327,後輩って可愛い
授業が終わり、大体の生徒が研究室に移動し終わった頃。私はいつも遊んでいる林の前でゆっくりと杖を回していた。
誰かと約束してるとかではないんだけど……来ると思うんだよね。
学校に戻ってきて、昨日と今日は授業に参加していた。
特別なことは何もなく普通に授業に出て出席証を貰って、昨日の放課後はヴィレイ先生の準備室の片付けをしたりしてたんだけど……夕食の時とか、今日の昼ご飯の時とか、何かを探すような魔力がずっと漂っていたのだ。
その魔力の主には心当たりがあるので、こうしてぼんやり風を感じながら来るかなー?と考えているのである。
あとはまあ、最近会ってない黒猫後輩が居たりしないかなぁとも思っている。
「あっ」
「お。こんにちは、ルナル」
「セルちゃん先輩!」
「そういう呼び方に落ち着いたのね……まあ、好きに呼んでくれて良いけど」
なにやら色々混ざっている気がするけれど、別に気にはならないので何も言わないでおく。
まあ、何はともあれ予想通りルナルには会えたので、杖を回すのはやめて寄って来る彼女に向き直った。
「ルナルは研究室入らないの?」
「んーん。新魔法研究会、入った……です」
「あれ、そうなの」
「今日はセルちゃん先輩がここに居たから!セルちゃん先輩は、どこにも入ってないの?」
「入ってないねぇ。何だかんだ入らないまま四年生になっちゃったし、入ってはないけど遊びには行くからまあいいかなって」
実はノア先生からルナルの話を聞いていたりもしているのだ。
魔法への興味と意欲は非常に旺盛だが、それ以外への興味が薄く同級生ともあまり話したりしないんだとか。
そんな中で私には興味を示しているので、話をしてみてほしい、と。
あとついでに出来ることなら人付き合いと魔法以外の科目にもやる気を出すよう誘導しておいてほしい、と。
前半はともかく後半は私じゃどうにもならないと思うんだけどな……特に人付き合いとか。私もそんなに知り合いも友人も多い方じゃないんだから。
とまあ、そんなわけで、ルナルとは今後もあって話すつもりではある。
元からお互い気にはなってたみたいだし、見つけやすい魔力だから私を探してるのには気付けるだろうしね。
ルナルもルナルで私がここで一人で居ることには気付いていたみたいだから、その時に話たければ向こうからくるだろう。
「セルちゃん先輩は風以外の精霊は見えますか?」
「いや、風以外は……待って、シルフィード見えるの知ってたの?」
「ん?うん。見える人は、分かる……ます」
もしかして、なにか魔法が得意な亜人なのだろうか。見て分かるってことは少なくとも血は入っていると思うんだけど……今聞くのはなぁ。
というか、ルナルが私に興味を持ったのはそれも関係あるのかな。
「そういえばルナルの属性、木であってる?」
「うん!」
前に会った時はお互いの名前を認識しただけだったから、実は属性の確認が出来てなかったんだよね。杖の感じといい、魔力の感じといい、地よりは木かなって感じだったのだけれど、合っていたようで何よりだ。
魔法使いはとりあえず相手の属性が気になる生き物だからね。私は風を纏っていたり杖を回して風を起こしていたりするので、確かめるまでもなく風だと認識されているみたいだけれど。
「あのね、わたしね、キニチ・アハウの研究所から来たの」
「研究所?」
「うん。魔法の研究所。研究所の人が、魔法以外も学んできなさいって。でも、魔法以外って必要?やらなくても、魔法で出来るのに……」
「……魔法以外は楽しくない?」
「んー……そんなに楽しくない。です」
杖を揺らしながらぼやくように言ったルナルの頭をそっと撫でる。わあ、ふわふわ。
これはちょっと念入りに撫でないといけないなぁ。嫌がってる感じはないし、とりあえず撫で続けていいだろう。
「ルナルは魔法が好きなんだね」
「うん!好き!」
「だよねぇ。私も魔法好きだよ」
自分にも使えると分かった日はそれはそれはワクワクしたし、初めて杖を買ってもらった時は嬉しくて抱えて寝たくらいだからね。
それからは毎日魔法の練習もしていたし。私の魔力量が多いのは、多分ずっと魔法を使っていたからってのも影響してるんだろうな。
「セルちゃん先輩は、魔法以外も楽しいですか?」
「うん。知らない物を知るのは楽しいし、読書は魔法と同じくらい好きだよ」
多分、興味が向けばいくらでものめり込めるタイプなんだろうな。
現状魔法以外に全く興味が無いから、ノア先生が私に声をかけてくるくらいの何かしらの問題があるんだろう。まあ、詳しく聞いてないからそのあたりは知らないんだけどね。
「……研究所の人が、いろんな人に会っておいでって言ってたの。でも、わたし、研究所の人以外と話したこと、あんまり無くて……」
「今までずっと研究所に居たの?」
「うん。わたし、研究所で産まれたから」
「なるほど、私以上の箱入りか……」
人付き合いに関しては、興味云々の前にやり方が分からないんだろう。
私は七歳の時にウラハねえに拾われて、そこからは姉さまの知り合いに時々会うくらいでほとんど森の中の一軒家に引きこもっていたけど……でもまあ、ガルダに行ったり出店リコリスに乗って遊びに行ったりはしてたんだよね。
それもなかったとなれば、私以上の相当な人見知りが完成していても不思議じゃない。
私に声をかけたのは、多分魔法使いだからだろう。
魔法の研究所に居たってことは、周りには魔法使いも多かっただろうからね、他より声はかけやすかったのかもしれない。
「まあ、知らない人に声かけるのって難しいよねぇ。私もいっつもシャムとかリオンについて来てもらってるし……」
「そうなの?」
「うん。だからまあ、急に全部やる必要はないんじゃないかな。授業で一緒になった人とちょっと話すくらいでも、とりあえずは良いと思うよ」
「……ん、分かった。頑張る」
私の時と同じなら、実技授業で三、四人のパーティー作ってるはずだから、とりあえずその時に話せればいいのだ。私も最初そんなんだった。
最終的には同級生となら普通に話せるようになったし、それでいいんじゃないかなー。
「言葉遣いも、頑張る」
「お、そうなの?」
「うん。ちゃんとしなさいって言われたから。練習中です」
なるほどなぁ。だから語尾に後から付け足したようなですます調が発生してたのね。
そこらへんもまあ、やってりゃ慣れるよ。
私としては可愛いからこのままでもいいんだけど……まあ、出来た方がいいか。
とりあえず、私はしばらくルナルを見守ることにした。やっぱり後輩って可愛いわ。
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