358,二度目の野営
セラドンを出発して少し歩いたところで、ロイが私の肩を叩いた。
リオンも気付いたようで速度が緩まったので、手の中の杖を軽く揺らしながら口を開く。
「まあ、私の所為なんだけど……」
「さっきも言ってたね。何かしたの?」
「んー……買い物?珍しいスパイスがあったからちょっとテンションが上がって」
「割といい値段だったのをためらわずに買ってたから金持ってると思われたんだろ」
「あぁ、なるほど」
話題は、二人を急かして出発した理由について。
実は私とリオンを隠れて付けてくる人たちが居たんだよね。
私でも気付くレベルだったからそんなに強くはないだろうけど、騒ぎを起こしても良いことはないから途中で撒いてきたのだ。
メインの杖が無い状態で迂闊な事するもんじゃないなぁ。
でもチョウジが売ってることなんて滅多にないから、たとえこの結果が見えてても買うしかなかったんだよね。
「まあ何事もなかったし、欲しいものも買えたならいいんじゃないかな」
「うんうん、リオンも一緒だったしね」
二人からもお許しが出たのでほっと息を吐く。
ついでにそこまでして買いたかったスパイスの事を聞かれたので、ウキウキでリオンにもした説明をする。
それはもうウキウキで説明しながら歩き、かなり順調に歩みを進めた。
今日は進めるだけ進んで野営の予定なので、日が暮れてきたらいい感じの場所を探して火をおこしたり周りに魔法を張っていく。
「セル、兎いた」
「取れる?」
「行ってくる」
リオンが夕飯を確保しに行ったのでとりあえず準備だけ進めておいて、杖を振って周りの風を軽く弄って情報を拾う。
……あ、リオン帰ってきた。早かったなぁ。
「どう?」
「取れた。二羽」
「おぉ、すごい」
捌いておいてくれるらしいので、私は他の準備を進めておくことにした。
このまま一回焼きたいから、鍋には水を張らずにちょっとだけ油をしいておく。
一羽は串焼きにするか。腹ペコたちが待ちきれなさそうにこっちを見てるし、丸ごと焼いた肉は切り分けてスープに入れたいからね。
スープが出来るまでの時間稼ぎにしよう、という魂胆だ。
そんなわけで先に一羽を細かく切って串にさして、塩と胡椒、それから香草振りかけて、火の傍に突き刺す。
もう一羽の方にはチョウジを刺して、とりあえずこれで焼く。
ちゃんとした味付けは後から煮込むときにやるからね。
串焼きをひっくり返したり、鍋の方を確認したりとやっていたら、ぐうぅー……っとかなり大きな音が響いた。
「……今のリオン?」
「おう。めっちゃいい匂いすんな、それ」
「凄い音だったね」
「何か今ので私も凄いお腹空いちゃった。セルちゃん、これまだ?」
「まだ」
伸びてきたシャムの手を打ち落とし、じっくり中まで火を通していく。
ぎゅるぎゅるとすごい音がしてるんだけど……これはもう気にしたら負けかな?
あとものすっごい視線を感じる。これも気にしたら負けのやつだな。
「……よし。さあお食べ腹ペコたち。あっついから気を付けてね」
「よっしゃー!」
「わーい!」
「そんなにお腹空いてたのかい。いやまあ、音は凄かったけども」
三人に串焼きを渡して、自分の分も一本確保して冷ましながら口に運ぶ。
うん、美味しい。ちょうどいい感じの味付けと焼き加減だ。
串焼きを頬張りながら鍋の方を確認して、表面がこんがり焼けたところで一度火から降ろす。
そのまま鍋の中でざっくり肉を切り分けて骨を取り除き、水を注いで他の具材を入れていく。
火の上に戻して煮込み、味を見ながら調味料を足していけば夕飯も完成だ。
やっている間に串焼きは全部食べきられていたので串だけ回収して、鍋の中身を器によそって渡す。
「うめぇ」
「それは良かった。……そんなに急いで食べなくてもよくない?」
「急いでるつもりもねぇんだけど……おかわり」
「はっや」
鍋を火から降ろしてお玉を渡したら、リオンはすぐに大きな肉を拾って行った。
本当にすごい勢いだなぁ……熱くないのかな?
あの勢いで食べたら口の中の皮とかべろべろになる気がするんだけど、それすらもならないの?
「リオンの特性なのか、鬼人はみんなそうなのか……」
「何がだ?」
「熱いの平気なの」
「あー……鬼人はそうなんじゃねえの?炎出せるらしいしな」
「へえ。リオンも出せる?」
「出せねぇ」
でも、確か属性は火だったよなぁ……やっぱり影響はあるんだろうな。
炎は出せないらしいから、是非とも今後初級魔法くらいは覚えて炎魔法を扱ってほしい。
そして出来れば他の人が出した炎魔法も干渉して動かせるようになってほしいな。
そうなれば、私がうっかりでっかい炎を出しちゃっても大事にはならなさそうだし……
今後炎系の魔法じゃないと攻撃が通らない魔物とか出て来そうだから、そういう時のために、ね?
あと、覚えたら何だかんだ便利だし。シャウラさんだって火おこしは魔法でやってるらしいし。
「リングあったら便利だよー?」
「そうだなぁ……興味ねぇわけでもねぇけど、やるにしても今じゃねぇんだよなぁ」
「そっか」
ならこれ以上は言わないでおこう。
……まあ、今後も思い出したように言う可能性はあるけども。
リオン魔法使えそうだから、どうしても使ってみてほしくなっちゃうんだよなぁー。
「セル、おかわり」
「え、もう鍋空になったの?」
「おう」
「はっや。次はもう干し肉だからね?」
話している間に鍋が空になっていて、差し出されたそれを受け取って水を注いで火にかける。
二杯目の鍋の準備をしながら自分の夕食をとりあえず食べきって、味付けを考えながら具材を入れていく。
ちょっと違う感じの味にしようかなー。今回は肉が干し肉だからどうせ同じにはならないし、比べてさっきの方が美味しいってなるよりは全く別の方がいい気がする。
そんなことを考えながら味を付けて、味見をして塩を追加する。
あとは……ちょっと砂糖。それとスパイス。……うん、美味しい。
渡したら全部消えそうだから、自分の分だけ先によそって鍋を火から降ろす。案の定すごい勢いで中身が減っていくのを眺めて笑い、よそった分を冷ましながら口に運んだ。




