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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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36,楽しそうすぎて読書を投げた

 授業終了を告げる鐘が響いて、先生が教科書を閉じたのを合図に教室内の空気が一気に緩む。

 放課後になったので、皆動きが機敏だ。それぞれ目的地に向かって急ぎ足に去って行く。

 リオンもやる事があると言っていたので、私はこのまま図書館に向かう予定だった。


 今日も今日とて借りていた本を返して新しい本を借りて、それを抱えて部屋に帰って日課をこなして読書に勤しむ、予定だった。

 予定だった、のに。なぜだか私の目の前には見知らぬ人が居て、私の進路を塞いでいる。


 着ているのは戦闘職の制服だが、見覚えがないので先輩だろうか。

 だとしてなんで通せんぼ。なぜ私だけを通せんぼ。

 私は図書館に行きたいだけなのだが……あれか、気に食わないって言うのか?


 私が気に食わないのだと突っかかってくる人は若干名いたので、風でそよそよして差し上げたことが何度かあったがそれのせいか。

 ヴィレイ先生に事のあらましを話したらため息とともにお許しを頂いたから、私は悪くないぞ。


「……君、あれだよね」

「……あれとはどれでしょう」

「えっと……あのー、魔法適性!今年入学組の、魔法適性高い子!」

「……だとしたら何でしょう」

「ごめんね急に呼び止めて、というか通れなくして」


 思っていたよりも柔らかな応答に、強く握っていた杖を揺らす。

 私が気に食わないとかではなく、私の魔法適性が高いから声をかけただけ、なのだろうか。

 もう一人の今年入学者内適性最高レベルは既に部屋に戻って寝ているので、私が捕まったとそれだけなのだろうか。


「あ、先に自己紹介するな。俺はメイズ。入学三年目。よろしく」

「よろしく、お願いします……?」

「君は?名前は?」

「セルリア、です」


 穏やかに名前を聞かれて素直に答えてしまった。

 本当にこの人何がしたいのだろうか。少なくとも、私がそよそよして差し上げた連中と同じ部類ではないようだが。


「セルリアか、そっか。セルリアは、研究室所属してないんだよな?」

「あ、はい」

「もしよかったらうちの研究室見に来ないか?」


 キラキラと目を輝かせつつそんなお誘いをされた。

 ……研究室。別称遊び場。私は未だ無所属で、その話を聞いて私を誘いに来たと?

 よく分からない人だなあと思っていたら、メイズさんは私の無言をどう受け取ったのか服の裾をバサバサさせながら言葉を続けた。


「俺の所属してる研究室、結構特殊なことを題材にしててさ。魔法適性高い人が居た方がいいぞーって言われて入ってくれる子探してたんだ」

「……魔法関連なんですか?」

「んーや。魔法適性Dでも使える魔道具を、って研究室」


 分かりやすい名前だこと、なんて思いもしたが、それ以上に興味をそそられるので勘弁してほしい。

 このままでは読書を放り出してついて行ってしまいそうだ。


「お、興味ある?」

「あります……」

「なんでそんな悔しそうな……」


 なんでかと言われたら何となく悔しいからだけども。

 ここまで研究室に所属せずに来たし、もうどこにも入らなくていいかなと思っていたころにそんな楽しそうな場所の存在を教えられて悔しいだけだけれども。


「どう?見るだけ見に来ない?」

「あー……うー……ん?というか、魔法適性Dでも使えるかどうかって判断どうしてるんですか?」

「ああ、俺がそうだから」

「……ふぇ?」

「俺が魔法適性D種族。知ってる?」

「虚魔族……」


 それです!博識!なんて拍手をもらったが、それ以上に目の前のこの人が虚魔族であるというその事実にびっくりだ。

 魔法適性D、魔力を一切持たず、魔道具も扱うことが出来ない種族。


 こうして立っている分にはただの人間にしか見えない。

 が、目に魔力を込めて魔視を発動されると確かにそこに魔力はなかった。


「魔道具、使えるようになったんですか」

「いやー。それがまだ一個も完成してなくてさ。それで魔法適性高い子を探してた」

「適性高いと何かあるんですか」

「なんだっけね、んーっとね、視えたり弄れたり変換したり出来るから進みが早い?らしい」

「なるほど……私魔道具組めませんけど」

「そこは専攻組がやるから大丈夫!俺なんているだけだし!」


 ああ駄目だ。気になる。すごく気になる行ってみたい。

 ……もう、本は明日にでも借りればいいか。ここまで興味があるものを逃すような精神はしていないのだ。悪いことに誘われてるわけでもないし、ちょっと覗くくらいいいだろう。


「今日もやってるんですか」

「おう!来る?」

「お邪魔します。入るかは、まだ分かんないですけど」

「いいよいいよ!おいでおいで!」


 こっちだーと元気よく歩き出した先輩の後を追う。

 研究室は戦闘職も研究職も関係ないので、それぞれの教室棟を行き来したりもする。

 まあ、適性高いところに所属しようとすると自分の所属職にある研究室に入ることが多いみたいだけど。


 向かう先的に、魔法適性D種族でも使える魔道具を、という研究室は研究職の方にあるようだ。

 魔道具の制作は科目的にも研究職なので、それが妥当だろうと思うが。

 私も色々と魔道具を身に付けているが、作っているところを見たことはないので結構興味があったりする。


 前に研究室を見て回ったことがあったが、その時にはここの存在には気付かなかったのだ。

 まあ一気に見て目についたもの以外意識から排除したからだろう。

 あの時はそれなりに疲れていたから仕方ない。


「そういや、なんで研究室入らなかったの?興味あるのなかった?」

「あー……興味がありすぎて。全部やりたいから一個に絞れなくて」

「なるほどー。まあ所属時期とか自由だし、これだーってなった時に入るのが一番だよな」


 のんびり話しながら歩いて、慣れた様子で研究職の教室棟を進む先輩を見上げる。

 なんとも歩きなれている。まあ、研究室がこっちならかなりの頻度で来るのだろうけど。


「先輩は、研究室見つけてすぐ入ったんですか」

「俺はねー。魔道具使ってみたいってぼやいたら友達が先生捕まえて研究室作ったからその日に入ったね」

「……設立側だったか……」


 周りが当たり前に使っているものが使えない、というのは大変なことだろう。

 それをちょっと零した程度だとしても、そのお友達にとっては研究室を作る理由になるくらいの言葉ではあったのだろう。


 まあ、その一言だけで作ってしまう行動力は途轍もないと思うが。普通そこまで勢いよく行動するだろうか。なんて思っていると、先輩が足を止めた。そして目の前の扉に手をかける。


「さて。ようこそ我らが遊び場へ!」


風でそよそよ(そよ風とは言っていない)して差し上げた(売られた喧嘩を買い占める姿)

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