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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
334/477

334,大型魔獣の討伐

 ボーっと空を見上げながら杖を回し、風を鳥の形にする。

 見えないから分かりにくいけど、中々いい感じに作れたな。

 これが、同じくらい物理力が低いとしても雷とか炎ならまだ普通に見えるんだけど……まあ、見えないってのは風の良いところでもある。とやかく言うもんではない。


 と、一人遊んで暇を潰していたら建物の方から足音がした。

 目を向けると、制服ではなく冒険者活動用の動きやすそうな服を着たミーファがこっちに向かって歩いて来ている。


「おはようっセルちゃん!」

「おはようミーファ」


 杖を持ち直して風を霧散させ、奥から歩いてくるロイに手を振った。

 ロイとミーファもなんだかんだ仲が良いみたいで、割と普段から話しているところを見かけることがある。


 時計を取り出して手の中で弄りながら三人で話していると、シャムとリオンもやってきたのでギルドに向かうことになった。

 小型の討伐は全部はけてしまっていることもあるけれど、大型の討伐は意外と残っていたりもするんだよね。


 とはいえどれでもいいわけじゃない。何を受けるかは、シャムとロイの判断による。

 それに、ランク上げのために大型討伐に出るDランク冒険者は一部の魔獣、魔物しか受注することが出来ないらしいからね。


 そのあたりは安全対策なんだろう。いきなり魔獣上位とかを受けちゃうと事故が起こるだろうし。

 なので、それもしっかり覚えて来たらしい二人に任せることになったのだ。

 任せっきりで誠に申し訳ない。討伐の方ではしっかり働くつもりなので、申し訳ないけどとりあえず任せた。


「なんか人少ねぇな」

「どっかで大量討伐系のクエスト出たのかな」


 足を踏み入れたギルドの中は、なんだかかなり空いている。

 どこかの国のギルドで魔物や魔獣の大量発生とかが起きると、近隣の国にも連絡が行って冒険者がそっちに行ったりするんだよね。


 前にカセラビが大量発生がしたときは、第四大陸にある三国に加えて隣の大陸にも通達が行ったってギルドのお姉さんが言ってたっけな。

 そんな話をしつつクエストボードの前に立ち、貼られているクエストを眺める。


「……あった、マシュケヤの討伐」

「マシュケヤ?」

「そう!第四大陸でDからCに上がろうと思った時の候補の一種だよ」

「あー……なんだっけ、一昨年くらいに授業でやった気がする」


 ロイがクエストを受注しに行ってくれたので、その間に私たちはシャムからマシュケヤについての説明を聞く事になった。

 ミーファも聞き覚えはあるけど詳細は覚えていないらしいからね。


「マシュケヤは魔獣中位種、体長は十メートルから二十メートルくらいの大型魔獣だよ。基本的に草食で人を襲ったりはしないんだけど、一か所に集まりすぎると草原が禿げちゃったり森を食べ始めたりするから討伐依頼が出たりもするね。

 まあでも基本的には、毛がいい素材になるからって依頼の方が多いかな。通常時に爆増する方が珍しくて、むしろ狩り過ぎないように規制がかかる時もあるんだ」

「……脳内にでっかい羊が現れたんだけど、羊で合ってる……?」

「んー……まあ羊に見えなくもない……?羊とウサギと馬を混ぜた感じ……?」

「なんだそれ」


 羊ではないらしいけど、なんだかあんまり想像できないな。

 なんて話していたら手続きを終えたロイがこっちに歩いてきたので、ロイにも見た目を聞いてみることにした。


「うーん……馬に羊の毛皮を着せてウサギの耳と脚力を付けた感じかなぁ」

「なんだそれ」

「耳の長い馬……?」

「見た方が早いよ。直前に確認された場所の地図も貰ったから、さっそく行こう」


 スパっと切り捨てられてしまったので、まあ確かに見れば一発で分かるかぁと納得して先に歩き出したロイの後を追った。

 フォーンを出て進む先はヘリオトロープの方みたいだ。前に行ったときは関所に泊まるために外海の方に向かったけど、今回は森の方に進む。


 途中でお昼ご飯を食べて、その後少し進んだところがマシュケヤの最終目撃地らしい。

 そこにマシュケヤはいなかったが、周りに比べて草が少ないので居たのは間違いないようだ。

 シャムが痕跡を調べて向かった方向を割り出すそうなので、それが終わるまで周りの警戒をしておく。


「……うん、こっちだね。このまま真っすぐ」

「分かった。セルリア、上から確認して、見えたら教えてくれる?」

「はーい」


 声をかけられたので返事をして、杖を回して飛び上がる。

 見た目は結局分かってないんだけど……でも十二メートルくらいあるらしい魔獣が居たらそれだろうから、分かんなくても索敵は出来るんだよね。


 少しだけ先行するように空を進み、一応周りに風を吹かせて警戒もしておく。

 マシュケヤはこっちに気付いても逃げたりすることはないらしく、攻撃されて初めて反撃して、それなりにダメージを負った後で初めて逃げるらしい。


 ……なーんかウラハねえみを感じるんだよねぇ……羊ってイメージで固まっちゃったからかな。

 ウラハねえも基本は受け入れ態勢で、攻撃されて初めて反撃するからなぁ。

 なんて考えながら前方にも風を吹かせてマシュケヤを探す。


「……ん?あ!いた!でっか!?」


 風に何かが引っかかった感じがして、そっちに目を向けると森の傍に寝そべるでっかいモフモフが居た。

 ……確かに馬の身体に羊の毛を生やして、兎の耳を付けたみたいな姿をしている。尻尾の感じは完全に馬だ。


「でっけぇな」

「ふわふわだね」

「十二メートルくらいって聞いてたけど、もう少しありそう?」

「どうだろ、尻尾入れたらもうちょっとありそうだけど」


 発見報告を聞いて走ってきた四人が思い思いの感想を零すのを聞きながら、とりあえず一度地上に降りることにした。

 シャムの横に着地すると、ロイがすぐに寄ってきた。


「セルリア、風の槍の準備をしてくれる?」

「おっ。いいよぉ」

「マシュケヤの体毛は物理耐性が凄く高いから、セルリアの攻撃が一番通りがいいんだ。だから反撃を受けない一発目で大きいダメージを与えておこう」

「なるほど。じゃあフル演唱で行こうか」


 そういえば、毛がいい素材だからって討伐依頼が来るくらいなんだもんね。

 クリソベリルの人とかが来てる布っぽいのに攻撃受けてもほつれすらしてない謎の服って、もしかしてマシュケヤの毛で作られてたりするんだろうか。


 なんて考えながら杖を構えて左足を大きく後ろに引く。

 魔法の演唱は、威力と準備時間を考えて略式演唱で行使することが多いけど、出来るならフル演唱の方が威力は上がるんだよね。


 そんなわけで久々の風の槍フル演唱だ。私が準備をしている間にシャムたちも何かやってるみたいだけど、何をしてるのか確認するのは後にしよう。風の槍の準備が終わったからね。


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