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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
354/477

354,次の遠征予定

 部屋で四人分のお茶を淹れて、一度時間を確認する。

 そろそろ来るだろう、と思ったところで部屋の扉がノックされて、開くと三人が揃って立っていた。

 招き入れてお茶を並べ、お土産だと渡されたクッキーを机の中央に広げる。


 今日は今後の予定を決めようという事で、前回と同じく私の部屋に集まって話し合うことになったのだ。

 事前に淹れる予定のお茶をシャムに報告していたので、クッキーもそれに合わせて持ってきてくれたらしい。


「さて、それじゃあ次の行き先を決めるわけだけど……ガルダは確定だから、どこまで行くかっていう話になるね」

「前から話に出てんのはイツァムナーだよな?」

「うん。あ、そうだ。レークさんから返事来てたよ。いつでもいい、歓迎するって」

「そうなんだ、よかった」


 引き出しから手紙を取り出して、内容を確かめてからロイに渡す。

 レークさんは手紙だととても丁寧な貴族の人、って感じだから、文面だけだとちょっと緊張するんだよね。実際に会ったらテンションが凄い高いか低いかの二択で愉快な人なんだけどな。


「イツァムナーまで行ったらやりたいことは他にある?」

「はい!D魔道具の先輩に会いに行きたい!」

「私帰りに船旅してみたい!」

「剣とか弓とか有名だよな?確か。剣そろそろ鍛え直してぇんだよな」

「結構ありそうだね。じゃあ、イツァムナーまでで予定を組もう」


 ロイがどこからか紙とペンを取り出したので、机の上の物をずらして場所を開ける。

 これは……地図かな?持ち歩いてる、わけではないか。

 今日は予定を決めようと言っていたから用意してたんだろう。


「ここがイツァムナー同盟諸国。リオンが言っていた国はカウイルだね。船旅はここ、トルから乗って、帰るなら第五大陸のムスペルまで船旅になるかな。

 セルリアの先輩はどこに居るか分かる?ヴィストレーン家はカブルにあったはずだけど」

「んーっと……あ、あった。トルに居るって」

「じゃあ帰り道だ。キニチ・アハウは行かなくてもいい?魔法技術が色々と発達した国だけど」

「あっ……行きたい……」

「どうせなら全部回ろうぜ」

「そうだね。滞在期間は長めにして、見て回ろうか」


 帰り路が先に決まって、そこから行きの道順を決めることになった。

 とりあえず向かう先はガルダなので、主に決めるのは第三大陸で辿る道順について。

 第三大陸の四つの国には、私は一応行ったことがある。ガルダは特によく行くし、キマイラには姉さまの友人であるレヨンさんが居るので、お祭りの時はよく遊びに行っていた。


「ここがガルダだよな?直線で行くんじゃねえのか?」

「あー……ガルダとラミアの間には魔物の大通りがあるから、迂回しないといけないんだよね」

「内陸を通って行くか、外海沿いを通ってケートスに入るか、だね」


 中央にでかでかと森がある第四大陸よりはマシだけど、第三大陸も中々移動は面倒だ。

 ……まあ、大体どこの大陸も移動に難がある場所くらいはあるので、そんなに大きな問題ではないんだよね。


「私ケートス行ってみたいな」

「シャム、海好きなの?」

「好きって言うか、興味ある!森育ちだから!」

「あー、なるほど」


 確かに私も海に出るとちょっとだけテンション上がるんだよね。あれって、知らない場所に来た感じがするからなのかな。

 シャムと私は特に似た場所で育ったわけではないけど、お互い森育ちだからね。


「うーん……出先でクエストを受けたりもすることも考えて……休みまでにはギリギリ戻って来れるかな?」

「三か月くらいか?」

「そうだね。移動だけに時間を使うわけじゃないし……シャム、経路の確認お願い」

「はーい。……いつ出発にする?」

「なるべく早い方がいいよね」


 シャムとロイがざっくりと道順を考え始めたので、私とリオンはとりあえず邪魔しないようにお茶を飲みつつそれを眺める。

 ……おかわりいるかな?分からないけど、お湯は沸かしておこう。


「セル、杖買う店って決まってんのか?」

「うん。一本目の杖も二本目の杖も、同じところで作ってもらったからね。買い替えるならそこがいい」

「最初からガルダで杖作ったのか」

「姉さまは魔法はそんなに使わないからね。知り合いの魔法使いってことでとりあえずモクランさんに聞いたんだと思うよ」

「ほー……」


 姉さまに魔法を教えたのも、リングを渡したのもモクランさんらしいから、私の杖を作る時にモクランさんに聞いたんだろう。

 杖の職人さんがモクランさんがよく杖を壊す、と文句を言いながら私の杖を調整していたりもするので、私は最初からものすごく質の良い杖を持たせてもらっていたんだなぁと慄いた記憶もある。


「杖、折ったこと怒られるかなぁ……?」

「杖守って怪我するよりは怒られねぇだろ」

「それはそうだと思うけど……」

「一本目壊した時怒られたのか?」

「……いや、壊れた時の事を詳しく聞かれはしたけど、怒られはしなかったかな」


 許容量以上の魔力が流れたことで杖が壊れたのか、そうではないのかって感じの聞かれ方だったかな?昔の事だからあんまり覚えていないけども。

 まあ、魔力量の問題で杖が壊れたりすると爆発が起こったりするので、そのあたりを心配したんだろう。


「……ちなみにリオン、セルちゃんは普通に言ってるけど、杖が壊れるレベルの魔力量を心配されることって普通ないからね?」

「お?そうなのか?」

「リングは壊れることもあるけど、それ以外の杖は普通壊れないよ。セルちゃんの魔力量が桁違いなんだよ」


 シャムがリオンに魔力量の説明を始めたので、私は一旦お茶を淹れることにした。

 私が下手な杖を持てない第一の理由が、魔力量が多すぎてうっかり杖を壊しかねないってところだからね。第二の理由は最初から持ってた杖の質が良すぎて質の悪い杖だとうまく機能しないから。


 我ながら贅沢な悩みだとは思う。思うけれど、タスクで数日過ごしているとタスクに無理をさせている気がしてきてちょっと不安になる。

 平気だとは思うんだけど……新しい杖買うついでにこっちも見てもらった方がいいかもしれない。


「よし、出来た。全員他に予定が無いなら明後日出発にするけど……どう?」

「いいぜ」

「私も。早く杖作りたいし」

「一日あれば終わるかな……うん、私も大丈夫!」

「じゃあ明後日出発で。外出届は僕が作っておくから、確認だけしてね」

「はーい」


 話している間に日程を作り終わったらしいロイが、書き込みがされた紙を渡してきた。

 シャムは作るところも見ていたらしいのでその紙をリオンと一緒に覗き込み、ふんふんと分かったような声を出す。


「食料は……残ってる分で平気かな。途中で買えるだろうし」

「本当に足りるか?」

「外海に沿って行くから、魚は途中の村でも買えると思うよ」


 リオンが棚を開けて食料の残量を確認しているけど、普通はそれだけあったら平気だと思うんだよ。

 でもなぁ、みんなよく食べるからなぁ……明日、買い足しに行った方がいいかもしれない。


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