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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
376/477

376,予想外の戦闘

 一晩経つと雨はすっかり上がっていた。

 日も差していて、今日はこのまま天気が良くなっていきそうな気配がする。

 そんなことを考えながら朝食を作り、その片付けが終わったら洞窟を出て昨日に引き続き第二大陸を進んでいく。


 ゆっくり風を起こして周りを固めていたら、リオンが寄ってきた。

 なんだろう。普段は前後に散ってるから、用事が無いと道中で寄ってきたりはしないんだけど……

 首を傾げていたらリオンは頭上を指さした。


「昨日のはもう出さねぇのか」

「あれは雨だったからだよ……そんなに気に入ったんか」


 水傘、気に入りすぎじゃない?雨降ってないのに作ったりはしないよ。少なくとも道中では。

 学校に居る時とかだったら作ったっていいけど、今作っても邪魔になるだけだからね。


「何がそんなに気に入ったの?」

「なんか面白れぇんだよなぁ……」

「……なんかあれだね、水面をジーッと見てる猫ちゃん」

「んっふふ……ふふ……」

「あ、ロイのツボに入った」

「シオンにいもたまにやってたなー。ポチャンって落ちる水をずーっと見てるの」

「ふふふ……あはははは!」

「あー……ロイが行動不能に……」

「シャムの所為じゃん」

「えへへ?」


 リオンはでけぇネコチャンだったのかぁ……なんて思っていたらロイが笑いの淵に沈んで行った。

 まだ地面濡れてるだろうから、崩れ落ちるのは阻止しておこう。

 そのまま風で浮かせて歩き出すと、シャムがついて来ながらロイをつっつき始めた。


「そんなに面白かったの?」

「や……ふふ……リオンみたいな、猫を、想像しちゃって……」

「その横にシオンにいが並んじゃった、と」

「リオンみたいな猫か……」

「でかそう」

「いやシオンさんとはそう変わんねぇだろ」

「いやいや、シオンにい薄いから」


 やんややんや言いながら歩いていたら、索敵のために広げた風の端に何かが引っかかった。

 それを声に出す前にリオンが背中の剣に手をかけたので、一気に索敵の風を広げる。

 ロイも異変に気付いたのか、笑いを引っ込めて風から降りた。


「何が居る?」

「分かんない……けど、え、待って!誰か倒れてるかも!」

「リオン、セルリア、先行して!シャム、防御魔法用意して」

「分かった!」

「リオン足元に風、私先行く!」

「おう」


 リオンが剣を抜いた理由であろうモノは、気配が大きいのですぐに見つかった。

 それを詳しく探ろうとして風の密度を上げたところで、その傍に弱い気配が一つ倒れているのを見つけたのだ。


 ロイの指示を聞いて風を起こし、リオンの足元に踏み台用の風を一つ用意したら私は最高速度で飛んでいく。

 歩いたらそれなりにありそうな距離だけど、最高速度で飛べばすぐだ。


 先に見つけた魔獣のようなものに風をぶつけて、こっちを見たのを確認したら倒れている人らしき気配と逆に飛びあがる。

 足止め用にもう一つ風を組んで、飛びかかってきた相手にぶつけたところでリオンが追い付いてきた。


「リオンこいつ毒!」

「了、解!」


 魔力で感じただけだけど、うっかり触れるとマズイ気もするのでとりあえず叫んでおく。

 何も無いならそれでいいんだけどね、これで本当に毒があった時が怖い。

 リオンも反応してくれたので、そっちにも風を向けてリオンの剣と体の周りに薄く風を張っておいた。


「セルちゃーん!水撒いてー!」

「水!?分かった!」


 リオンが魔獣に一太刀浴びせたのを確認して上から後ろに戻ったところで、後ろからシャムの声が聞こえてきた。

 よく分からないけど、水を撒けばいいらしいので一気に魔力を練り上げる。


「湧き出でて降り注げ、ソルスール」


 作り上げた水の魔法を撃ちあげて、一帯に雨を降らせる。

 リオンも濡れたけど、後で乾かすからとりあえずそのままで。

 降らせてからシャムのいる場所を確認したら、倒れている人のすぐ横で防御魔法を展開していた。


「リオン、後ろ狙って!後ろ足の付け根に太い魔力器官がある!」

「おう!」


 リオンが魔獣を抑えられているので、私は一度空に上がって上から状況を確認する。

 ……さっきまでは焦っていて気付かなかったけれど、魔獣にはところどころ傷がついていた。

 倒れているこの人が戦ってたのかな?冒険者っぽいし、うっかり出くわしたのか討伐に来て返り討ちにされたのか。


「セル!」

「なにー!?これー!?」


 考えながら風を作り出していたら、リオンが叫んできた。

 その真意は分からないけど、とりあえず作っていた風をリオンに飛ばしてその身体を持ち上げる。

 重たいんだよなぁ、リオン本体も剣も。


 重たいけれど頑張って持ち上げれば、次の叫び声は来なかったのでこれで合っていたらしい。

 多分こっちに行きたいんだろう、とあたりを付けてリオンの身体を魔獣の側面に向かって投げ、私は高度を下げて魔獣の正面に降りた。


「セルリア、聞こえる?」

「聞こえるよ。何すればいい?」

「風の槍の準備をしてて。タイミングは指示する」

「了解」


 降りて杖を構えたところでロイの声が聞こえて、チラッと横に目を向けると魔法の球が浮いているのが見えた。

 シャムが作った会話用の魔法だろう。リオンの方にも飛んでいるみたいなので、私は指示通り杖を構えて風の槍を準備する。


「その一突きに無駄は無く、その一突きに慈悲は無く。穿て ウィンドランス」


 作った風の槍を、飛ばさずに杖の先に保ち続ける。

 これが意外と難しいんだけど、実はコツコツ練習していたのでそれなりの時間このまま耐えることが出来るのだ。


 保ったまま見ている先では、リオンが位置を変えながら魔獣を攻撃していた。

 じわじわと変わっていく位置を見つつ、風の槍がブレないように深く長く息を吐く。

 感覚的にはかなりの時間が流れたけれど、実際には長くて一分とかだったと思う。


「セルリア、今!」


 響いた声に反応して勢いよく風の槍を撃ち出すと、魔獣の身体は槍に当たった瞬間吹き飛んで、それなりに離れた大きな岩にぶつかって止まった。


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