337,仲の良い二人
今日は朝からいくつかの授業に参加して、空いた時間は図書館で読書したりしていた。
今は放課後で、一度部屋に戻って借りてきた本を置いて、杖だけを持っていつも遊んでいる辺りに向かっている。
廊下を進んで外に出ると、先に来ていたアリアナの綺麗なライトベージュの髪が風に靡いているのが見えた。
横にはグラシェが立っていて、二人でまた何か言い合っているみたいだ。
「仲良しだねぇ」
「セルリア先輩!お久しぶりです!」
「久しぶりアリアナ」
グラシェとは今日も授業で会ったけれど、アリアナとは少なくともひと月は会っていなかった気がする。
私が結構学校外で活動しているのもあって、予定が中々合わなかったんだよね。
「会ってない間も練習してた?」
「はい。もちろんです」
「じゃあとりあえずやってみようか。グラシェは体幹トレーニングしてなー」
「最近はちょっとだけなら乗れるようになったんだってば」
「ちょっとじゃ飛行魔法とは呼べないんだよなぁ」
元々今日会う約束をしていたのはアリアナの方なので、グラシェの方は一旦放置だ。
昼にも会ったしね。それに、グラシェは魔力とかの問題じゃないので私は専門外なのだ。
筋肉痛はマシになってきたと言っていたし、今年中には飛べるようになるだろう。
なんて考えながら風を踏んで先に空に上がる。
一応クッションに出来るように下に風を敷いておき、足元に水を作ってそれに乗ったアリアナに目を向ける。近くまで来たところで手を差し出し、同じ位置まで引き上げた。
「うん、バッチリ」
「ありがとうございます!」
安定感も速度も、前に会った時とは段違いだ。
これならもう私が教えることは何もなさそうかな。
そんなことを声に出すと、アリアナは明らかにショックを受けた顔をした。
「別に今後会わないってわけじゃないよ。用事が無くても暇ならおいで。……というか、私に何か用事があって会いに来る人の方が少ないし」
「そうなんですか?」
「うん。大体暇だから喋りに来てるだけだと思うなぁ」
イザールはどうなのか分からないけど、会ったらなんか適当におしゃべりして解散って感じだし、特別用事があるようには見えないんだよね。
なのでアリアナも暇だからとか、なんか喋りたいなとか、そんな感じの気軽さで来てくれていいのだ。
私は人見知りなので自分から人の所に行くことは中々ないけど、仲のいい子と話すのは普通に好きだしね。
そこまで話せば、アリアナは花が綻ぶように笑った。うーん、可愛い。
「あぁ、そうだ。アリアナは属性氷だよね?」
「はい。そうです」
「じゃあ、足元の水を凍らせた方がやりやすいかもね。無理にやる事ではないけど、今後もっと安定感が欲しいなぁってなったらやってごらん」
「分かりました」
手を繋いで空に浮いたまま少し話して、下に居るグラシェが何か言いたげに見てくるので一度降りることにした。
シャムなら高所密談だー!って言う所だな、なんて思いつつ着地すると、寄ってきたグラシェはずるいーと不満げに声を出した。
「俺も飛びたいー」
「貴方は自主鍛練の問題でしょう。文句を言うものじゃないわ」
「やってるし!毎日!」
キャンキャン言い合う様子は随分とお互いに遠慮が無くなっていて、やっぱり仲良くなってるよなぁなんて思う。
微笑ましくて眺めていたら、二人が急にこっちを向いた。
「先輩!何話してたの?」
「んー?女子会の内容を教えるのはなぁ」
「ほら、だから言ったでしょう」
どうやら、上で何を話していたのかを教える教えないで言い合っていたらしい。
別に大した話はしていないので教えたっていいんだけど、アリアナは教えたくないみたいだったので黙っておこう。
「そういえば、グラシェはどこまで出来るようになったの?」
言い合いが終わらない気配を感じて、話題を変えるためにもグラシェの現状を把握することにした。
アリアナを隣に呼んで、グラシェに飛んでみるように促す。
素直に動き始めた後輩たちは、それぞれ指定した場所に移動した。
グラシェは相変わらず、魔法の完成度としてはすぐにでも飛べそうなレベルだ。
そこに足を乗せて、上で姿勢を保とうとするとやはりまだ少し安定感に欠けるけれど。
でもまあ、杖を持ち上げれてる分かなり改善されてはいそうだなぁ。
「そこから少し上がれる?」
「割と……しんどい……」
「がんばれー。落ちても回収してあげるから」
杖を回して風を起こし、グラシェの足元にクッションを作っておく。
それを確認したのか、プルプルしながら徐々に高度を上げていったグラシェは大体二メートルほど上昇したところで姿勢を崩して落下した。
「うーん、やっぱり魔法ってよりは身体の方が問題だねぇ」
「アリアナはともかく、先輩は魔法使いなのになんでそんな鍛えてんの……?」
「鍛えてるつもりはそんなに無いよ。杖が大きいから持って歩くだけでそれなりの筋力が必要ってのと、家ではあちこち連れまわされてたからね」
それに私は魔法が使えると言われて最初に飛行魔法を覚えたがったので、それ用に兄姉たちがあれこれ教えてくれたのだ。
まあ、グラシェとアリアナに教えている魔法よりも、私が使っている風魔法の方が体幹とか筋力とかに影響されないってのもあるけどね。
代わりに物理力の低い風で身体を支えるので、しっかり魔法を作れるようにならないと浮いて好きに飛び回ったりは出来ない。
実はそれなりに難易度が高い魔法なのだ。私はこれが楽だから普段からこれで飛んでるけど。
「グラシェはこれからもアガット先生の指示に従って、上体を起こしたまま乗れるようになろうね」
「先生も大分マシになってきたって言ってたんだけどなぁ……」
「マシってだけなんでしょう?なら、まだ合格点じゃないんじゃなくって?」
「うぐ……」
「アガット先生結構厳しいからねー。合格点貰えるくらいになったら余裕で飛べるよ。頑張れ」
「先輩もアガット先生になんか習ったことあんの?選択授業じゃないよね?」
「風の槍の威力上げに、槍の動きを習いに行ったことがあるんだよ。この前も会ってちょっと修正された」
動作は綺麗な方が威力も上がる事が分かったので、実は今でも時々会いに行って変についた癖とかを修正してもらってるんだよね。
アガット先生も風の槍の威力には興味があるみたいなので、結構ノリノリで教えてくれる。
そういうのを考えると、魔法使いもある程度身体は鍛えておくべきだよね。
そんな話をしながら軽く浮かび、時間があるからちょっと遊ぼうと後輩たちを誘う。
アリアナが飛べるようになったら空中も使った鬼ごっこが出来るなぁって前から思ってたんだよね。




