336,倒した後
地面に身体がぶつかる前に風を作り、勢いを殺して着地した。
それと同時に吹っ飛ばしたリオンにも風を向けて、安全に着地出来るようにしておく。
マシュケヤの身体は大きく傾いてそのまま倒れ、シャムが討伐完了を確認した。
「お疲れさまー!」
「はー……本当に頑丈だね。風の槍二回も撃ったんだけど」
「その後に使ってたのってなんだ?初めて見たぞ」
「あぁ、水の剣?風の槍の水バージョンみたいなやつだよ」
剣を背中の鞘に納めながら横に来たリオンに聞かれて、最後に使った水魔法の事を思い返す。
あの魔法の名前は「アクアソード」というシンプルなものだ。ウィンドランスの水バージョン。
武器の形を作り出す、単属性の強力な攻撃魔法だ。水は剣、風は槍、炎は弓、地は槌。
私が使えるのは風と水だけで、後の二つは使えない。
ちなみに私が他によく使う魔法として氷の短剣があるけれど、あれも一応は同じ部類になる。
けど、四大属性以外だとこの種類の魔法はあんまり強くないんだよね。それこそ日常的に使えるくらいのレベルだ。
「セルリア、魔力の残量は大丈夫?」
「うん。全然平気」
「凄いねセルちゃん……流石の魔力量」
「じゃあ剥ぎ取りと解体までさっさと終わらせて、フォーンに戻ってから休憩にしようか」
「はーい」
マシュケヤは大きいので、分担して全員で解体していくことになった。
私は毛を刈り取っていく係なので、皮を切らないように毛の根元にナイフを添わせていく。
刈り取った毛は後ろに浮かせて置いて、後でまとめて圧縮して袋に入れる予定だ。
こういう作業に慣れているミーファとリオンが毛皮の斬り方がどうこう、肉の部位がどうこうと話しているのを聞き流しながら毛を刈り取り、反対側を刈っていたシャムと合流する。
ロイのチェックが終わってから毛を圧縮して行って、私が抱えられるくらいの袋に全てを収めた。
「おー。小さくなったな」
「ふっ……真空圧縮してしまえばこんなもんよ」
私はこういう圧縮作業は結構得意なんだよね。
家で冬物の布団とかを仕舞う時に散々やっていたから、この量の毛を圧縮するくらいどうってことない。
今回毛は全てギルドに提出するらしいので、ギルドでほぐされて洗われるんだろう。
ギルドの職員さんには是非とも、ほぐしてもほぐしても密度の下がらない毛にびっくりしてほしい。
柔らかさを感じないレベルで圧縮したから、相当の量があると思うんだよね。
「セルー。こっち手伝ってくれー」
「はーい」
リオンに呼ばれたので、とりあえず傍に寄っていく。
何をすればいいのか聞いたら上から見て真っすぐ線を引けているか確かめて来て欲しいと言われたので、軽く飛んでマシュケヤの身体に引かれた線を確認する。
「大丈夫だよ」
「おっし、じゃあ皮剥ぐか」
「セルリア、そのまま周りの警戒お願いしてもいい?」
「いいよー」
討伐した魔獣や魔物の解体をその場でするときは、血の匂いなんかで寄ってくる野生動物に警戒しないといけない。
討伐対象より強いのが寄ってきちゃうこともあるので、そうなったら討伐した魔獣は放置してでも逃げないと危ないからね。
ただの狼とかでも、不意を突かれたら危険性は上がる。
なので、複数人で討伐に出ている場合は誰か一人は周りの警戒をしておくのが基本らしい。
冒険者登録をして少ししたくらいの時に、シャウラさんからそう教わった。
「……あ、なんか来るよ。魔獣っぽくはないかな」
風を薄く張って周りを見張っていたら、森の方から何かが寄ってくる反応があった。
少し高度を下げてロイに伝え、もう少し詳しく探る為に遠視魔法を練り上げる。
シャムに見てもらった方が何が来ているのかが正確に分かるので、相乗りしてもらって目を運ぶ。
「ただの狼かな。リオン、追い払える?」
「おー。任せろ」
あっち、と狼が来ている方向を指さすと、リオンは魔力を巡らせ始めた。
かなり魔力が高まったところで狼の居る方にそれが放たれ、遠くから小さな鳴き声が聞こえて森の中へ逃げていくのが確認できた。
野生動物からすると、リオンの魔力は怖いみたいなのだ。
鬼人という種族の特性なのかもしれない。
私が平気なのは、リオンが意識して魔力を巡らせるようになる前を知っていて、鬼人のものだろう魔力にも慣れているからなんだろう。って、前にコガネ姉さんが言ってた。
知らないものは怖いけれど、知っていれば別に怖くないんだと。
確かに姉さまの魔力も属性が分かんなくて混乱するけど、そういうものだって知っているから別に怖くはないもんなぁ、なんて納得した記憶がある。
「他はいない?」
「とりあえずは。……って、ちょっと目を離した隙に解体が凄い進んでる……」
「ミーファちゃん手慣れてるよねぇ」
その後は特に寄ってくる魔物なんかも居なかったので作業は滞りなく進み、かなり時間に余裕をもってフォーンに戻る事が出来た。
寄り道はせずにギルドに向かい、クエストの完了報告と全員分のランクアップ申請を済ませる。
手続きが終わるのを待っている間に、マシュケヤの素材を換金しておく。
五人で分けてもそれなりに良い額になったな。
そんなことをしている間にランクアップの手続きが終わり、クエスト報酬と共にランクアップの証明書を貰った。
「やったー」
「わぁーい」
「なんか緩くない?二人とも」
「気が抜けたぁ」
「普通に疲れたぁー」
シャムと二人でダルダルやっていたら、ロイが笑いながら背中を押してきた。
まだ門限まで時間があるから、どこかに寄ってお茶して帰ろうって話になったんだよね。
がっつりご飯を食べる感じではないので、シャムが行ってみたいらしいカフェに入って各々好きなお茶を頼む。
「ミーファも手伝ってくれてありがとうね」
「ううん、むしろ混ぜてくれてありがとう。ランクアップ、出来ないかなぁって思ってたから」
耳をピコピコさせながら微笑むミーファはとても可愛い。
思わず頭を撫でていたら、反対側からはシャムもミーファを撫でていた。
やっぱりね、可愛いは正義って言うからね。ミーファは正義なんだよね。
「これからもタイミングが合ったら一緒に行こうね」
「うんっ」
ああ、可愛い可愛い……実はミーファの方が歳上なんだけど、まあ一歳くらいは誤差だよね。
なんて考えている間にお茶が来て、ついでに頼んだクッキーも来たのでとりあえずお茶を飲むことにした。
その後、話しながらお茶を楽しんで、夕飯前に一度部屋に戻れる時間を目安に学校に戻ることにした。今日は中々収穫の多い日だったな。




