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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
325/477

325,腹ペコたちの買い物

 活気のある市場の一角で、売っている保存食の状態やらなんやらを確認する。

 うーん……干し肉の塩加減って物によって違うから、どれを買うかはちゃんと考えないといけないんだよね。


 基本的に味見して調整してるから大丈夫だとは思うんだけど、うっかり塩気の強いのを買って調整が利かなくなるのは嫌だしなぁ。

 かといって塩気の薄いものなら良いってわけでもない。まあ、最終的には物の質と好みだ。


「セルー。多めに買っとこうぜー」

「リオンが持つならいいよ」

「よっしゃ、持つから飯の量増やしてくれ」

「そんなに少ない?足りてない?」

「美味いからもっと食いたい」

「褒めてくれてありがとう」


 私が干し肉を吟味しているのになぜかついてきたリオンが後ろで何やら言っているので、予定より多めに買っておくことにした。

 そんなわけで、これとこれとこれかな。これ以上は流石に要りません。元々持ってきてた分もあるんだから。


「次、野菜」

「おー」


 本当に荷物持ちをしてくれるらしいので、そのまま一緒に乾燥野菜を見に行く。

 これもなぁ、どれを買うかは質と好みなんだよね。

 リオンは基本好き嫌いはないので、どれがいいかと聞いたら何が違うんだと返されるくらいだ。


「んー……とりあえずこれ」

「おう」

「そんで、こっちかなぁ」

「おう」

「……これとこれどっちがいいと思う?」

「どっちも買うは無しなのか?」

「腹ペコめ。よかろう」


 そんなこんなで残るはパンなのだけれど、これはロイとシャムが買いに行ってくれている。

 肉や野菜は私のこだわりがあるかもしれないからと任せられたが、乾燥パンの良し悪しは正直保存が利くかどうかくらいだからと請け負ってくれたのだ。


 そろそろそっちも終わった頃かな。

 別れた通りのあたりに戻ってみることにして、その道中で気になるものをちょっと覗いて行ったりもする。


「……魚?」

「おう嬢ちゃん、見るの初めてか?」

「この形のは初めてです。塩漬けですか?」

「塩水に通して干した干物だ。軽く表面を焼いて食う」

「なるほど?」


 屋台のおじちゃんが試食に一欠けらくれたので、それを受け取って口に放り込む。

 ……ふむ、濃縮された旨味と微かな塩味。これは中々美味しいなぁ。

 同じく試食を貰っていたリオンがものすっごく期待した目でこっちを見てくるので、これも買って行くことにした。


「帰り道三日なのにこんなに食べるー?」

「食べる」

「……ほんとに食べきりそう。残せるものは残して次回で良いんだからね?分かってる?」

「おう」


 本当に分かってるんだろうか。まあ、最悪私が作らなければ強制ストップはかけられるんだけどね。

 その後もちょっと目移りしたりしながらシャムとロイとの合流地点に到着し、既に待っていた二人に軽く手を振る。


「……パンの量多くない?」

「食べきる食べきる」

「そっちも結構な量になったね」

「量を増やすことに成功した」

「リオンが持つことで手を打った」


 腹ペコたちめ。このままじゃ食料がどんどん増えるぞ。

 まあ、それだけ美味しいって思ってくれてるってことならわりかし満足なんだけどさ。

 だとしてもこれ以上は増やさないからね。三日だから、必要なの三日分の食料だから。


「とりあえず鍋探しに行く?」

「おう。行こうぜ」

「セルちゃん、どんなお鍋がいいなぁとかある?」

「んー……とりあえず吊るすタイプで、この際今使ってる鍋がすっぽり入るくらいの大きさかなぁ。あと欲を言うと蓋が欲しい」

「なるほど。まあ、今回見つからなくても気長に探そうか」


 蓋は最悪なんか木の板とかをピッタリに削り出してもらえばいいんだけど……まあ、そのあたりも含めてとりあえず見てみよう。

 ついでに他のものも見たいし、見てる間に欲しいものが出てくるかもしれないしね。


 そんなわけで市場を見て回り、鍋は良いものが見つからずに買い物は終了した。

 これであとは、来た道を辿って帰るだけだ。

 結論から言うと、特に何の問題もなくフォーンに戻る事が出来た。


 小型の魔物の群れを見つけたけれど、数人の冒険者がそっちへ向かって行ったので討伐クエストが出てるんだろうって事でスルーしたからね。

 なので予定通り夕方にフォーンに戻り、急ぎ足で学校に戻って帰還報告をして、荷物を置いて夕食を食べて風呂入って寝た。


 なんだかんだ寮の自分のベッドが一番落ち着くよねぇやっぱり。

 荷解きも手紙の確認も全部後回しにしてベッドに倒れ込み、そのまま朝までぐっすり眠った。

 いやぁ、起きた時の頭のスッキリした感じ、やっぱり気を張ってたんだなぁって実感したよね。


「ふぁ……とりあえず朝ごはん行くか……」


 制服に着替えて杖を持ち、今日の予定を考えながら食堂に向かう。

 今日は遠征明けってことで特に集まって何かをする予定はないので、何をするか考えないと。

 一限は出る授業も無いし、手紙の確認とか返事とかやってようかな。


 昨日書かないで寝たからなぁ、なんて思いつつ朝食を食べて、合流したロイとリオンは今日起きてこなさそうだよねぇなんて話す。まあ、ゆっくり休んで欲しい。私の数倍気を張ってたみたいだしね。


「じゃ、私はそろそろ行こうかな」

「うん。じゃあまた昼に」


 ロイとの話を切り上げて食堂を後にして、部屋に戻って手紙を確認する。

 やっぱり家からの手紙が来ていたのでそれをもって椅子に座り、封筒を開けるといつも姉様が使う便箋のほかに一回り小さなやたら質の良い封筒が出てきて思わず手紙を落としてしまった。


「あー!!あーー!!」


 叫んだところで意味はないのだけれど、意味はなくとも叫びたいときはある。今とかね。

 まあ、これは、知ってはいるっていうか、言われてはいたっていうか、私がうっかり忘れてただけなんだけど……でも急に出てきたから心臓がとんでもない速さでドコドコ動いている。


 この、やたら質の良い手紙はリコリス経由で送られてくるサフィニア様からのお手紙である。

 あの王子様マジで一年間私に考えさせるつもりらしく、文通などすることになったのだ。

 遠征の事で頭がいっぱいだったときは良い感じに忘れていられたのに、遠征終わっちゃったからこれに真面目に向き合わないといけなくなってしまった。


 ……まあでも一旦後回しにしよう。顔の熱とか冷ましがてら、家の手紙を先に読んで落ち着く方がいいだろう。返事まで書いてから悩むことにする。じゃないと何も進まないからね。


何だか思ってたより話数がかかった初めての遠出、これにて終了です。

この遠出をやたらちゃんと書いたのは、今までアオイちゃんが馬鹿みてぇな移動しかしてなかったからです。あの子ったらほんとにもう。


ちなみにセルちゃんは「遠征に慣れる」がメインの目標でしたが、他三人は「セルちゃんがどこまで普通の旅というものを知っているか確認して足りない部分を教える」がメインの目標でした。

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