368,風の槍の効果
もう一度風の槍を撃って、先ほどと同じ威力が出たのを確認したところでこれが通常効果なのかを調べにいくことになった。
行くのは私とツルバミさんだけで、他は中庭に残るらしい。
建物に戻って廊下を進むツルバミさんについて行くと、途中で急に頭を撫でられた。
……いや、撫でるって言うか軽く叩くっていうか、そこまで軽くもないから慣れてなかったら軽く殴られたと勘違いしそうな感じではあったけども。
「放ってきて良かったのかよ?」
「……まあ、何だかんだ慣れるの早いので。戻ってきたら普通になんかしてると思いますよ」
「ほーん……ならいいか。ジェードも向こう行ったみたいだし、どうにでもなんだろ」
話しながらどうにか頭の上の手を退けようとしたんだけど、退けられなかったのでそのまま進む。
私の頭は肘置きじゃないんだけどなぁ……トマリ兄さんといいツルバミさんといい、一定以上でかい人は私の頭に肘を置くのやめて欲しいよなぁ。
「あ、そうだツルバミさん、私難呪習得したんですよ」
「お!マジか!どれだ?」
「多重連撃砲、らしいです。実戦では使えてないけど、練習では結構な威力出ましたよ」
「あー……確かにありゃあお前向きだな。もしかしたらそっちの威力も上がってるかもしれねぇぞ?」
「本当ですか?最近やってないから噛みそうであんまやりたくないですけど」
「常用は出来ねぇもんなぁ」
そういえばまだ報告していなかった気がしたので、ウキウキで初めての難呪習得の話をする。
そのまま昔見せて貰った難呪の話になった。ツルバミさんは難呪も結構覚えているらしく、どれが発動してどれが発動しないのか、どういう魔法なのかをメモしてまとめてあるんだとか。
私もいざ難呪を使おうとしたときに演唱が分からないと困るから、一応荷物に演唱のメモを入れてあるんだよね。使いたくはないけど。
複数扱えるようになったら効果も一緒にメモしておかないといけないのか……まあ、全部覚えておくなんて大変すぎるから、その方が確実だよね。
「……そういえばなんか、ツルバミさんに聞こうと思ってたことがあったんですけど……なんだったっけな」
「魔法のなんかしらだろ?」
「でしょうねぇ……攻撃魔法……水……あっ。水と氷の複合魔法だ」
「出来ねぇもんでもあったか?」
「発動はするんですけど、威力が落ちてて。先生が認識が混ざったんじゃないかって言ってたから、ツルバミさんに正解を見せて貰おうかと思ってたんです」
思い出してスッキリしたところで資料室に到着したので、とりあえず風魔法の資料を探して中をウロウロする。
ここにはクリソベリルが関わったあれこれの資料や、過去に所属していた人が残したあれこれが残っているから量が凄いんだよね。
魔法の資料だけでもすごい量だもんなぁ……この中にツルバミさんが収集したものはいくつあるんだろう。
この人周りから魔法バカって言われてるくらいだから、結構ありそうだけどどうなんだろうな。
「風の単体ならこの辺だろ……セルリア、お前右からな」
「はぁーい」
「……お前今他に練習中の魔法とかねぇの?水傘は出来るようになったんだろ?」
「今は……基本的に実戦でって感じでしたねぇ。杖折れたから半月くらい何も出来てなかったけど」
「杖はなぁ。下手なの持てねぇしなぁ」
資料を引っ張り出して、中を確認しては棚に戻していく。
風の槍……風の槍……無いな。この資料は全部補助系の魔法だ。
「……お、これじゃねぇか?」
「ありました?」
「おう。風単体攻撃魔法、難易度十五、四大属性武器系統」
「わぁ、すーっごいしっかりした分類だ。難易度十五だったんだ」
「知らずにやってたのかよ」
「むしろそこ調べてからやる事あります?」
「ねぇな」
魔法の難易度表記はあんまり見ないから、自分が使っている魔法でもしっかりした記述は知らなかったりするんだよね。
ちなみに難易度一が初期魔法で、最難は二十くらいだったはずだ。
「発動記録……大元の風の物理力に影響するようだが、明確な数値基準取れず。威力記録は……ダンジョンの壁面を破壊、別の通路への侵入口の確保に成功」
「通れるくらいでかい穴空いたんですねぇ……」
「お前ももう出来るだろ」
「帰ったらまずダンジョンいって壁壊さないとですね。楽しみだなぁ」
ダンジョンを壊すだのなんだの言っていても特に何も言わないの、慣れてる感じがするよね。
早々壊せるものじゃないはずなのに、クリソベリルの中には壊せる人が複数人居るらしいし。
というか、ツルバミさんも壊せるのでは?
「威力記録、多いですね」
「ま、細かく残した方が後々見るやつが使いやすいからな。……お、これか?ウィンドランスの練度が高まると風の特性によって効果が高まる場合がある。……特性の詳細はねぇみてぇだが、追加効果あるみたいだぞ」
「私の風、渦巻いてんのか……」
「普段から自分の周りで渦巻かせてるだろうが」
つまり一方方向にずっと吹かせてる、真っすぐな特性の風だと追撃みたいになるのかな?
それはそれでちょっと見てみたいけど、風の槍を使える人を他に探すの大変そうだし無理なんだろうなぁ……
「風の槍ドリルか」
「全てに穴開けますか」
「最高だな」
その後他にも面白い記述が無いか探してみたけれど特に目に付くものはなく、他の魔法の記録を少し漁ってから戻ることにした。
扱う属性を増やしたいなぁと呟いたら、ツルバミさんが良さそうな魔法を見繕ってくれたんだよね。
そんなこんなで記録を見漁って中庭に戻ると、そこには誰も居なかった。
移動したのかな?アヤメさんがシャムの事気になってたみたいだし、どこかでお茶でもしてるんだろうか。
とりあえずツルバミさんを見上げてみると、杖を揺らして何かを考えていた。
……何となくだけど、なんかちょっと嫌な予感がするから離れておこうかな?
ほら、なんか魔力集まってきてるし。ツルバミさん絶対なんかしらやる気でしょ。
「いねぇならまあ、仕方ねぇよなあ!」
「それとそのくそデカ魔法と何の関係があるんですかー!」
杖を回して風を起こし、それに乗って一気に距離を取った。
ツルバミさんが纏っているのはいつも通り氷と水なので、まだそれに染まっていない魔力を掠め取るように風に変換していく。
足元の風を強化して周りに分厚い壁を作ったところで、ツルバミさんの方から水と氷の連撃が飛んできた。とりあえず上に逃げて速度を上げ、それでも当たりそうな物を打ち消していく。
ついでにいくつか氷を止めて回収し、自分の魔力を浸して主導権を奪って浮かべる。
一から作るより楽だし、氷の純度が違うからこっちの方がいい感じなんだよね。
ちなみにこういう対魔法使いの姑息な手段を教えてくれたのは先生ではなく、シオンにいとモクランさんだったりする。
「反撃だー!」
ある程度氷の数が溜まったら勢いよく風を吹かせて氷を飛ばし、ついでに自分もその風に乗ってツルバミさんに接近した。この距離の方がお互いに魔力を奪いやすいし、争奪戦しましょ。




