに向かう方向」

「そこかな、そこかもな……三つくらいあるんだっけ……」

「その村に何かあるの?」

「姉さまの知り合いの上位薬師が、ここら辺の村をいくつか回ってるはずなの」


 脳内を過ぎ去っていったのは、珍しく姉さまの素を知っている上位薬師。

 姉さまがあれこれ巻き込んだせいで、階級が上がったとかなんとか言っていた気がする人。

 その人のお弟子さんとサクラお姉ちゃんの仲が良いこともあって、私も何度か遊んでもらった記憶がある。


「……距離的には今日中に行ける位置ではあるね。モーブに行くより可能性はありそうだし、行ってみようか」

「おう。あの魔獣どうすんだ?」

「爪と毛皮を少し回収しておいてくれる?それで討伐の証明になるから、どこかのギルドに行った時に報告しよう」


 リオンが回収に向かい、シャムとロイが詳しい位置の特定のために作業を始めた。

 それを見つつ私は一つ魔法を組むために杖を一度回し、コンッと軽く地面を叩く。

 こういう使い方をするとは思っていなかったけど、使えるようになっておいて良かったな。


「育て、育て」


 ぶつぶつ言いながら地面に魔力を注いで蔦を伸ばし、それを組み上げて簡易的な担架のようなものを作る。

 木属性魔法は樹皮とか根とかの硬い部分を作る練習ばっかりしていたけれど、昔花冠を作ったりしてた影響で蔦を組み上げるくらいなら出来るんだよね。


 そんなわけで組み上げた蔦担架に冒険者を乗せて、それを風で持ち上げる。

 風単体で持ち上げるよりも、こっちの方が安定してていいよね。

 なにせ相手は怪我人だからね。安定感大事。何よりも大事。……いや、スピードも大事か。


「これでいいかー?」

「……うん、大丈夫!これに入れてー」

「おー」

「じゃあ、行こうか。……この人はセルリアに任せてもいいかな?」

「いいよ。これくらいならそのまま索敵も出来るから」


 ふわりと浮かせた担架を引っ張って、周りに撒いた風を少し集めて壁にしておく。

 そこまでやったところでロイが先行して歩き始めたので後ろを付いていき、リオンが後ろに来たのを確認する。

 いつもとは前後が逆な感じだ。中央に怪我人が居て、その横にはシャムが居る。


 もしこの後突発的な戦闘が起こって私がここを離れる場合は、シャムに担架を浮かせてもらうことになるかな。

 何も無いならこのまま私が運ぶし、私もシャムも運べないならロイかリオンが運んでくれるだろう。

 それ用に担架の両端に持ち手付けてあるからね。今は片方だけ使って引っ張っている。


「……走っても大丈夫かな?」

「いけるよー!頑張るよー!」

「追い風いる?」

「大丈夫!安定させるのに集中してー!」


 シャムが気合を入れているのを横目に風を調整して、前方の風が邪魔にならないようにしておく。

 そんなことをやっている間にロイが走り出したのでその背中を追い、風で包んだ担架を引っ張る。

 ……しっかり現在位置と目的地を把握してるから走れるんだよね、凄いなぁ。


「……前なんか居る!リオンが追い払えるくらいのやつ!」

「リオン、お願い」

「おう」


 前の方に置いてある風にそんなに強くない魔物が引っかかったので、ロイの目の前に風を起こして足を止めさせながら声を出す。

 ちなみにリオンが追い払える、というのは簡単に倒せるという意味ではなく、魔力をぶつけると逃げる、という意味だ。


 鬼人の魔力は、野生動物や弱い魔物魔獣からすると怖いらしい。

 なのでこういう時はリオンに魔力を放ってもらって、追い払って進む。

 一時的にリオンに前に来てもらって、リオンの魔力に風を乗せて一緒に飛ばしてもらう。


 その飛ばした風で魔物が居なくなったことを確かめて、再び村に向けて走り始めた。


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