367,クリソベリルの所へ
ガルダの路面列車に揺られてクリソベリルの拠点に向かいながら、ソワソワしている三人を眺めていた。
今日は曇り空だけど雨は降ら無さそうだし、これなら外でも遊べるなぁとかのんびり考えている私とは違って、みんな凄く落ち着かなさそう。
……そろそろ最寄りの停留所に着くけど、心の準備は大丈夫そうかな?
まあ大丈夫じゃなくても行くんだけどさ。
なんだかんだ会って話してたら慣れる気がするんだよねぇ。こっちが何かしら気にしてても関係なく絡んでくる人ばっかりだし。
「降りるよー」
「おう」
「ここからもう近い?すぐ?」
「まあ、すぐっちゃすぐ」
そんなに遠くはないし、話しながら歩いてたらすぐだよねぇ。
右腕にくっ付いてくるシャムを引っ張りながら歩き、見えてきた大きな建物を指さす。
クリソベリルの拠点は、割とかなりでかい。各個人の部屋とか会議部屋とか、その他色々と部屋があったりして建物も大きいし、それに加えて思い切り遊べる庭とかもあるからね。
「でっけぇなぁ」
「学校と同じくらいある……?」
「流石にそんなに大きくは無いと思うけど……」
学校の半分かそれより小さいくらいだとは思う。
まあ、学校は門から奥に広く土地があって、クリソベリルの拠点は横に広めだから、横幅は同じくらい……なのかな?いや分かんないな。モエギお兄ちゃんが居れば分かるんだろうけど。
なんて考えながら玄関の大きな扉についているノッカーを叩く。
するとすぐに応答があり、扉がゆっくりと開き始めた。
出てきたのはアヤメさんで、私と目が合った瞬間にバンッと勢いよく扉を開いて気付いたらしっかり抱きしめられていた。
「久しぶりねセルリアちゃん!前に会ったのはいつだったかしら二年ぶりとかなんじゃないかしら中々タイミングが合わなくて会えなかったから会えて嬉しいわー!見ない間にまた随分綺麗になって……本当に美人ね」
「お久しぶりです、アヤメさん。お変わり無いようで何よりです」
圧倒的な勢いに気圧されながら、とりあえず返事をする。
お元気そうで何よりです本当に……私は昔から会うたびにこんな感じの反応を取られているから慣れてるけど、後ろで三人が固まってる感じがするなぁ。
「もう一人可愛い子がいるわね」
「あ、シャムです」
「可愛いわ……って、なによコーラル」
「いつまで玄関で話してるの……久しぶり、セルリアちゃん。呼び出したみたいになってごめんね」
「いえ、元々来ようとは思ってたので」
アヤメさんが私から離れてシャムの手を取ったところで、奥から別の人がやってきた。
頭を小突かれたアヤメさんが文句を言っても一切気にしていないのは、よくあるやり取りだからだろうなぁ。毎回見てる気がするもん。
ちなみにこの人は、クリソベリルのリーダーさんだ。
先代が引退して今ではご隠居なので、この人がクリソベリルの全権を握っていると言っても過言ではない……はずなんだけど、なんか扱いが軽いんだよなぁ……姉さまも謎に苦手視してるし。
「あ、来たの」
「こんにちはモクランさん」
「セル!中庭行くぞ!」
「あ!ツルバミさん見てください!!杖新しくなったんですよ!」
とりあえず入りな、と中に入るよう促されて足を踏み入れると、玄関ホールに何人かの人がいた。
階段の上の方にツルバミさんを見つけたので、杖を掲げて自慢しておく。
見てー!かぁっこいいでしょー!
「風の槍撃ったか?」
「まだです!」
「じゃあやろうぜ。壁作ってやるよ」
降りてきたツルバミさんに寄っていき、わしゃわしゃと撫でられて乱れた髪を整える。
……あ、三人の事放置してはしゃいじゃった。大丈夫かな?
まあ多分大丈夫な気はするけど……駄目そうなら付いてくるか。
「モクランも来るか?」
「あとで行く。ジェード連れてこなくていいの?」
「そのうち気付くだろ。あ、お前も来とけ。アヤメに捕まると長いぞー」
「捕まるって何よ」
なんだかんだ全員中庭に移動する感じになったみたいなので、ウキウキでツルバミさんについて行く。ここでなら思いっきり魔法使っても大丈夫だって知ってるからね、楽しんだもん勝ちだ。
シャムがなんかすごいびっくりした顔してるけど、あれかな?特別授業で来てた時と態度が違うからかな?
こっちが通常だよ。学校ではあんまり目立ちたくなかったからちょっと距離を置いてただけで、会ったら大はしゃぎするのが常なのだ。
魔法関係だとここが一番お世話になってたし、今でもあれこれ教えて貰ってるからね。
三人が建物を物珍しそうに見渡しているのを横目に、私はツルバミさんにくっ付いて中庭に出た。
この杖はある意味風の槍特化の杖なので、これで撃って威力が変わるのかものすごく気になってたんだよね。
「っしゃぁ来いセル!」
「的作るの早ぁ……」
ちょっと目を離した隙に、なんか複数属性が絡み合ったやたら丈夫そうな的が出来上がっていた。
ツルバミさん、ウッキウキだなぁ。ノア先生もだけど、自分が使えるかは置いといて魔法が好きなんだろう。
「フル演唱でいきますか」
「当然だろ」
「当然なんだ」
本当に当然って顔で返されたので、杖を構えて演唱を開始する。
久々のフル演唱ウィンドランスだけど、さてどのくらいの威力が出るかな。
杖の先端にいつものように魔力を溜めて、演唱を始めたところでまず手ごたえが違った。
それまでは意識して先端が尖るように整形していたのが、勝手に尖っていく感じ。
杖の形に合わせるように変形していくから、私が整形するよりも鋭い気すらする。
演唱が終盤に差し掛かると手元からごうごうと音がしており、風の密度と強度が今までと段違いなのが感覚で分かった。
「穿て ウィンド・ランスッ!」
演唱完了と共に撃ち出した風の槍は、ツルバミさんが作った的に当たり、そのまま貫通して建物の防御壁に当たって止まった。
……的は、風の槍が貫通した後にその周りが削られた感じがした。今までは当たったらそれで魔法の効果は終わっていたはずなんだけど……
「ハァッハッハッハ!セルお前やべぇな!!」
「文句言おうと思ったけど今のは自分でもやべぇと思いますよ……えぇ……風の槍って追加効果あるのぉ……?」
「知らねぇ。知り合いでお前以外に使うやつ居ねぇしな。調べてみるか?」
私が困惑している横で、ツルバミさんが爆笑していた。
振り返ったらロイも笑ってるし、リオンはなんかキラッキラした目を向けて来てるんだけど……あれが今回限りじゃないかどうかだけ、確かめた方がいいかな?




