356,第三大陸到着
ぽけーっと炎を眺めつつ、小鍋にお湯を沸かす。
今は日の出から少し時間が経った頃で、私が起きたのでリオンが仮眠を始めたところだ。
なので起きているのは私だけ。もう少しすればロイが起きるだろうから、先にお茶を淹れようと思ってお湯を沸かしているんだけど……眠いな。
「ふぁ……」
「眠そうだね、セルリア」
「ん、おはようロイ」
「おはよう。寝れなかった?」
「ちょっと浅かった感じはする。杖無いと落ち着かないー」
話しながらお茶を淹れて、カップを一つロイに渡す。
今回の茶葉はレイクレンを持ってきたので、朝のお茶にはちょうどいい。
目を覚ましがてらお茶を飲んで、朝食を作るのはまだ早いから時間を見ながらロイと喋る。
「そういえば、ロイはケートス行ったことあるの?」
「無いかな。……あぁ、船の動かし方はリオンが分かってるみたいだから、大丈夫だと思うよ」
「そっか。ところでロイって心読めたりする?」
「しないよ」
何を言うよりも先に知りたかったことを教えてくれたので、ついに心が読めるようになったのかと思ったけどそんなことはないらしい。
でもなぁ、自己申告だしなぁ。実際は読めててもおかしくないと思う。
なんて一人で頷きながらお茶を飲み、その後は天気の話とかをしながらゆっくり目を覚ましていく。
いい時間になったら朝食の準備を始めて、シャムの分のお茶を用意したり鍋の中身を味見したりとやっている間にシャムが起きて、朝食が出来上がる、という所でリオンが目を覚ました。
「いいタイミングで起きたね」
「めっちゃいい匂いするから目ぇ覚めた……」
ぐぅ、とお腹の音が聞こえて、思わず笑いながら器によそった朝食をリオンに渡す。
ロイにも渡して、シャムはまだ頭がぐらぐらしているのでお茶は持たせずに置いておく。
さて、私も食べよう。今日の朝食は我ながら上出来だからね、リオンが食べきる前にもう一杯くらいは食べておきたい。
「うめぇ」
「それは良かった。……私ももうちょっと食べるから残しといて」
「おう」
「リオン、僕の分も残しておいて」
「おう」
「本当に分かって返事してる?」
美味しそうに食べてくれるのは作る側としてはとても嬉しいけどね、でもそれを全部一人で食べきられると困るのよ。
シャムは朝ご飯食べないから、朝はおかわり作るつもりないんだよ。
「セルリア、どれくらい食べる?」
「それの半分くらい」
「じゃあ残りは貰うね」
「いいよー」
リオンが食べるの早いのは、熱さに対する耐性がやたら高いからだよね。
私は熱いの苦手だから冷ましながら食べているので、食べる速度にものすごく差がある。
なので、いつも通り食べているとリオンがいつの間にか鍋を空にしてるんだよね。
先にストップをかけておいたのもあってロイが鍋を確保しておいてくれたので、おかわりを貰って開いた鍋には水を入れておく。
シャムもお茶を飲み終わったようなのでそのカップも回収してまとめて水に浸け、朝食を食べきったら全員の器を回収してまとめて洗う。
洗い終わったら乾かして、重ねて一つに纏めて袋に入れる。
食材の方を確認するとリオンがしまっていたので、そのまま任せて自分の荷物を整理した。
終わった頃にはシャムも起きたようで、火の後始末をして出発する。
「食料結構減ってたぞ」
「まだ平気だよ。というか今日の夜には街に入るんだから、とりあえず昼の分があれば大丈夫だよ」
「お、そっか」
まだ余裕はあるけど、確かに二食分とは思えないくらい減ってる気がするんだよね。
鍋が大きくなったこともあってか減りが早い。
リオンが食料を運んでくれてなかったら、もう無くなってたんじゃないかと思うくらいの速度で減っている。
そんなことを話しながら歩き、昼前には関所に到着して、そのまま問題もなく第三大陸に入った。
もう少し進んだらお昼にしようという話になったので、タスクを持っていない右手で時計を持って進むことにする。
「セルちゃんの時計、綺麗だよねー」
「いいでしょ。これを買ったお店がガルダにあるから、ガルダに着いたら行ってみようね」
「うんっ!ロイも時計欲しいって言ってなかった?」
「そうだねぇ。今まで使ってたのが直るならそれが一番なんだけど……」
ロイの時計はお爺さんの使っていた物を譲り受けたと言っていたし、口振りからして今は止まったりしているんだろうか。
私の時計を調整してもらうついでに見てもらえるとは思うので、直ったらいいな。
「……ん?なんか居ねぇか?」
「どこ?」
「あっち。知らねぇ気配だ」
「……今の索敵範囲じゃ何も見つからないな」
リオンが居るっていうなら何か居るんだろうけど……拾える風の量が少なくて、ちゃんとした索敵が出来ない。今の状態だと大きい物をざっくり探すくらいしか出来ないんだよね。
風の量が少なくて薄いから、風が拾ってくる情報も穴だらけなのだ。
すーっごい気になる。違和感が凄いしちゃんと見えなくてムズムズするし、なんというかスッキリしない。
「んー……」
「念のため警戒はしておこうか。足を止めたくはないから、そのまま進もう。セルリア、唸っててもいいけど、風の量は増えないよ?」
「気になるー……」
ロイに背中を押されて歩き出しながら、手の中でタスクを弄ぶ。
気になる……気になるけど、ロイの言う通り立ち止まるわけにもいかないのでとりあえず歩く。
早く新しいロングステッキを入手して思いっきり風を吹かせたいなぁ。
飛びたいし、なんか魔力が余ってる感じもして落ち着かない。
あんまりにも落ち着かないから、実はリングにも意味もなく魔力を通してるんだよね。
リングに通せる魔力なんてほんのちょっとだから、全然意味はないんだけどさ。
「あー……思いっきり魔法撃ちたい……」
「頑張れセルちゃん、あと数日の辛抱だよ」
「そんなに落ち着かねぇのか」
「リオンも急に大剣が壊れて背中が軽くなったら同じことを思うだろうよ」
「……まあ、確かに落ち着かないかもしんねぇな」
宥められながら歩いている間に、リオンが見つけた気配は消えていたらしい。
その日はそれ以外に何かはなく、昼食も普通に食べて夕方にはセラドンに到着した。
入ってすぐに宿を探し、部屋を確保してから夕食を食べに出た。
食料を買いこんだりするのは明日かな。
完全に日が落ちると治安が悪化するのでね、さっさと夕食を食べた後は宿に籠る方がいいのだ。
今回は内側に扉があって廊下に出なくてもお互いの部屋を行き来出来るから、寝るまで喋っていられるから暇にはならないしね。




