361,のんびりした朝の時間
ベッドの上でグーっと身体を伸ばして、時計を確認する。
六時前か。よし、起きよう。
隣で寝ているシャムを起こさないようにベッドを降りて、服を着替えて髪を纏める。
タスクと時計を持って寝室を出て、とりあえずリビングスペースにやってきた。
この宿には簡易キッチンも付いているので、お茶でも淹れてロイが起きるのを待っていようかな。
朝食はどうするか分からないけど、まあそのあたりはリオンとシャムが起きてからでもいいだろう。
そんなことを考えながらキッチンの横に置いておいた荷物から小鍋を取り出してお湯を沸かし、茶葉を入れて煮出していく。
ちょっと経ったら火を止めて蓋をして、この時間でカップを用意。
シャムが起きたら飲むかもしれないので、最初からカップは三つ取り出しておく。
リオンは朝あんまりお茶飲まないんだよね。
飲みたいようならその時に淹れることにして、鍋の中を確認した。
「うん、いい感じ」
お茶は鍋から注ぐときに、軽く魔法で操作して茶葉が入らないようにしておく。
遠出のたびにやっているのでこの作業も慣れたものだ。
三人分のお茶を淹れたら鍋を洗って、シャムの分には蓋をしておくことにした。
「おはようセルリア」
「おはよう、ロイ。お茶飲む?」
「うん。ありがとう」
カップを一つ渡して、自分の分を持って椅子に座る。
時計を開くと六時二十分になっていた。二人が起きて来るまではまだ二時間くらいあるかな?
リオンは放っておくと十時くらいまでは寝ているけれど、観光に行くのに起こさなかったら拗ねそうだ。
「今日は、水門を見に行くんだっけ」
「その予定だね。買い物も済ませたいし……昨日言ってたパン屋さんは、セルリアじゃないと分からないか」
「うーん……私も結構記憶が曖昧だからなぁ……」
話しながらお茶を飲み、ゆっくりと息を吐く。
そういえば、第三大陸に来たから小さな村とかでも目を隠す必要はないのか。
慣れなさそうな気もするけど、まあ過ごしている間にどうにか慣れるだろう。
「……あ、そういえば今日の朝ごはんってどうする?」
「どうしようか。二人が起きてくる前に買いに行ってもいいけど」
「朝市、行ってみる?」
「そうだねぇ。置き手紙でも残していけば、起きて来ても大丈夫だろうし……行こうか」
のんびり話している間に段々お腹が空いてきたので、ロイに朝ごはんの話題を振ってみた。
普段は二人を置いて行ったりはしないんだけど、ケートスの宿は一軒家みたいになってるからね。
手紙を書いて、机の上に置いておく。シャム当てにお茶あるからね、とも書いておいて、中身入りのカップを横に置いておく。
貴重品を入れているウエストポーチだけ身に付けて、後はタスクを持って一階に降りる。
小舟に乗り込んで扉の鍵を開け、外に出たらちゃんと鍵をかけて鍵はロイに預けておく。
向かう先は朝市なので、ここから一度船を借りたあたりまで出た方が早いかな。
「朝の水辺は心地いいね」
「ねー。いい風だぁ」
船に小さく追い風を吹かせて進み、他の船にぶつからないように進行方向を確認する。
ケートスの市場は店側も客側も船なので、見ているだけでも楽しい。
あちこちからいい香りがしてきてお腹が鳴ったので、目に付いた店にコインを投げて果実を買う。
風で誘導しようかとも思ったけど、店主のお兄さんが投げるの上手だったから必要ないかな。
果実をキャッチしてナイフで半分に切り、ロイに片方渡して口の中に放り込む。
うん、美味しい。シャクシャクな食感と甘すぎない果汁が朝にピッタリだ。
「……お、あそこにパン屋さんあるね」
「本当だ」
「例のパン屋さんってどんな人がやってる、とかは分かる?」
「優しそうなお婆さん。……あ、でも息子さん?お孫さん?とかが店番するようになったって聞いたかも」
「そっか、了解」
姉さま伝いにそんなことを聞いたような気がする。息子さんだったかお孫さんだったかは全然覚えてないけど。もしかしたらお弟子さんとかの可能性すらある。
まあ、別にそのあたりはしっかり覚えていなくても買い物は出来るから……
「ん?……あ、あった!あの船!」
「了解」
話しながら市場に並ぶ小舟を眺めていたら、見覚えのある店を見つけて思わず大きな声が出た。
記憶が曖昧だと思っていたけど、こうして見つけたら絶対にあれだって言い切れるんだから面白いよね。
そんなことを考えている間にロイが小舟を動かして店に寄せてくれたので、ポーチの中から財布を取り出しておく。
こういう時はざっくり値段を覚えておいて、後から代金を徴収するのが基本になってるんだよね。
「こんにちはー」
「こんにちは。……あら、久しぶりね」
「覚えてらしたんですか」
「ええ。今日はお友達と一緒なのね」
まさか覚えられているとは思わなかったのでちょっと驚いてしまった。
そのまま少し世間話をしてから朝食を買い、他の店も覗きつつ宿に戻る。
リオンはまだ寝てるだろうけど、シャムはそろそろ起きたかな?
借りている部屋の一階の扉を開けて船を中に入れ、しっかり鍵をかけてから二階に上がる。
階段を登った先にある扉を開けると、シャムがリビングスペースでのんびりお茶を飲んでいた。
私たちが帰ってきたことには気付いていたようで、ふわふわと笑いながら手を振ってくる。
「おかぇりー」
「ただいま。おはようシャム」
「おはよー」
まだ眠そうだけど、大分目は覚めているみたいだ。
隣に腰を下ろしつつ買ってきたサンドイッチを机に置き、とりあえずシャムに食べるかどうか聞く。
私とロイは食べたいのを選んで来たからね、シャムが食べないなら残りは全部リオンが食べるだろうし、一口だけでも食べたければお食べ。
「これ、昨日言ってたお店の?」
「そうだよー。運がいいことに見かけたからね」
新しくお茶を淹れる準備をしつつ返事をして、シャムのお茶の残量を確認する。
うーん……二人分よりちょっと多めくらいにしとけば、飲んでも飲まなくてもどうにかなるかな?
考えつつお湯を沸かして、その間にカップを用意しておく。
出かける前に使っていた物を洗って乾かし、そんなことをやっている間に良い感じにお茶が煮出されたので、茶葉を回収しつつカップに注いでいく。
……うんうん、いい感じだね。残った分はそのまま鍋に残しておいて、茶葉だけ取り除いておこう。
「はい、ロイの分」
「ありがとう。……シャムは、まだ残ってるのか」
「うんー」
ハムサンドをモソモソ食べていたシャムが聞いているのか居ないのか分からない返事をしているのを聞きながら、私も買ってきたサンドイッチに手を伸ばした。




