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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
373/477

373,修理完了

 暖かな日差しに欠伸を零しながら、のんびりと路面列車に揺られる。

 今日は前に時計屋さんに行ってから一週間経ったので、ロイの時計を受け取りに北区に行く。

 その後の用事は決まってないけど、時計が問題なさそうならそろそろガルダから出発することになるので、買い出しとかになるかなぁって感じだ。


 時計の修理が終わるのを待っている一週間でも、かなり色んなことがあった。

 結局クリソベリルの所には三回くらい行ったし、暇ーって日はなかった気がする。

 フィアールさんとも話は出来たし、杖も異常なし。非常に手に馴染むので、調整をかけて貰う必要はないだろう。


 そんなわけでガルダでやりたかったことは、もうほとんどやり終わってるんだよね。

 ヒエンさんにも時計が受け取れたら出発するって言ってるし……うん、問題はないな。

 ぼんやり考え事をしている間に路面列車は目的の停留所に到着していて、一回で降りる場所を覚えたらしいロイとシャムに促されて降車した。


「もしかして道も覚えた?」

「ある程度は」

「すげぇな」


 話しながら歩いて時計屋さんに向かい、お店が開いている事を確かめて中に入る。

 お店の中には今日もお客さんの姿はなく、扉が開いた音を聞いたのか奥からお兄さんが出てきた。

 ロイがカウンターに向かったのを横目に、私は時計を眺めるシャムの横に並ぶ。


「どうする?」

「……買う!あって困るものじゃないしね、次はいつ来れるか分からないしね」

「おっ。どれにするかはもう決まってるの?」

「これ!前に来た時から綺麗だなーってずっと思ってたの」


 シャムが指さしたのは、全体の色味が薄いオレンジ色の時計だった。

 ……花と、蜂かな?蓋と針に蜂が彫られていて、他の場所は細かい花が咲き誇っているデザインだ。

 花畑で花粉を集める蜂って感じ。全体の色味はオレンジとか黄色とかの暖色で、時々緑色も入ってるのかな。


「綺麗だね」

「ね!……あ、裏が蜂の巣みたいになってる」


 そっと時計を手に取ったシャムの手元を横から覗き込む。

 飾られている時は見えなかったけど、時計の裏側は正六角形が連なっていた。

 時々液体が垂れたような崩れ方をしてるのは蜂蜜ってことかな?


「可愛いー」

「裏まで柄が入ってるだねぇ、すごーい……」


 ロイの方はまだもう少しかかりそうなので、そっちが済むまで時計の細部を眺めていることにした。

 ついでに、細いチェーンとか付けて貰えるよ、と言っておく。

 私の時計にもつけて貰ってるんだよね。取り出しやすいし、ベッドサイドとかに引っ掛けられるからあったほうが便利な気がする。


 確か似た色味のチェーンを付けてくれるはずだ。長さは長いか短いかの二択……だったかな?

 私の時計は入学祝いにと買ってもらった物だから、買った時の記憶って四年前とかなんだよね。

 ちょっと曖昧だし、前とは違っているかもしれないので詳しくはお兄さんに聞いておくれ。


「お待たせ。シャムは買うことにした?」

「うん!ロイは終わった?」

「終わったよ」

「直った?」

「おかげさまで」


 ロイと入れ替わるようにカウンターに向かったシャムを見送って、正面に来たロイを見上げる。

 ニッコニコだ。やっぱりお爺さんの時計が直ったのが相当嬉しいんだろう。

 ……あれ、時計が二個ある?修理に出していたのは銀色の懐中時計だったと思うんだけど、ロイの手にはそれのほかに黒い懐中時計も握られていた。


「……それは?」

「あぁ、これはちょっと特殊な時計。時間を計る用の道具だね」

「……あ、乗馬の授業とかで先生が持ってるやつ?」

「そうだね、仕組みは同じだと思うよ」


 蓋を開けると、中の針は動いておらず、針は一本しかなかった。

 ついでに時計の円盤が中央ではなく若干下にあり、円盤の上にいくつかボタンのようなものがついている。


 どうやって使うんだろうなーと考えているのが伝わったのか、ロイは蓋の横についていたボタンを押して、続いてその下のボタンを押した。

 すると時計の針が動き出し、もう一度押すと止まる。上のボタンを押すと、針が頂点に戻る。


「おー……ここのボタンはなに?」

「何周回ったか分かるようになってるんだ。一周すると光る」

「ほえー」


 再度針が動き出したので、思わずジーッと見つめてしまう。

 ……ロイが笑ってるけど今は気にしないでおこう。反応したら負けな気がする。

 なんて思っている間に針が一周して、円盤の上の突起が一つ光った。

 ボタンを押すと針が上に戻り、光も消える。なるほど、リセットボタンなのか。


「おもしろーい」

「それ、何に使うんだ?」

「何かと使えそうじゃない?何となくでしか把握出来てなかった間とかが、数値としてしっかり見えるようになるからね」


 壁掛けの時計を眺めていたリオンも興味があったのか寄ってきて、後ろからロイの手元を覗き込んでいた。

 ……でっか。見慣れたつもりで居たけど、やっぱり二人ともでかいな。


「お待たせー!なんでそんな一塊になってるの?」

「計測器が凄く気になるみたいだね」

「あ、買うことにしたの?……おー、カッコイイ」


 二人のデカさを改めて実感している間にシャムが戻ってきて、正面に回り込んでロイの手にある時計を確認していた。

 これで用事は済んだので、お店を出ることにしよう。


 扉を開けながらカウンターを振り返ったらお兄さんが微笑みながらこちらを見ていたので、ぺこりと礼をしてから店を出る。

 来た道を戻りながらこの後の予定なんかを話して、とりあえず一旦エキナセアに戻ることになった。


「必要なものって何があるっけ」

「食料」

「はいはい。分かった分かった」


 買い出しの話になるたびにリオンが食料を主張してくるなぁ。

 それは絶対に買うから、とりあえず後回しにするんだよ。

 でもまあ、買い足すものは消耗品だけだし大半は食料か。何がどれくらいいるかはロイたちに任せたいところだけど、二人も結構多めに買おうとしてくるんだよな……


「まあ、市場に行ってみないと何があるか分かんないしねー」

「この間行ったのは朝市だったけど、この時間だと結構違ってたりする?」

「え、朝市とか行ったの?いつ?」

「二人が寝てる時かな。朝ごはんの食材を買いにおつかいにね。……あ、茶葉買わなきゃ。何がいいとかある?」

「分からん」

「言うと思った」


 話している間に路面列車が来たので乗り込み、北区から南区に向かう。

 その時間に市場の場所とかとりあえず確定で買いたいものとかの話をして、結果的に二手に分かれることになった。分散した方が買い物は早く終わるからね。


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