33,手合わせは楽しいもの
晴天に恵まれた今日の授業は、魔法込みでの対人戦闘で、それすなわち手合わせと呼ばれる類の物だった。
今日は全休の前日なので、午前授業で終わりになる。
で、今日の戦闘職一年の授業はこれだけ。つまり午前中はずっと同級生と戦っていることになる。
手合わせ自体は初めてでもないし、先生が二人いるあたり何かあったらすぐに止めが入るのだろうけど、なんというか気乗りしない。
まあ、やりますけどね。私は反抗しないいい子なので。素直な子なので。
それに、何かと言って私に威圧的な敵対の目を向けてくる面倒な連中が少しでも大人しくなってくれればいいな、なんて打算もあるし。
「……セルは余裕そうだな」
「リオンもでしょ。当たりたくない」
「そうかー?セルとやんのは楽しいと思うけどなー……あ、でもお前全部やるわけじゃないんだろ?」
「そっちもでしょー。何が悲しくてここで手の内明かすの」
言い合って軽く笑う。
普段から一緒に居るからこそ知っているが、リオンは基本的に戦闘実技でも全力を出すわけではないのだ。
手を抜いている、というわけではなく、奥の手として隠している。
私も手の内全てを見せるわけにはいかないし、隠し持った手段はいくつあっても困らないから出来るだけ隠しておけと言われているので。
リオンとやるのは、楽しいとは思うのだ。
他より動きを知っているし、相手も私の癖を知っている。
だから楽しいし、だから当たりたくない。
ここでうっかり奥の手を出したりするわけにはいかないので。
私はまだまだ精神的に未熟だから、楽しいとうっかり出してしまいかねないのだ。
怒られたりはしないと思うけど、常に最善を選ぶ姉から隠しておいた方がいいといわれたそれを簡単に出したくはない。
「さあ、始めようか。場所はこの円の中だけ。ここから出たら失格だよ。何かあったら止めに入るし、この円の範囲で起こった戦闘では基本的に大きな傷は出来ない様に魔法が組んであるからその点は安心していい……けど、まあ小さな傷とかは覚悟してやろうか」
そういって手を叩いたのはグラル先生だ。
その横にはヴィレイ先生も立っている。つまりは物理担当と魔法担当と言うことなのだろう。
もしくは、この手合わせ用の場所を起動させるのに「魔法」ではなく「魔術」が組んであってヴィレイ先生じゃないと動かないとか。
……邪推はするもんじゃないかな。
考えている間にも準備は進んでいく。
グラル先生は小脇に箱を抱えていて、その中から小さな紙を二つ取り出した。
それを見て生徒が二人呼ばれたので、あれで対戦相手を決めているらしい。
まさかのくじ引き、まさかのランダム。
まあ、公平……なのだろうか。予想外だったのでもうよく分からない。
「相手を無力化したら勝ち。いいね?では、始め!」
合図と同時に円の中で向き合った生徒二人が戦い始める。
ちなみに戦闘職と言いつつ非戦闘員になる生徒もいるはずなのだが、一年の間はどうしたって実戦授業が入るのは仕方のないことなのだろうか。
関係のないことを考えながら進んでいく手合わせをぼんやりと眺める。
杖を緩く回して、何となく彫り込まれた模様を指でなぞってみたりして。
「……その模様って、なんか意味あんの?」
「かっこいいでしょ」
「まあ、おう。そうだな」
「……ふふっ。なんだろ、使い手との相性を制限して、相性の合う使い手により馴染むようにする、とかだった気がする」
ドヤドヤしながら自慢したら微妙な顔をされてしまったので、ちゃんと説明を入れる。
まあ、杖の作り手ではないからあまり詳しくは知らないのだが。
何本か持たされて軽く魔力を込めてを繰り返した末に手にした子なので、相性がいいのは分かっているのだが。
その相性部分を操作するのがこの模様だったと思う。
これが複雑になればなるほど相性のいいものを見つけるのが大変になるが、多少大変でも複雑なものを持っていた方が最終的には楽なのだ。
「……あ、ミーファだ」
「相手誰だ?」
「……誰だろ、誰だっけ」
「覚えてねえのかよ」
関わりのない生徒の顔と名前を一致させている暇があったら図書館に籠る人間なので、ミーファの対戦相手の名前が思い出せない。
流石に顔は見た記憶があるが……まあ、そんなに悪い印象もない相手なので別にいいかと諦める。
ミーファは気弱そうな見た目や仕草に似合わず、戦闘になると動きが機敏で相手を仕留めるという意思があるのが分かるくらいには殺気を放つ。
……白いけれど、何か黒い方のウサギの血が入っていたりするのだろうか。
戦闘モードに入ったミーファに気圧された時点で相手の負けだろう。
リオンも同じことを思っていたようで、戦闘風景をのんびりと眺めながら行っていた勝敗の予想はミーファで一致した。
私が名前を憶えていない生徒に関しては武器を示してあっち、とかそっち、とか言って予想をしていたが、当たり具合は六割といったところだ。
適当に言っていることも多いので当たっているほうだろうと一人頷く。
「そこまで!勝者、ミーファ!じゃあ次は……セルリアとザウレ。前へ」
ミーファの勝利にぺちぺちと拍手を送っていたら、ついに呼ばれてしまった。
……面倒だな、と思いはするが仕方ない。遅れて目立つのも嫌なので、ササッと歩いて行って円の中に立つ。
……魔術かと思っていたけど、かなり面倒くさい形の魔法で作られた場所だったようだ。
面倒くさいけど、まあこれでなければいけなかったのだろうと思いもするような円である。
構造とか気になるから詳しく教えてほしい。
「それじゃあ、始め!」
考えている間に、グラル先生の合図が降りる。
相手の武器は盾と片手剣。魔法の気配は感じないし、それほど強固な感じでもなさそうだ。
うっかり剣を折ったりしない様にしないと、と思いつつ、向かってきた相手の足元に風を起こす。
体勢を崩しかけて後ろに下がった相手を見据えて杖を回す。
普段手持ち無沙汰に緩く回すのとは違い、勢いをつけて思い切り回す。
身体の軸をずらして杖を回す空間を確保し、ぶん回しつつ相手の軸足に開いている右手を向けた。
慣れ切っているので普段はあまり多用しないが、私の属性は風である。
杖を回して作った風だけで、十分威力は足りるだろう。
適応属性というのは、得意な属性なのも確かだが魔力を伴わず作ったものでも利用できる便利な属性なのだ。
私は風なので、杖を回していればその分魔力を消費せずに魔法を撃てる。
相手も私の属性を悟ったのか知っていたのか、向けられた手の先に気付いて再び急接近を試みてくる。何か起こされる前に、ということなのだろう。
その動きに、私の意思とは関係なく口角が上がるのを感じた。
黒い方のウサギの話もどこかで出したいですね。お気に入りなので何度でも出したい。




