347,風の中心に居るモノ
レイラとレイラのお母さんに精霊云々の話をして、多分魔法の才能もあるだろうと言っておく。
少しだけでも聞こえてるなら、魔法適性はかなり高いだろう。
ロイがフォーンの王立学校とかの話をしているのを横目にレイラの前に小さな氷を作ったりして遊んでいたんだけど、少ししたら疲れたのか寝てしまった。
まあ、あの風の中一人で洞窟に居たわけだし、そりゃあ疲れて当然だよなぁ。
そんなわけでレイラはお母さんと一緒に部屋に戻っていき、私たちはどうするんだろうかとロイを見たら手招きされたので空いた椅子に座る。
「さて、ちょっと相談なんだけど、この風の発生源をどうしようかなって」
「風の発生源?何か居るの?」
「うん。セルちゃんがレイラちゃんを探しに行ってる間に、私とロイで調べてみたんだ」
「恐らく、魔物上位種のビャンヒィだと思うんだけど……そうなると、討伐は少し手間がかかるんだ」
リオンは先に聞いている内容なのか、特に何も言わず私の様子を窺っている。
ビャンヒィなぁ……聞き覚えがあるような、無いような。
この風の発生源ってことは、私は風関連で名前を聞いたことがある……んだろうな。多分。
「ビャンヒィってどんなの?大型?」
「うん。大型で、足が八本ある……白くて長い魔物かな」
「全ッ然姿が想像できないんだけど」
「イタチの足を増やした感じが一番近いかな?」
「……ふむ?」
何となくで想像しながら、続く説明を待つ。
二人が討伐を検討するってことは、倒せなくはないんだろう。
けど面倒なんだろうな。手間かかるって言ってたしな。
「ビャンヒィの一番厄介な所は、この風の中心部に居るってところだね」
「近付けば近付くほど風が強くなっていくから、対抗策が無いと飛ばされちゃうんだよね」
「近付ければそんなに装甲が硬いわけでもないんだけど……ただ、風で剣も流されるから基本的には避けられてる魔物だね」
「なるほど……まあ、この風だもんね、そりゃあ流されもするよね」
私は風で剣を受け流したりしてる側だから、面倒だろうなぁと他人事に思うだけだ。
重量があれば流されにくくはなるけど、リオンみたいに大きな剣を使ってると風の当たり方によっては一気に押し流されることになる。
「放置したら少なくとも数日はこのあたりに留まるだろうし……長いと数か月動かないこともあるみたい」
「それは……ちょっと放置は出来ないよねぇ」
「うん。だから、どうしようかなって」
放置は出来ないけど、討伐は面倒。ついでに言うとクエストを受けたわけでもない魔物だ。
まあ、クエストを受注していないと倒しちゃいけないなんて事は無いし、倒せるなら特に問題はないだろう。
風なら私の独壇場だしね。明日くらいなら、シルフィードの上乗せ加護もギリギリ残っているかもしれないし。
「じゃあ、詳しく作戦を決めようか」
私がやる気なのを察したのか、ロイが笑いながら机の上に紙を広げた。
既に何かが書き込まれているので見てみると、このあたりのざっくりした地図らしい。
洞窟の位置を見て何となくの縮尺を把握して、渡された小石を手の中で弄ぶ。
「風上は、このあたりだと思う」
「思ったより遠いな」
「もっと風は強くなるよ。セルリア、中心部近くでリオンと一緒に飛べるかな?」
「んー……多分行けるけど、二人の方に風を残すのは難しいかも。明日のコンディションによる」
私の手の届く範囲なら、まあどうにか出来るだろう。
今日レイラを抱えて飛んでいたのもあって、いつもより加護の範囲が少しだけ広がっている感じがするし。
「どうあれセルちゃんに飛んで行ってもらうしかないけど……大丈夫?」
「大丈夫だよ。風は私を傷つけられないから」
「おぉー……カッコイイ」
「……なんかちょっと恥ずかしくなってきた。さっきのナシで」
実際私は風に対してだけ防衛能力っていうか、自動防衛がすっごい働いてるんだよね。
何もしてなくても風魔法を向けられた時だけは怪我とかしないし、吹き飛ばされても壁側に風が起こって無傷だったりする。
あれ、加護とかを通り越して「傷をつけられない」っていう制約かなんかじゃないかなぁ……って思ってたんだよね。
学校戻ったらヴィレイ先生辺りに聞いてみようかな。
「じゃあ、セルリアは今日は早めに休んで魔力の回復に専念してもらったほうがいいかな」
「はーい」
元気に返事をしたところでレイラのお母さんが戻ってきて、お風呂に案内してくれたので荷物を持って有難くお風呂を借りる。
ご飯もあるらしい。やったぁ、至れり尽くせりだ。
そんなわけでゆっくりお風呂で温まり、皆の所に戻って夕ご飯を頂く。
夕飯を食べながら、そういえば元々この村に来た理由だったお届け物はどうなったんだろうかと気になった。
気になったので聞いてみたら、私がレイラを探しに行っている間にロイが無事届けて完了報告の書類も記入してもらってあるらしい。
そんなに長時間離れていたわけじゃないと思うんだけど……流石だなぁ。
「僕とシャムはビャンヒィの詳しい位置を測定したり、事前にちょっとした準備をしたりするからセルリアは先に寝てて。リオンは……まだ眠くないかな?」
「おう。外見てるから気にしなくていいぞー」
「じゃあ私は寝よっかな。あ、リオン、外套貸してー」
「なんだ?寒いのか?」
「安心毛布。風の魔力とシルフィードの魔力とビャンヒィのっぽい知らない魔力がごちゃごちゃでちょっと落ち着かないから」
「……セルちゃん、リオンの魔力好きだよねぇ。前も寝る時に探してなかった?」
「なんかこう、トマリ兄さんと同じ安心感があって。寝やすいんだよね」
「まあ、何でもいいけどよ。ほれ」
「わーい。ありがとう」
リオンから外套を受け取って、レイラのお母さんに案内された部屋に入る。
ベッドはどれでもいいみたいだから、一番近いベッドに近付いて腰かけた。
そのまま倒れるように横になり、掛布団の中にモソモソと入り込む。
その上からリオンに借りてきた外套を乗せて包まると、外の暴風から意識が逸れて一気に眠気がやってきた。
外では暴風が吹き荒れているけれど、私の周りは結界でもあるかのように静かだ。
これが加護なのか、それとも単なる気持ちの問題なのか。
分からないけど、安心するのは確かなので深くは考えないでおく。
寝る時に変に考え事してると目が覚めちゃったりするしね。まあ、本当に眠い時は関係なく寝るんだけども。
「……ふぁー……あったか……」
我ながら脳が溶けたようなゆるーい呟きだなぁ、なんて思いながら、風で揺れる窓に目を向けた。
温かいのは安心する。安心すると、眠くなる。
なんだかんだ今日は昼休憩の後からずっと魔法を纏っていたし、ようやく気が抜けた感じだ。
しばらくそのままボーっとしていると自然に瞼が落ちて、やっぱり思ったよりも疲れてたんだなぁなんて思いつつ眠りに落ちた。
明日はまた魔法を使いっぱなしだろうから、しっかり眠って回復しないといけない。




