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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
375/477

375,雨の日の移動

 ガルダを出発した日は野営で、その次の日はカーマインに宿泊した。

 カーマインは第三大陸の二つ目の街で、ギルドもあったけれど日光蝶は売らずに、まだシャムの腰辺りにぶら下がっている。


 カーマインに宿泊した翌日はゆっくり休み、買い物をしてから出発して第二、第三大陸間の関所まで移動して関所の仮眠室に泊まった。

 元々関所の仮眠室なんかで使おうと思って練習していた魔法がやっと使えて、それなりに便利な感じだったので私としては大満足である。


 そんなわけで関所を越えた今日は、ついに第二大陸に入った。

 ここからイツァムナーまではモーブという街を経由して、大体五日から七日くらいらしい。

 やっとここまで来たー!って気持ちになってるけど、まだ旅は半ばなんだよね。


「……なんか雨降りそうだな」

「ねー、どんよりしてきてる」


 ここまでの道のりでは雨は降らなかったんだけど、今日は持たなさそうだな……

 なんだか一気に天気が悪くなってきているし、早めに準備をした方がいいかな。

 なんて思っていたらぽつぽつと雨が降り始めた。


「うわ、降ってきた」

「濡れんのダリィな……」

「リオン、こっち寄って」

「お?」

「シャムとロイも」


 三人を傍に呼んで、そっと杖を回す。

 魔力を練って整形したら、頭の上に被せるように広げていく。

 クルクルと杖を回して厚さを均等にして、満足する大きさになったら中央から固定していく。


 ゆっくりと演唱を声に出しつつ固めていって、端がピシッと固まったところで杖を下ろした。

 うーん、我ながらいい出来。これなら急に壊れたりもしないだろうし、結構大きめに作ったから四人で入っても少し余裕がある。


「うお、すげぇ。なんだこれ」

「水傘だー!セルちゃん凄いね、難易度高いのに」

「去年くらいから練習してたんだ。やっと出番が来たねぇ」


 私がちまちま練習していた水傘という魔法は、便利だけど難易度が高い魔法だ。

 効果としては名の通り傘になる、んだけど、だけと言えばだけなんだよね。

 魔法で頭の上に水の膜を張って、それを固定化して雨避けにするので難易度のわりに効果は地味。


 だけど魔力の消費量が少なかったり、一回綺麗に固定出来てしまえば滅多なことでは崩れなかったりと、難易度相応の便利さでもある。

 頭の上で固めてしまえば自動追尾だしね。


 コガネ姉さんが旅をしていて便利だった、と言ってたくらいだから、その便利さは折り紙付きだ。

 ちなみに熟練の使い手になると上だけじゃなくて横とかも覆えて、何なら下まで覆えて水中に対応出来るとかなんとか。


「これ、触っても大丈夫か?」

「ちょっとくらいならね。流石に斬ったりしたら崩れると思うけど」


 あんまり刺激はしないで欲しいけど、そこまで神経質にならなくても大丈夫。

 そのくらいの頑丈さはあるからね。

 ちなみに傘は私についてくるので、雨の間は私が中央にいることになるかな。


「よし、行こうか」

「おー……すげぇなこれ。おもしれー」

「リオン、前見て歩きな。上を見たままだと危ないよ」

「おー」

「聞いてないねぇ」


 水傘は降ってきた雨を吸収するから、傘が水面みたいになるんだよね。

 だから面白いのも分かるんだけど、真上を見たまま進むのは普通に危ないと思うよ?

 まあリオンなら最悪転んでも、地面に衝突する前に自力でどうにか出来るか。


「じゃあいいや。行こう」

「おいセル?お前なんか雑に考えんのやめてね?」

「うん。リオンなら大丈夫でしょ。いけるいける」

「あぁー。セルちゃん、考えるの面倒くさくなっちゃったんだねぇ」


 シャムがヨスヨス、と声を出しながら頭を撫でてきたので、とりあえずされるがままになっておく。

 ……あ、これこのままだと何も進まないな。私が歩き始めればみんな進むか。

 向かう先はざっくりしか知らないけど、ズレ始めたらロイが修正してくれるでしょう。


「……そういえば、今日って野営の予定だよね?」

「そうだね。このまま降り続くようなら洞窟か何か探さないといけないかな」


 歩き出しながら、そういえば雨の日に野営ってしたことないなぁとふと思った。

 なんだかんだ今まで雨に降られたことも無かったからね、夜も特にそういうことを気にしてなかったんだよね。


「探すのはある程度進んでからでいいから、今は気にしなくても大丈夫だよ」

「そっか、分かった」

「まず探すべきはお昼に休憩できる場所だよねぇ。セルちゃん、水傘使いながら他の魔法って使える?」

「風なら使える。あんまり魔力食う魔法は、多分使ったら傘が崩れるかな」

「じゃあ、最悪雨宿りの場所が見つからなかったら、木の下なんかでお昼休憩でもいいかな?」

「いいよー」


 話しながら歩いて、一度時間を確認する。

 まだ十時くらいだから、昼休憩までに結構移動出来るかな。

 雨だからいつもよりは遅くなりそうだけど、予定からズレるほどの遅れは無いだろう。


「……リオンはまだ飽きないの?」

「おう」


 今日の野営場所やら昼休憩の場所やらを話している間も、リオンはじっと水傘の表面を見つめていた。

 そんなに面白いかい。……雨好きなのかな?




 とまぁ、そんなこんなで雨の降る中昼休憩を取ったりもしながら、第二大陸を順調に進んで行った。

 徐々に暗くなってきてからは今日の野営のための洞窟を探しながら進むことになったので、進む速度はちょっとばかり遅くなったけれどそれでも順調ではあるだろう。


 日が落ち切る前にどうにかいい感じの洞窟を見つける事が出来たので、そこに入って野営の準備をする。

 外は雨が降っているのでいつものように薪を集めることが出来ず、今日は荷物の中に入れてある固形燃料を使うことになった。


「いつもより火力が無いから、お湯が沸くのにちょっと時間かかるな……」

「つまり飯が出来るのに時間がかかるのか」

「そうだね。どうしても待てないなら干し肉を齧って待ってて」

「おう……」

「わあ、リオンが悲しそう」


 シャムに火をつけて貰って、鍋を取り出し夕食の準備をする。

 リオンがしおしおになっているから早く作らないと。

 けど火力が無いのはどうにもならないからなぁ……こればっかりは仕方ないので我慢してもらうしかない。


 そんなわけで味にもこだわるけどいつもよりは早めに味見と調整を切り上げて、一杯目は早めに出すことにした。

 二杯目からはいつも通りしっかり調整しよう。空腹は何よりのスパイスっていうし、大丈夫でしょ。


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