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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
350/477

350,戻ってきた第四大陸

 ビャンヒィ討伐後の後始末を終わらせて、私たちは村を出発した。

 素材として回収した毛皮とか爪とかで荷物がちょっと増えたけど、資金的にはかなりのプラスなので特に文句はない。


 ただ、討伐と後始末で最初に立てていた予定とはすこしズレた日程になりそうなんだよね。

 本当は今日で第四、五大陸間の関所まで行く予定だったんだけど、間に合いそうにないから手前の村で宿泊することになった。


 遅れた分は後半の移動速度を上げれば巻き返せるけど、まあそんなに急ぐこともないから焦らず進むことにする。

 ロイが学校に外出届出してくれたんだけど、向かう先が遠くになればなるほど何事もなかった時と何かあった時の日程にズレが出るからって最短日程と最長日程をざっくり書いておいてくれたらしいんだよね。


 そんでもって、その日程でいうところの最長日程まではまだまだ余裕があるから、焦る必要はないんだとか。

 リオンと揃ってほえーみたいな緩い声出しちゃったよね。


 そのあたりの事、丸々任せてしまって申し訳ない。

 でも出来るかって言われたら出来なくはないけど百倍くらい時間がかかりそうなので、これからもよろしくお願いします。


 なんてやいのやいの言いながら、私たちは第四大陸に戻ってきていた。

 今日は天気が良く風も穏やかなので、予定している移動距離は少し長めだ。

 それでも、第四大陸の森の気配に知らず知らずテンションが上がっているのか進む速度は速い。


「……そういえば、この森って姉さまのお気に入りのピクニック場所なんだよね」

「そうなの?へぇー」

「アオイさん、森ん中に住んでんのに森に遊びに行くのか」

「ヨルハ・プーアが居るんだって。姉さまヨルハ・プーア好きだから」

「え、ヨルハ・プーアいるの?ここに?」


 今日宿泊する予定の村が段々と近付いて来て、緊張がゆるんだのかふと村の傍にある森に目が向いた。

 第四大陸は大陸の三分の一程を迷いの森と呼ばれる大きな森が占めているが、それ以外の場所にも点々と森が存在する。


 その森の一つに姉さまが愛してやまないヨルハ・プーアという幻獣?が住み着いており、その小さなふわふわに会うために時々ピクニックに出かけていたのだ。

 姉さまが居ないと姿を現さないし、姉さまが差し出してくれて初めて触れるくらいの距離感だけど私もヨルハ・プーアは好き。可愛いからね。


「そういえば、アオイさんが珍しく自主的に読んでた薬学関係以外の本はヨルハ・プーア関係だってウラハさんが言ってたね」

「……ロイって、いつの間にかウラハねえと仲良くなってたよね」

「あはは。鑑定とか、ちょっと教えて貰ったからね」


 確かにウラハねえとロイは思考回路とか性格とか、相性良さそうだよなぁ。

 シオンにいはロイよりリオンを気に入ってるみたいだけど、皆がうちに泊まりに来てる時は研究職組と一緒に居るのを割と見かけていた気がする。


 多分私がリオンにダラダラ絡んでるのを見てるからリオンが気になってて、でも性格とか本能的には研究職組を見てるのが好きなんだろうな。

 まあ、そのあたりは今度帰ったときか、気が向いたら手紙にでも書いて聞いてみよう。


「さて、村が見えたし日が落ちそうだし、少し速度を上げようか」

「はーい。……シャム、目の色変えて貰ってもいい?」

「いいよー!」

「フード被んのか?」

「うん、落ち着くから」


 シャムに魔法をかけて貰って、フードを被って小走りで村に向かう。

 村の中には他にも数組の冒険者っぽい人たちが居たけれど、宿は無事取れたのでいつも通り二部屋に分かれて泊まることになった。


 宿に入って荷物を置いたら、とりあえずシャムと連れ立ってお風呂に向かう。

 私はちゃんと学習する生き物なので、杖は先にリオン達の所に置いてきた。

 宿のお風呂は時間に寄って男湯と女湯が切り替わるらしいので、そんなに長湯は出来ないかな。


「ほぇー……生き返る……」

「何だかんだ今回は村経由してるし、お風呂入れるの有難いねぇー」

「ねー。あ、セルちゃん見て見て。星綺麗だよー」

「ほんとだー」


 お湯に浸かりながら気の向くままに会話をして、温まったところでお風呂から上がる。

 身体を拭いて服を着替え、持ってきたタスクで風を起こして髪を乾かしながらロイたちの部屋に向かうと、二人は何かを食べていた。


「お、上がったか」

「おかえり」

「ただいまー。それなに?」

「宿の人に聞いたら、食堂はないけど村のパン屋が卸してるサンドイッチはあるって言われていくつか買ってきたんだ。食べる?」

「食べるー!」

「シャム、先に髪乾かそ?」

「ほい杖」

「ありがとー」


 預けていた杖をリオンから受け取って、タスクで起こすよりも強い風を髪の位置に絞って吹かせていく。

 私もだけどシャムの髪も長さがあるからね、いくら手慣れていても少しだけ時間がかかる。


「ほい、出来た」

「ありがとー!サラサラだ!」


 髪を乾かし終わったので杖は壁に立てかけて、リオンが差し出しているサンドイッチを受け取る。

 これなんのサンドイッチ?鶏肉と野菜?

 リオンは何食べてるの?熊肉?くま?くま食べてるの?


「うめぇぞ?」

「ちょっと一口……」

「ほれ」

「……確かに美味しい。これが熊か」

「食った事ねぇのか」

「あるかもしれないけど、記憶にはないかな。迷いの森に居る熊は大体魔獣だからね」


 魔獣も食べれなくはないけど、美味しくないやつが多いんだよね。

 ウラハねえとモエギお兄ちゃんの力を持ってすれば大体のものは美味しくなるけど、手間もかかるしわざわざ食べる理由もないので基本的には食べていなかった。


 トマリ兄さんとかは、昔には気にせず食べてたらしいけどね。

 家の料理に慣れてしまってからは美味しくなくて食べる気が失せるらしい。

 今でも割と野生に生きてる感じのあるトマリ兄さんから食料の選択肢を減らすとは、やはりうちの料理人たちはすごい。


「さて、浴場が男湯に切り替わっただろうから僕はお風呂に入ってくるけど、リオンはどうする?」

「あー……俺も行くわ」

「うん、じゃあ一緒に行こう。二人は?」

「部屋戻ってようかな」

「そうだね。お茶でも淹れる?」

「やったー!」


 食べかけのサンドイッチと杖を持って向かい側の自分たちの部屋に戻る。

 荷物の中から茶葉と小鍋を出して、シャムに小さな火を出してもらってお湯を沸かす。

 お湯が沸くのを待ちながらサンドイッチを食べきって、その後は明日の予定とか、全く関係のない話とかしながら、久々に二人でお茶会をした。


この話に付け頂いたいいねの数が300になっていました!

とても嬉しいです。いつもお読みいただきありがとうございます!!!

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