345,強風の中へ
昼休憩を挟んで村に向けて歩いていると、休憩前から感じていた違和感のある風がどんどん強くなってきていた。
違和感もだけど単純に風が強くなっていて、私が魔法で風よけをして一塊になって進むしかなくなるくらいだ。
「……リオン、これどう思う?ヤバめ?」
「威嚇したくなる」
「うーん、じゃあなんか居るんだろうねぇ」
「何が居るんだろうね。村の人が無事だと良いんだけど……」
リオンが前方を睨みながら低い声を出しているので、本当に何かしら警戒するべきものがいる感じがする。
リオンのこの威嚇、トマリ兄さんがたまにやる威嚇にちょっと似てる。嫌なものがいる、って本能で感じてる時にするんだってシオンにいが言っていた。
「村まであとどのくらい?」
「向かい風でちょっと速度が落ちてるから……まだかかるかも。急げば夕方前くらいに着くかなぁ?」
「どうする?急ぐ?」
「これ、確実に村の方から吹いて来てるよな。行く村ってどんなとこだ?」
「特に特徴もないような平和で小さな村だって聞いたよ。……急ごうか。行って確認しよう」
ロイの声に応じて、正面の風を厚くする。
今先頭に居るのは私なので、速度調整も私がすることになる。
極端に速かったり遅かったりすれば後ろに居るシャムが調整してくれるので、気持ち早めに歩くことにした。
早歩きか小走り、くらいの速度で進んでいると、正面に小さく村のようなものが見えてきた。
風が強かったからあんまりこまめに確認とかもしていなかったのにここまで綺麗に正面に来るなんて、シャムとロイの地図の把握能力はどうなっているんだろうか。
なんて考えながら村に近付き、一応警戒しながら村の中に入った。
リオンが村そのものには威嚇してないし、さらに風上があるみたいだから多分この風は村が原因ではないんだろう。
「……人の気配はするね。強風だから家の中に居るのかな」
「あ、誰か出て来たよ」
この風じゃ外に居るだけで危なさそうなので、中に居るのは正しい判断だろう。
どうしようかと思っていたら、家の中から数人の人たちが出てきた。
風に煽られて転んでしまいそうだったので自分たちの周りに張っている風と同じようなものを作って飛ばし、話を聞くために近付く。
「こんにちは、村の方ですね?この風は……」
「分かりません、今日の朝から急に吹いてきて……あの、この風の中を進んで来られたんですよね?それにこの風……」
出てきたのはお爺さんと女の人だった。
ロイがお爺さんと話している間、その後ろで私が作った風に触れようとするかのように手を彷徨わせていた女の人が急にこっちを向いた。
「村に来たばかりの人に頼むことではないかもしれないのですが、一つ頼みを聞いていただけませんか!?」
「何かあったんですか?」
「娘が、風が吹き始める前に出かけてまだ帰ってきていないんです!そう遠くには行っていないと思うのですが、風はどんどん強くなるし私が探しに行くのは止められてしまって……」
それを聞いて、ロイが私の肩を叩いた。
シャムが杖を取り出したので今作っている風はそのまま使ってもらうことにして、私はとりあえず荷物を下ろして杖をブレスレットに固定する。
「どのあたりに居るとか、心当たりはありますか?」
「普段遊んでいるところは……あの、高台のあたりです。小さな洞窟もあるので、風を避けようと思ったらあそこに逃げているはず……」
「分かりました。シャム、風取れた?」
「オッケー!流石に弱くなるから家の中に逃げ込む間しか持たないよ!」
「行ってくる」
「セルリア、日が落ちるまでに見つからなかったら一度戻ってきて」
「分かった」
風をシャムに受け渡して、私は新しく風を纏って空に飛び上がった。
一人分なら飛行も問題ないし、この風の中人を探すことも出来なくは無さそうだ。
日が落ちるまで……一時間あるかないかくらいかな?
「舞え、踊れ。我風の民なり、風の歌を歌うものなり。
集え我が風、愛おしきと歌うなら」
短く唱えて風を強くし、教えて貰った丘の方へ飛ぶ。
風はどんどん強くなるけれどまだ私の風の方が強いかな。何せ風精霊の加護があるからね。
どんな暴風であろうとも、風は私を傷つけないのだ。
「どこだ……どこだ……」
高台の洞窟を探して丘の周りを飛んでいると、それらしき場所が索敵範囲に引っかかった。
他に比べて明らかに風が弱い場所。四方八方から風が吹くこの場所の中で、唯一一方からしか風が吹いていない場所。
見つけたそこに向かって方向を調整し、移動しながら日の位置を確認する。
……なんか思ってたより沈むの早いな!?
日暮れが早いってことなのか、思ったより時間が経過しているのか。
時計を出して確認する余裕はないので、まあどっちでもいいだろう。
どっちにしろここに居なかったら戻って報告しないといけないし、と思いながら見えてきた洞窟の入口に着地して、中を窺う。
聞いていた通り大きな洞窟ではないみたいだけど、奥の方に進めば風を避けるくらいは出来そうだ。
村の子供たちの秘密基地なのか色々と物が置いてあるし、咄嗟に逃げ込む場所として選ぶ確率も高そう……かな?私秘密基地とか作ったことないからなぁ……
「おーい……えーっと……名前聞いて来ればよかった……」
「お姉ちゃん、だれ?」
「あ、よかった居たー。こんにちは。えっと、さっきこの村に着いた旅人で……君のお母さんから、探してきて欲しいって頼まれたんだ」
「おうち、帰れる?あのね、急に風が吹いてきて、外でられなかったの」
娘とは聞いてたけど名前を聞くのを忘れてたな、と今更思い出し、なんて呼びかければいいんだろうかと悩んでいたら奥の方から返事が聞こえて、小さな女の子が出てきた。
ルナルより小さいな。この風の中、洞窟の外に出れば飛ばされてしまっていただろう。
「君、名前は?」
「レイラ。お姉ちゃんは?」
「セルリア。……さて、レイラ。私は、この風の中を飛べる。君を抱えて村まで飛ぶけど……私の事、信じられるかな?」
目線を合わせるようにしゃがんで、レイラの顔を窺う。
この子を抱えて飛ぶくらいは出来るだろうけど、それには私を信じて貰わないといけない。
流石に暴れられたりすると制御がブレるし、少しブレるだけでもこの強風の中ではかなり危険だろうからね。
安全にレイラを村に送り届けるためにも、今この時だけは私を信じて貰わないといけない。
でもまあ、今初めて会った人間を信じろってのも難しい話だろうから、ちょっと待つくらいはしてもいいだろう。
日が暮れても戻って来ないとなっては皆に心配をかけてしまうけど、この子の安全が第一だから後から説明すれば怒られはしないはずだ。
……はず。多分。でもこの風の中だと連絡に魔法を飛ばすのも難しいだろうからなぁ……怒られたとしても、こうするしかなさそうなんだよなぁ。




