371,海の魔物
今日はあいにくの曇り空で、雨が降らないといいねぇなんて話しながらガルダの外に出た。
最悪降ってきてもどうにか出来るけど、面倒だから降らないに越したことはないね。
さて、そんなわけで今日の予定だけれど、今日は冒険者活動の日だ。
受けたクエストは外海に現れる魔物の討伐。
中型から大型、くらいの大きさらしいから、居たらすぐ分かるだろうとシャムが言っていた。
討伐対象の名前はカーレフ。大きなヒレが特徴で、色は青緑系の色らしい。
「陸には上がってこないんだよね?」
「うん。水面には出てくるけど、陸には来ないよ」
「じゃあそのままだとリオンは斬れないのか。どうしよっか」
「前に水場の魔物倒しに行ったときは飛ばしてたよな?」
「あー……飛ばした気がする。どうにか頑張れば多分飛ばせる。シャム、適当に飛ばしたらその後任せてもいい?」
「ある程度は頑張るよー!」
頑張ってくれるらしいので、私はとりあえず陸地に飛ばすことだけ考えればいいかな。
まあ、それでも中から大型だもんね、飛ばすだけでも割と大変な気がする。
そのあたりは見てから考えればいいだろうし……私の風の物理力は馬鹿みたいに高いからね、どうにか出来るでしょう。
「セルリア、水の中で風って操れるの?」
「魔法使いの作る水だと重かったりもするけど、海なら他からの介入はないからそんなに影響はないかな。水の隙間に風を入れていく感じ」
「なる……ほど……?」
「他の状態とそんなに変わんないよ。私が水中に居るわけじゃないからね」
説明が難しいけど、実際そんなに影響はないんだよねぇ……
身動きは取りにくいけど、動けない訳じゃない、みたいな?
私は普段から対象物だけを風で浮かせてるから、それが水中になっても弾く物が増えるだけでさほど手間でもないんだよな。
……うん、ちゃんと説明できる気がしないからいいや。
ロイは気になるなら誰かしら説明できそうな人に聞くでしょう。
ガルダに居る間ならクリソベリルとか居るしね。あの人たち説明上手だよ。
「さて。そろそろ海が見えて来るかなー」
「ちょっと飛んでくるね」
「うん。……あ、先に連絡用の魔法だけ組んでおこうか。もしかしたら、そのまま戦闘開始になるかもしれないからね」
「はーい」
ロイの言葉に従ってシャムと合同で魔法を組み、それを傍らに浮かべて空に上がる。
シャムの言った通り、少し浮かべばすぐに海が視界に入った。
天気があんまりよくないからキラキラはしてないけど、それでも綺麗だな。
なんて考えながら先行する旨を伝え、杖をブレスレットに固定して追い風を吹かせる。
海沿いまで飛んでいくと、このあたりは崖になっているのが分かった。
もう少し進むと浜辺っぽいところもあるんだけど、そこまで移動する方が手間だな。
「この辺崖になってる。足元注意してね」
「おう。……セル、打ち上げいけんのか?」
「頑張るけど場合によっては駄目かも」
話しながら高度を少し下げ、海の方へと移動していく。
もう真下は海かな。さて、それじゃあ三人が来るのを待ちつつカーレフを探そう。
探しながらカーレフについて、魔法関係の事を詳しく聞いておく。
「魔法を使ってきたりはしないと思うよ。魔力に多少干渉するって記録はあるけど、基本的にはしてこないかな。海の中だと波を作って狩りをしたりするみたい」
「打ち上げちゃえば関係ないって感じ?」
「うん。私も上から引き揚げるように魔法組んでみるけど、セルちゃんが駄目だと私じゃどうにもならない気もするなぁ……あ、崖着いたよー!結構高いね」
崖から下を覗き込んでいるシャムが視界に入り、こっちに気付いたようなのでとりあえず手を振っておく。どうやら魔法の準備をしてくれているようなので、私はカーレフを探すことにした。
少し崖から離れた位置まで飛んでいき、海の中を観察する。
ざっくり色が違うとか、動いてるとか、そんな感じの場所を探せばいいだろう。
うっかり別のを見つけた時は、どうするか確認を取る感じだ。
「……よし、魔法の準備できたよー」
「はーい。……あ、居たかも。傍まで誘導してみる」
シャムに返事をしていたら、ちょうど良くそれらしい気配を見つけた。
高度を下げて足先を水面のギリギリに持って行き、誘うように飛沫を立てる。
相手が私を見つけて追いかけてくるのを確かめて、捕まらないように速度を上げた。
「合ってるー?」
「合ってるー!打ち上げられそう?」
「やってみる」
崖の傍まで誘導してシャムに確認してもらい、合っていたので一度高度を上げる。
私が通った場所を伝うようにして打ち上げたかったので、崖のギリギリを登って陸地の方に身体を倒す。……うん、これでいいかな。
そこで一度風を切って、別に作った風を踏んで再び海の上へ。
まだそこにカーレフが居るのを確かめてからそこを越えて進み、崖の方に杖を向けた。
流石に無演唱だと辛いかな。どのくらいの魔法なら行けるだろうか。
「踊る風はワルツのように。軽やかに、軽やかに。
跳ね踊り回り踊れ ヴィントワルツ」
くるりくるりと風を回して、作り終わった魔法を崖を伝って海の中に吹き込ませる。
水が吹き飛ばされて、カーレフの一部が水の外に晒される。それを捕らえて周りに風を吹き込ませて持ち上げようと動かす。
「うわ、流石にこのままじゃ駄目か」
グン、と杖にかかる負荷が多くなったのを感じて、一度持ち上げるのは断念した。
カーレフの周りに纏わせた風は残っているから、ここから別の魔法を使って打ち上げるしかないかなぁ。
「シャム、魔法どこまで広がってる?」
「そんなに広くはないかな。来たのを捕まえて引っ張るようにした!」
「オッケー、んじゃ、ちょっと離れててね」
「はーい!」
シャムの魔法は崖の淵に引っかかる感じで作られているんだろう。
つまり、どんな勢いであってもそこまで上げてしまえば後はどうにかなるという事になる。
多分だけどね。まあ、シャムが捕まえるようにしたって言うんだから任せていいはずだ。
「回り巡りて作られし突風よ 我が道に従い万物を押し飛ばせ
ハイウィンド! 吹き飛ばせー!」
演唱を終えると、風は平たく面で押すような形になった。
物を押すことに特化している魔法なので、あらかじめ引いておいた道の方に誘導すればそこに乗って上まで運んでくれるはずだ。
そんなわけで組んだ魔法は、カーレフを押して徐々に速度を上げていく。
水から完全に出たところでカーレフの後ろに付き、そこから風を追加して途中で止まらないように調整しておいて、あとはシャムに捕まえて貰うのを待つことにした。
待つと言ってもそんなに時間はかからない。せいぜい数秒程度だろうね。
なんて思っている間に風の向きが変わり、カーレフが横に引っ張られていく。
邪魔にならないように私はそのまま上昇を続け、ある程度上がってから下を確認することにした。




