35,友人と買い物に出る午後
うっかり集合時間に遅れてしまったので走って門へ向かうと、私以外の三人は既に揃っていた。
合流しつつ謝ると全員から笑って頭を撫でられる。
せっかくまとめ直した髪だが、どうせ走って乱れているだろう。
「珍しいね、セルちゃんが遅れるの」
「水浴びしていたら時間使いすぎちゃった」
「ああ、そっち模擬戦やってたんだっけ」
「おう。楽しかったぜ」
研究職は今日も今日とて座学に励んでいたらしい。
魔法の形式暗記だったと言っていたけれど、それは先生に聞きに行っていい奴だろうか。すごく気になる。
「買い物どこから行く?」
「本屋は時間かかりそうだし後で、かな」
「じゃあ先に文房具見に行こー。私またペン壊れちゃった」
「シャムはなんでそんなに壊すんだろうね?握り方?」
「無意識に魔力込めたりしてるのかな?」
通算何本目かも分からないペンの破壊を行ったらしいシャムは、心底困っています、という顔で分かんなーい、と呟いた。
まあ、シャムは一日に書く文字数が非常に多いので仕方ないのかもしれないが。
私はインクとノートの補充だ。まとめて買っているのだが、気付くと無くなっているので忘れないうちに買わないといけない。
文房具店に用事がないのはリオンだけで、彼もまあ用事はなくとも楽しそうに店内を見ているのでいいだろう。
いつも使っているインクと、端的に好きな色のインクをノートと一緒に纏めて会計に持っていく。
支払いを終えて店内を見渡すとシャムとロイが何か話し合いながらペンを見比べていた。
あれはいつも通り、シャムのペン選びだろう。
「決まった?」
「んー……今回はこれにする」
「壊れる原因が分かればいいんだけどね」
「今度誰かに聞いてみようか」
「誰かって?」
「……姉さまの、知り合い?」
壊れる理由を教えてくれそうな人は何人か心当たりがあるが、どういう関係性かと言われれば皆姉さまの知り合い、程度の仲。
そもそもあの家からほとんど出なかった私に個人的な知り合いがいるわけがない。
本気で会いたいなら姉さま経由で連絡を取ってもらえばいいし、なぜか私はそれなりに可愛がられているので手伝ってももらえるだろう。
会いたいかと言われたら微妙だが、それは一旦置いておく。
非常に有能な人というのは、不思議な……他と違う気配を漂わせていることがほとんどであり、ついでに変人と言われる類の人であったり、まあとにかく扱いが面倒なのだ。
姉さまはある種同類なので普通に話しているが、私は正直ちょっと苦手なので。
「そういえば、話変わるんだけどさ」
「うん?なあに?」
「長期休暇があるでしょ?みんなどうするのかなーって」
言われて存在を思い出した長期休暇は、入学から四か月ほど経った頃にある休みのことだ。
長期というだけあってそれなりに長い期間休みになり、その間に家族の元へ帰ったりなんなりするものらしい。
過ごし方は自由だそうだが、ほとんどの人は家に帰るのだろう。
私もいい加減帰らないと姉さまが騒ぐ、と手紙で催促を受けているのだった。
返事を書かないと、と思いつつ他三人の表情を窺う。
「俺は……帰ってもなー。あいつ家に居んのかな」
「居ないことあるの?」
「居ねーんじゃね?俺が家出るから自由にあちこち行けるーって言ってたし」
リオンは血縁ではない魔法使いに育てられたと言っていたので、居ないというのはその魔法使いのことだろう。
家に居ないなら帰っても会えないし意味はない、ということなのだろう。
「ロイは?」
「僕は帰るよ。話聞かせろって言われてるし」
「そっかー。私も帰らないとなー……村までの移動方法考えるの面倒だなー」
「セルリアは?」
「私も帰るよ。催促されてるから」
「俺以外みんな帰んのか。まあ、そうだよなー。冒険者登録でもして宿代稼いで過ごすかな」
……防犯のしっかりしている安めの宿とか教えてあげるべきだろうか。
そのあたり杜撰でもリオンならどうにかなりそうではあるが、放置は流石に心が痛む。
かといって家に来る?というには付き合いが浅い気がするし、何よりあまり人に言いふらせない用事をあれこれ入れられそうなので。
とりあえず帰宅の方向で返事の手紙を書こうと決めて、話しながら買い物を続ける。
長期休暇明けに学校に戻ってこない生徒が一定数いるらしく、休み明けから二週間経っても学校に来なければ除名処分になるらしい。
帰宅組はそれだけ気を付けろーと言われていたが、そうなると個人的にはソミュールが心配でならないのだが。
彼女はどうするつもりなのだろうか。何も考えていないなんてことはないだろうが。
休暇に入る前に聞いてみようと心に決めつつ杖を回す。
私の予想だと、休暇明けにミーファが駆り出されるような気がするのだが。
……そもそもミーファはどうするのだろうか。彼女が忙しいならソミュールの回収は別の者が行った方がいいだろう。
そのあたりも含めて二人纏めて捕まえよう、なんて内心で勝手に決めて、市場を見て回っている三人を追いかける。
それほど離れてはいなかったが今日は市が賑わっているので、下手をしたら逸れそうだ。
「なー、セル!」
「ん、何?」
「これどっちがいいと思う?」
「……右」
「お、分かった」
急に呼ばれたと思ったら、両手に持ったものをずいっと向けられた。
何かと思えば腰に付けるタイプのカバンのようで、個人的な好みで右と言えばリオンはそのまま会計を終えていた。
やけに信用されている。……私が同じような形のカバンを愛用しているからだろうか。出かけるときに楽なので、今日も着けているが。
これは元々姉さまが使っていたものらしく、新しいものを買おうかと言われたのを断って貰った物なのだ。
姉さまが旅をしていた時に使っていたと言っていたが、かなり丈夫らしくほつれたりしている箇所はない。外付けの袋もぶら下げているのにへたれもしない。
……これも何か特殊な加工とかされているタイプの物だったのだろうか。
姉さまの持ち物は大抵特殊加工と過保護の結晶で出来ているのだ。
今更だが、帰ったら聞いてみよう、とため息を吐いた。
「セルちゃーん。いこー」
なんと言いだそうか、なんて考え始めたところで名を呼ばれ、ハッとして手を振っているシャムの方へかけていく。とりあえず今は買い物を楽しむべき、だろう。




