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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
319/477

319,初めての遠出

 荷物の最終チェックを終えて、最後にレイピアを腰のベルトに固定する。

 部屋に鍵をかけて、杖を揺らしながら廊下を進み中央施設に向かう。

 四年生が数日間部屋を開ける時は、中央施設に鍵を預けることになっているんだそうだ。


 なんでも出先で鍵を無くす生徒が何人かいたらしく、出る前に回収することになったのだとか。

 まあ、その方が安心だよね。そんなわけで中央施設に鍵を預け、外には出ずに寮の方に戻る。

 歩きながら時計を確認すると、今は九時。普段冒険者活動に出るよりも早い時間だけれど、移動の時間があるからこれ以上遅くはしたくないらしい。


 そんなわけで、私はリオンを起こしに行かないといけないのだ。

 鍵預ける前に寄っても良かったんだけど、そこはまあ、何となくね。

 預けにいったからこそちょうど九時、ってちょうどいい時間になったわけだしこれで良かったってことにしよう。


「さて、と。……リオーン!!起きろぉ!」


 扉を叩きながら声を張り、これでも起きなかった時のために笛も用意している。

 結構な音がする笛なので、出来れば廊下で盛大に鳴らすことはしたくない。

 なので全力で扉を叩く。全力で叩いても大丈夫ってヴィレイ先生が言ってたから遠慮は不要だ。


「ヘリオトロープ行くんだろー!!起きなさーい!」


 数分間扉を叩きながら叫んでいたら、鍵が開く音がした。

 手を止めて一歩下がり、顔を出したリオンに手を振る。


「おはよー」

「おう……おはよ……ちょっと待て……」

「はーい」


 一度起きれば二度寝はしないから、部屋の外で大人しく待つ。

 物の数分で支度を済ませて出てきたリオンは相変わらず寝癖がそのままだが、服装や荷物はいつもより重装備だから遠征用ではあるらしい。


「おっし。いま何時だ?」

「九時過ぎ。さっさと鍵預け行こー」

「おー。セルはもう預けて来たのか」

「うん。先に行ってきた」


 話しながら廊下を進んで、中央施設で鍵を預けているリオンに声をかけて先に外に出る。

 そんなにかからないとはいえちょっとしたやり取りは必要だから、先に預けてきて正解だったかな。

 まあそんなカツカツな予定ではないらしいんだけどね。


「あっ、おはようセルちゃーん」

「おはようシャムー」


 飛びついてきたシャムを抱き留めて、木陰に居るロイの所まで歩いて行く。

 朝ごはん食べる時に会ってるから、おはようではなくリオン起こせた?と言われた。

 起こしたよ。隣の人が寝てたら文句言われるレベルで扉叩いたからね。


「おーっす」

「おはようリオン!さあ行くぞー!」

「シャムテンション高いね」

「楽しみだったんだってさ」


 鍵を預けたリオンが出てきたので、校門を通り抜けて大通りへ向かう。

 買い物やなんかは昨日のうちに終わらせてあるので、今日はもう移動のことを考えるだけでいい。

 今回向かう先はヘリオトロープ。国ではなく、町とか都市とかそんな風に呼ばれている場所だ。


 名前自体も正式なものではないらしいけど、どの町も大体一個の名前が定着しているから正式名称かどうかは別にいいんだろう。伝わるからね。

 国ではないので国営のなんちゃらが無いのと、大体の街は国より治安が悪い。統治者がいないからだってコガネ姉さんが言っていた。


 ヘリオトロープはフォーンが出来る前は第六大陸側にある唯一の大きな定住地だったこともあり、治安もいいし自警団もいる。

 姉さまも泊まったことあるって言ってたから多分かなり安全なはず。


「とりあえずいつも通り、リオン先行で行こうか」

「おう」

「セルリアは前より横と後ろの警戒をお願いしたいな」

「分かった」


 門を出て、一度大きく杖を回して風を起こし、言われた通り横と後ろを覆うように風を流す。

 向かう先は、第六大陸との境にある関所だ。

 第四大陸の中央には森が生い茂っているから、それを避けるように移動する必要があるんだよね。


 姉さまはよく馬に乗って国と国の間を一日で移動しているけれど、あれはちょっと特殊だしお金のかかる移動方だったりする。

 普通そんな速度の出る馬居ないから。居たとしても借りるだけで結構高いから。


 なので、私たちは今回片道三日構成で予定を組んでいる。

 ヘリオトロープについてから帰るまでに一日間を入れているから、全部で七日間。

 これが普通なんだよ……聞いてますか姉さま……


「お、前から人が来る」

「リオン目ぇ良いよねぇ」

「魔力巡らせるようになってから視力上がったぞ」


 話しながら歩き、途中すれ違った人には会釈をしてすれ違う。

 シャムとリオンが元気よくこんにちはー!って言ってるけど、私は会釈だけで失礼しますね。

 相手の人もそんな元気よく声かけられると思ってないからびっくりしちゃってるからね。


「ロイずっと笑ってるじゃん」

「ふふ……ごめん……」


 ロイはどうやらシャムとリオンの元気のいい挨拶がツボに入ったらしい。

 何がそんなに面白かったんだ……?私はちょっとびっくりしたよ。ビクッてなった。

 もしかして、それも込で面白かったのかな。


 なんてやりながら進んでいき、道が消え始めるあたりでシャムとロイが時々位置の確認を挟むようになった。

 ある程度国とか街に近いところは道もはっきりしてるんだけど、少し進むと無くなるんだよね。


 本気で迷ったときは海沿いを進んで行けばどこかで関所に当たるので、それで位置を確認したりもできるらしい。

 なるほどなぁ、そんな方法もあるのか。私たちについては私が人を連れて飛べるので、迷ってもある程度の地形を上から確認したりでどうにか出来るらしい。


「そんなに難しくないから、二人も出来ると思うよ」

「マジか、やってみようかな」

「私たちが教えてもいいし、先生たちも頼めば教えてくれると思うよ!」

「リオンもやろうよ」

「俺は感覚でやった方が早いぞ絶対」

「そうかもしれないけど、何その自信」


 ついでに魔法も覚えて、と雑にねだり、なんでだよと疑問の目を向けられた。

 いいじゃん。私は誰にだって魔法使ってほしいし見たいんだよ。

 姉さまにすらねだったことあるんだからな。あと、リオンの属性は炎なのである程度自分で出来るようになってほしい。


 ちっちゃい炎出すだけで良いから。私それが一番苦手なんだ。

 今回はシャムが居るから、必要になったらお願いする気満々である。

 他の所は自分でやるけど、炎だけはね……でっかくなるからね……


 なんてやいやい言い合いながら順調に進んで行き、リオンのお腹が鳴り始めたので十二時ごろに昼休憩になった。なんて正確な腹時計なんだ。


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