331,帰り道にて
ダンジョンの外に足を踏み出し、太陽の明るさに思わず目を瞑る。
ダンジョンマップの作成には丸一日くらいかかったので、今はちょうどお昼くらい。
天高くで輝く太陽はずっと地下に居た私からするとちょっと眩しすぎる。
「あー……まっぶしぃ……」
「ふぅ……ちょっと休憩してからフォーンに戻ろう」
「セルー、腹減ったー」
「はいはい。はぁー風が気持ちー」
ダンジョンの中は基本的に無風なので、こうして風を浴びていると私はダンジョンには長く潜っていられないなぁとか思うわけだ。
思いながらも、お腹を鳴らしているリオンがじっと見てくるので昼食の準備に取り掛かる。
「……ロイ、結局それ何か分かった?」
「うーん……分からないな。学校に戻ったら詳しく調べてみるよ」
荷物の中から鍋を取り出しながら、横に座って手の中のアイテムを弄っているロイに声をかける。
八階あたりの宝箱から出てきたこれは、ロイでもよく分からないアイテムだったんだよね。
当然私が分かるわけもなく、気にはなるけど何も出来ないので分かったら教えてねと言うに留まっていた。
他にも宝箱はあったけど、そっちから出た物は用途も分かるし使わないのでギルドに買い取ってもらうことになっている。
相場が分かんないから、買い取り手続きを見せて貰おうと思う。こういうのはね、いつ使うことになるか分からん知識でも知っておくに越したことはないからね。
「あー……いい香りしてきたぁ……」
「セル、まだか?」
「まだだよ。急かしても早くはなりません」
煮込みながら味を調えていたら、腹ペコ二人に絡まれた。
ロイは何やら作業をしているからまだこっちに構う余裕がないみたいだけど、二人は周りを見張るくらいしかやる事ないから暇なんだろうね。
適当に宥めたり味見させたりしながら昼食を作り終え、どうせおかわりって言われるだろうから道具は一旦そのままにしておく。
腹ペコ二人に器を渡して、気付いて物を片付けたロイにも器を渡す。
「うめぇ。おかわり」
「食べきってから言いなよ……そしてゆっくり食え。ちゃんと噛め」
器の中身を食べきってもいないのにおかわりコールは気が早すぎると思うんだ。……というか熱くないの?私熱くて全然食べられないんだけど。
私が冷ましながら一杯目を食べている間にリオンはおかわりしてるし、なんかもう耐性が違うよね。
「あー……これもうちょっと塩足しても良かったなぁ」
「え、このままでも美味しいよ?」
「ありがとー。これはまあ好みの問題だよねぇ」
「じゃあ次はそれで作ってくれ……」
「もう食べたの!?私まだ一杯目だよ!?」
「美味かった」
「ありがとな!」
腹ペコたちに急かされて味付け甘かったかなぁなんて考えながらのんびり食べていたら、他の三人によって鍋が空になっていた。
仕方ないので鍋に水を注いで、具材を突っ込んで煮ておく。沸騰するまでは私のご飯タイムだ。
器の中身が無くなったあたりでちょうど鍋が沸騰してきたので、別にしておいた具材を入れて鍋を混ぜる。ちょっと味を確認して調味料を入れていき、最後にもう一度煮込めば完成だ。
……うん、美味しい。出来上がった鍋を浮かせて地面に降ろすと、すぐにリオンが手を伸ばした。
「熱くないの?」
「熱いけど食える」
「耐性の差を感じる」
話しながら道具を片付ける。流石にこれ以上は作らないからね。
そして鍋から自分の分をよそって、それを冷ましながら食べている間にまた鍋は空になっていた。
器の中身を食べきってから鍋を洗い、ついでに器等と一緒に纏めて煮沸してしまう。
その後少し休んでからフォーンに向けて歩き出す。
歩いている間の話題は帰った後に何をするかについて。
ロイはよく分からなかったダンジョンアイテムを調べるらしいけど、私は特にこれと言ってすることも無いんだよね。
シャムも調べたい事があるらしいから、研究職組と戦闘職組とで別れることになりそうかな。
リオンも特にすることないらしいから、一緒に戻って遊んでいる感じだろう。
遊んでいる間に先生たちに何かしらの用事を頼まれたりもするからね。
「あ、誰か来る」
「おー……あれ、リムレとサヴェールじゃね?」
「本当だ。おーい」
とりとめのない話をしながらのんびり歩いていたら、道の向こうから歩いてくる人影が見えた。
気付いたら一応声に出して伝えて、それでも基本的には警戒したりはせずにすれ違う時に一言挨拶を交わして終わる。
けれど、歩いてくるのが知り合いならちょっと話が別だ。
リオンが見間違えることはまず無いと思うけれど、私も風を飛ばして確認した。
ついでに、その風でサヴェールが私に気付いたことも確かめておいた。
大きく手を振ると、向こうからも手が振り返された。
何か急ぎの用事があるとかではないから、お互い歩く速度は変えない。
すれ違うまでまだ時間がありそうなので、戯れに風を起こしてサヴェールの髪を巻き上げる。
「相変わらずいい髪質だなぁ……」
「どしたのセルちゃん?」
「サヴェールの髪があまりにもツヤツヤのサラサラなんだ……」
「……そんなに?」
「うん」
風越しでも分かる羨ましいほどのツヤツヤな髪に、思わず羨望の声が漏れる。
前を歩くシャムにそのことを伝えつつなおも髪を弄っていると、目の前に光の球が飛んできて弱く発光した。やめろってことかな?
「セルちゃんも髪ツヤツヤのサラサラじゃん」
「ありがとう。でも結構絡まるんだよねぇ」
「髪細いもんねぇ。……その光、消さないの?」
「うーん……もうちょっと」
光を無視してサラサラと引っかかりなく流れる髪を弄っていたら、目の前の光は点滅を始めた。
遊ばれてるのにこっちの目を気遣って強い光を出さないのは優しいよねぇ。私なら容赦なく風で吹っ飛ばすよ。後ろにクッションも用意はするけど。
「セルリア」
「はぁい」
そんなことをやっている間に普通に会話が出来る距離まで近付いており、サヴェールから直接声をかけられたところで風を消す。同時に目の前に浮いていた光の球も消えた。
私たちはこれから帰るところだけど、サヴェールとリムレは今から目的地に向かうらしい。
そんなことを少し話して、また月末にと締めくくって手を振って別れる。
すれ違って歩き出す時に、何かが髪に引っかかったような感覚があった。
引っ張られるほど強い力ではなくて、触れてもそこには何もない。
何かと思って振り返ったら、サヴェールが杖を緩く振っていた。……いたずらの仕返しにいたずらされたみたいだ。これ以上やり返すとキリがないので、続きは月末に学校で会った時にしよう。




