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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
339/477

339,乗合馬車の護衛

 朝食を食べ終えて食堂を後にし、部屋に戻って荷物を回収する。

 そのままリオンの部屋に向かい、絶対起きていないリオンを起こすために全力で扉を叩いた。

 今日は絶対に遅れるわけにはいかないので、隣の部屋の人には迷惑かもしれないけれど朝から扉を叩いて声を張らせてもらう。


 昨日は月末の書類提出があり、それが終わって一ヵ月はとりあえず自由に動けるこのタイミングでしか出来ないことがあるのだ。

 と言っても私たちが日程を決められることでもないので、綺麗に噛み合ったのは運が良かったとしか言えないけれど。


「リオーン!起きろー!」


 ダンダカダンダカ扉を叩いて、声を張る。

 それを数分続けていたら部屋の中から物音がして、一歩下がると扉が開いた。

 いつもより眠そうだなぁ。去年はこの時間から毎日授業受けてたでしょうに。


「おっす……」

「おはよう。行くぞー」

「おう……」


 部屋に引っ込んでから物の数分で出てきたリオンは、すっかり目も覚めているようだ。

 歩きながら朝食の時に取ってきておいたパンを渡し、一応時間も確認する。

 今日は乗合馬車の護衛をするのだ。しっかり目を覚まして、ついでにちゃんとご飯も食べておいてもらわないと。


 向かう先は第五大陸、ネフィリム。

 フォーンからいくつかの村と国を経由して行くことになる。

 第四大陸の村に泊まるのはちょっと気が重いけど、まあそこは仕方ない。


「あっ!おはよう二人とも!」

「おはよー。元気だねシャム」

「眠気を覚ましてるところ!」

「なるほど」


 中央施設に鍵を預けて、門の前で二人と合流する。

 そのまま大通りに出て進み、乗合馬車の出発地点に移動した。

 そこで今回護衛する馬車の御者さんに挨拶をして、ロイがギルドから貰って来た紙を見て何かを確認しているのを横目に私たちは馬車の方を見ておくことにする。


 お客さんが乗る部分の上に、見張り台のようなものが付いている。

 実際見張り台なんだろうな。屋根は付いているけれど壁はなく、全方面を見渡せるようになっている。上るのは横からみたいだ。


「私が上に居た方がいいかな。索敵もしやすいし」

「じゃあ私中にいるね。連絡用に魔法組んでおこっか」

「俺も上か?」

「リオン中に居なよ。また夜寝ないでしょ?なんかあったら叩き起こすから、中で寝てていいよ」

「おー、じゃあそうするわ」


 シャムとの連絡用に音魔法を適当に練り上げ、話が終わったらしくこっちに来たロイにも魔法の球を一つ渡しておく。

 分かりやすいように光らせたので、なんかダンジョンに居る時みたいだな。どっちもシャムの光魔法なので非常によく似ている。


「僕は御者さんの横に居るから、何かあったら教えてね」

「分かったー」

「それからセルリアは普段から飛んでるし大丈夫かもしれないけど、上は風が結構寒いらしいから防寒はしっかりしておいて」

「なんか羽織れるのあったかな……」

「俺の外套貸すか?」

「あー……借りる。ありがと」


 リオンが小脇に抱えていた外套を借りて、一度広げて自分の外套の上から羽織ってみる。

 ……余裕があるどころかちょっと余るんだけど。

 まあ、移動するわけじゃないし汚れたりはしないだろう。


 とりあえず今は脱いでおいて、荷物は中に置いてあった方が良さそうなので貴重品だけ腰のポーチに移動させて残りの荷物を先に積ませてもらう。

 潰れて困るものも入ってないし、リオンの枕にでもしておいてくれ。


 そこまでやっても出発までもう少し時間があるので、連絡用魔法の動作確認や通る道の付近に居る魔物の種類の話をする。

 そんなに強いのは居ないみたいだ。まあ、安全に進もうと思ったらそういう道を選ぶものだよね。


「よし、そろそろ出発だね」

「リオン一番奥ねー」

「おー」

「私乗り合い馬車って初めてかもしれない」

「初めてが上になんのか……」


 中々無ぇな、と呟きながら馬車に乗り込んだリオンの背中を見送り、私は横から上の見張り台に上る。杖は一応ブレスレットに固定しておくことにした。

 うっかり吹っ飛んでいく、なんてことは無いと思うけど、まあ念のためだ。


 借りた外套はまだ着なくて良さそうなので腰のポーチに引っ掛けておく。

 これで飛ばされる事は無いだろう。飛ばされても多少の距離なら風で回収できるけどね。

 そんなことをやっている間に馬車が動き出し、フォーンの外に出る。


 少し進んだところで風を吹かせ、とりあえず馬車を覆うようにしておく。これで何かが急接近してきてもある程度は風が壁になるだろう。

 まあ、薄いからそんなに防御力はないけどね。


 無いよりマシ、ということでこれはこのままにしておいて、次に索敵用の風を薄く周りに張っていく。馬車を基準にして普段の索敵より少しだけ大きめでいいかな。

 その気になればもっと広げられるんだけど、維持しやすい大きさの方がいいだろうからこのくらいにしておく。


「お、でかい鳥」


 風で索敵しているとは言っても、魔法では探知しにくい種族も居るので見張りはしないといけない。

 まあ、それはそれとしてでかい鳥に気を取られるくらいは許されるだろう。

 それにしてもあの鳥でかいなぁ……第三大陸の鳥は魔力を持ってて美味しくないって姉さまが言ってたけど、大陸ごとに鳥の特徴でもあるんだろうか。第四大陸ではやたらとでかい鳥を見かける。


 そんなことを考えながら見張りを続け、いつの間にか御者さんと仲良くなったらしいロイの声を聞いたり、リオンがガチ寝してる……と呟くシャムの声を聞いたりして暇を潰す。

 外を見てるだけで楽しいっちゃ楽しいんだけどね。


 ボーっとしていていいわけではないので、誰かの声を聞き流しながら周りを見ているのが一番なんだよね。

 学校に入学してから四年も経ったので流石に慣れたけど、静かだと落ち着かないしなんとなく集中出来ない。うちはいつでも誰かが喋ってるから、人の声がしていた方が集中できるのだ。


「……なんか水の気配がする。水辺近いの?」

「うん。泉があるみたい。そこでちょっと休憩になるよ」

「分かった」


 索敵用の風に水の気配が引っかかったので念のため聞いてみると、この水辺が一旦の目的地だったようだ。馬を休ませつつ行くと言っていたし、水辺を選んでいるのは馬の水分補給なのかな。

 私が乗ったことある馬車ってアジサシさんの馬車だから、一日で大陸横断するし空飛ぶしで休憩のタイミングとか全く分からなかったんだよね。


 あれは凄いんだけど、最初に見るべきものではないよなぁ。

 なんて思いながら先に水辺を索敵しておく。

 水の中までは見れないけれど、周りにはとりあえず魔物やら魔獣やらは居ないかな。まあ、居たら近付いた時点でリオンが気付くだろうし、多分大丈夫だろう。


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