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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
332/477

332,やたら緊張する手紙

 寮の自室で目を覚まして、いつも通りに朝の支度を済ませて食堂に向かう。

 ロイと一緒に朝食を食べながらお互いの今日の予定なんかを話して、その後食堂の入口で別れた。

 彼は今日も例のダンジョンアイテムの鑑定作業をするそうだ。


 私は一度部屋に戻って、留守にしている間に届いていた手紙を確認することにした。

 例によって例のごとく封筒の中には家からの手紙とは質の違う物が一緒に入っている。

 ……返事困るんだよなぁ……どうしようかなぁ……


 家を経由して行われているサフィニア様との文通は、私が質問してサフィニア様が答えるか、サフィニア様に最近の出来事なんかを聞かれて私が答えるかの二択だ。

 私からの質問は、そもそも一般人を妃になんて出来るのかという疑問をそのまま書いたのが始まり。


 ちなみにそれについては、他の国は知らんがイピリアではそんなに珍しくない、という返事が来た。

 イピリアの王族ってみんな自由人でめっちゃ強いもんねぇ……歴史書が武勇伝になってるの、イピリア以外だとあんまり見ないよ。


 カーネリア様ですら割と大人しい方らしいので、サフィニア様は大人しいどころの騒ぎじゃないんだろうなぁと遠い目をした記憶がある。

 ……さて、現実逃避はここまでにして、まずは内容を確認しないと。


「あいっかわらず字が綺麗なんだよなぁ……教養ってこういうことなのかなぁ……」


 ぼやぼやと呟きながらじゃないと開く気になれないのは、嫌だというよりもどうしたらいいか分からないからだ。

 何度来たって慣れない。文字を読むのにいつもの倍の時間がかかる。あと返事書くのも緊張するから、ウラハねえに代筆してほしいくらいだ。


「前回私なに書いたんだっけ。これどれに対する返事だ?」


 家に送る手紙の内容は大体覚えているのに、こっちは何を書いていたのかの記憶が飛びがちだ。

 そのせいで内容をまとめるためにざっくり書いた下書きと送られてきた手紙を見比べて内容を把握するという、なんとも手間のかかったことをする羽目になっている。


 しょうがないんだ……普段はドツボに嵌らないように記憶から追い出してるから……

 考えたら考えただけ分からなくなりそうなので、手紙に向き合う時以外は思考の外に放り出すようにしているのだ。


 何が分からなくなるのかと言ったら、なんかもう色々というしかない。

 最悪の場合、姉さまがたまに呟く「私はどこ、ここは誰」という謎の文言を声に出してしまう可能性まであるのでこれは仕方のないことなのだ。


「……はぁ、考えても仕方ないか。家の方の手紙から読もう」


 なんかもうすでに頭の中がグルグルし始めたので、質の良い白と青の便箋を横に避けて家からの手紙を手に取った。

 こっちはいつも通りの安心感がある。内容も、私が前回送った関所での宿泊の話に対する兄姉たちの反応集みたいな感じだし。


 ついでにウラハねえからでっかい鍋に関してのお知らせが来ていた。

 行く機会があれば、イツァムナーで見てみるといい、って。急ぎならネフィリムが近くて種類も多いだろう、とも書いてある。


「イツァムナー同盟諸国、行きたいけど遠いよねぇ」


 知り合いも居るし、そのうち足を伸ばしたいけれど第二大陸はちょっと遠い。

 片道だけでどれくらいの日程になるんだろうか。

 月初めから行ったとしても、月末の書類提出までに帰ってくるのは難しいだろうなぁ。


 ただ行ってみたいから、で行ける場所ではない。

 何かしら用事が出来ればいいけど……まあ、そのあたりは今後考えればいいことかな。

 用事なんて、作ろうと思ってる時は出来ないのに急にまとめて持ち込まれるものだしね。


 そのうち行くこともあるだろう、なんてのんびり考えながらダンジョンに行ってきた等の報告も手紙に書き、ついでに前回は書かなかったルナルの事も書いた。

 可愛い後輩が増えた、くらいは言っておこうと思ってたんだよね。前回は他に書くことが色々あったから後回しにしたけど。


「……よし、こんなもんかな」


 家への手紙を書き終えて、インクを乾かしながらフーッと長く息を吐いた。

 さて、ささやかな時間稼ぎが終わってしまったなぁ。あまりにもささやかだったなぁ。

 ……よし、お茶でも淹れるか。


「クッキーとかあったっけ。……あぁ、全部食べたんだったか」


 お湯を沸かしている間に茶葉を取り出して、ついでに戸棚を漁ったけれどお茶菓子は出てこなかった。そういえば、こないだ買った分はダンジョンに行くときに持ってたんだった。

 フォーンを出てすぐに腹減ったとか言い始めたリオンに渡した記憶がある。


 まあ手紙書くし、手が汚れてもあれだからお茶だけでいいか。

 一人で納得している間にお湯が沸いたので、カップを温めてポットの中にお湯を注いでいく。

 上に布をかけて蒸らして、砂時計をひっくり返す。


 砂が落ち切ったらカップのお湯を捨てて、お茶を注いで残りが渋くならないように茶葉を抜いて再び布を被せた。

 ティーカップを持って机に戻り、まずはお茶を一口。


「……ふぅ。読むか」


 我ながら美味しく淹れられた、と満足の息を吐いて、心が落ち着いて来たところで問題の手紙に手を伸ばした。

 読みながら適当な紙に下書きを書いて、お茶を飲みつつ何度か内容を確認する。


 ……あれ、これ前にも聞いた気がするなぁ。

 前の手紙を確認して、確かに前にも聞いてたな、という事で線を引いて内容を訂正する。

 他には特に問題とかダブりとか無さそうだったので、この内容で清書していいだろう。


 便箋を取り出してインクの色を変え、決めた内容を書いていく。

 なんか緊張するんだよなぁ……家に出す手紙よりも短い内容なのに、倍くらい肩が凝る。

 丁寧に丁寧に文字を書いて行き、最後まで書ききったところでペンを置いてグーっと身体を伸ばした。お茶も飲もう……はぁ……


 書きあがった手紙のインクを乾かしながら誤字なんかが無いか確かめて、問題なかったので便箋を重ねて真ん中で折った。

 そして縁をシールで止めて手紙が開かないようにする。


 家を経由して届けられるから、念のためにね。

 別に読まれても良いんだけどね、まあ見分けやすいし毎回やる事にしてるのだ。

 そんなわけで封筒に宛名を書いて中に手紙を入れ、空かないようにしっかりと封を閉じる。


 他にすることも無いしさっさと出しに行くことにして、残ったお茶を飲み干した。

 ついでに図書館に本を借りに行こう。前に借りてた本はダンジョンに行く前に返したから、今手元に読む本が無いんだよね。


 杖を手紙を持って部屋を出て、鍵をかけて廊下を進む。

 今日はいい天気だから、手紙を出した後は中庭を通り抜けて図書館に行けそうだ。

 時間としては授業中なので静かに廊下を歩き、中央施設で手紙を出す。


「あ、セルちゃん」

「おぉ、ミーファ。やっほー」


 手紙を出して中庭を進んでいたら、中庭のベンチにミーファが座っていた。

 お互い急ぎの用事は無いようなので少し座って話しをして、一限が終わる鐘の音がしたので切りがいいからと立ち上がる。

 ミーファはこの後ソミュールを回収に行くらしいのでここで別れて、私は予定通り図書館に向かうことにした。


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