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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
318/477

318,入学式の魔力

 放課後になって、ぼんやりと杖を回しながら日向ぼっこしていたら外廊下の柱の影からジーッとこちらを見てくる視線を感じた。

 ……なんだろうなぁ。誰だろうなぁ。毎年学年が上がってからは、謎に突っかかって来る人たちをそよそよして差し上げてたんだけど今年はそれもなかったしなぁ。


 それに、なんかそういう突っかかって来るのとは違う感じなんだよね。

 どちらかというとアリアナたちの学年が向けてくる目線に近い。

 でも、あの子たちはこんなにもガン見してこないんだよなぁ……初めての感覚でどうしたらいいか分からないから、困ったまま日向ぼっこを継続してしまっている。


「んー……」


 今日リオンは研究室に行っているし、シャムとロイは忙しい。

 アリアナとグラシェも約束してないから来ることはないだろう。

 つまり私が動かない限り、この謎の状況は変わらないという事だ。


 気合を入れて、視線の方を振り返る。

 結構な勢いで振り返ったからか、視線の主としっかり目が合った。

 ……なんか、ちっちゃい子がいる。身長より大きいロングステッキを握ってこっち見てる。


「…………何か、用?」


 目が合ったままお互いに停止してしまって、考えた末に出た言葉がこれだった。

 出来る限り圧のない声を出したつもりなんだけど、言葉選びは間違えた気がする。

 許してくれ知らない子。私、森の中で甘やかされて育ったから結構人見知りなんだ。


「風の人!」

「……うん?」

「えと、最初の授業の日に、風の魔法使ってた人!……ですか?」

「……あ、うん。そういえばそんなことやった気がする」


 待ってる間暇だからって風魔法で校内見て回ってたのを探知した、のかな?

 杖も持ってるし、魔法使いなのだろう。

 日向ぼっこしながら杖回してたから風が起こっていて、それで気になっていた風の正体が分かって柱の影から観察していたんだろうか。


 なるほど、確かに知らない魔力が校内を移動してたら気になるよね。

 すぐにやめたけど、普通に邪魔した気がしてきた。今後はやらないようにしよう。

 なんて考えていたら、風が彼女の魔力に触れた。


「入学式の……」


 その魔力が、入学式の日に風に混ざっていた謎の魔力と同じだったから思わず声が漏れた。

 小さな声だったけれど聞こえたようで、彼女は目を輝かせて柱の影から出て来て目の前で止まる。

 ……ちっちゃいな……ミーファよりちっちゃいな……


「わたし、ルナル!キニチ・アハウから来ました!」

「私はセルリア。どこと言うほど地名のあるところからは来てません。よろしくね、ルナル」


 キニチ・アハウはイツァムナー同盟の一国で、確か魔法技術の発展した国だったはずだ。

 私はあまり見たことのないタイプのロングステッキも、魔法技術の産物かな?

 木の枠に丸い大きな魔法石、それを支えるように蔦のようなものが巻き付いている。


 少し緑の混ざった水色の髪はふわふわと広がっていて、後ろから見たら背中は全部覆われてるんじゃないかな。

 顔の両サイドには三つ編みがあるので一応整えてはいるみたいだけど、後ろ髪は放置してそうな感じだ。


「あっ、いた。セルちゃーん」

「ん?どうしたのシャム」


 撫でたいなぁ、でも流石に初対面で撫でるのはどうかなぁ、とそんなことを考えていたら、建物からシャムが出て来て声をかけられた。

 手には書類を持っているから、今度の遠出の何かしらかな?


「お話し中だった?後にしよっか?」

「いや……どうだろ」


 声をかけた後にルナルに気付いたようで、こっちに歩きながら建物の方を指さしている。

 でも、多分ルナルは用事があったってわけじゃないと思うんだよね。

 気になっていた魔力の元を見つけたから見に来て、私が敵対的じゃなかったから声かけたってだけで。


「セルちゃん……ん、帰る。バイバイ」

「おぉ、バイバーイ」


 こっちをじっと見てぽそりと何かを呟いた後、元気よく帰っていったルナルに手を振って見送る。

 また今度会うこともあるだろうし、その時に何かしら話も出来るだろう。

 多分お互い社交的ではないから、初対面のままお喋りはちょっと難しいんだよね。


「良かったの?」

「うん。名前知れただけ収穫かなぁ……あ、そうだ。何か用事だった?」

「あっ、うん!とりあえずの日程が出来たから渡しに来たの」


 渡された紙を確認して、脳内の予定と書かれている内容を見比べる。

 ……うん、多分大丈夫。というかロイとシャムが組んだ予定だから基本的に大丈夫なんだけどね。

 念のための確認は大事だ。何事も確認はちゃんとしなさいってウラハねえも言ってた。


「リオンにはロイが渡しに行ったよー」

「そっかそっか」

「……ところでセルちゃん、さっきの子って入学式の魔力の子?」

「うん、そうみたい。私が暇で飛ばしてた風が気になってたみたい」

「なるほどー!確かにセルちゃんの風って密度が周りと全然違うから初めて見たら気になるよねぇ」

「え、あんまり自覚無いんだけど……」


 確かに飛べるくらいには密度上げてあるけど、普段はそんなに意識してないんだけどな……

 暇つぶしに飛ばしている風でも分かるくらいの密度になってたなんて。

 まあ、風なのに物理力高めてた効果が出てきたってことにしとこう。


「さて……シャム、この後予定は?」

「特にないよー。ロイとは夕食の時に合流ってことにしてある」

「じゃあ私の部屋でお茶しない?」

「するー!やったー、食堂でクッキー買って行こっ」

「いいねぇ」


 時計を確認したらまだ夕食まで時間があったので、シャムを誘って部屋でお茶することにした。

 なんだかんだ、まだ蜂蜜もご馳走してなかったからね。

 そんなわけで食堂に寄ってから部屋に移動して、お茶の準備をして予備の机を引っ張り出す。


「セルちゃん今回の遠征にレイピア持っていくの?」

「持っていくよー。非常用くらいにはなりそうだし」

「そっかー。かっこよくて目立っちゃうね!」

「いやいやいや……」


 シャムはなんだかやたらと私のレイピア装備を気に入ってるんだよね。

 多分外套の中に隠れるから、見えるのはいつも通りロングステッキだけだと思うなぁ。


「……あ、そうだ。実は遠征を見越して外套を新しくしましてね……」

「えっ、どんなのどんなの?」

「じゃーん」

「可愛いー!」


 休みの間に色々と用意した遠征と野営のための道具と一緒に、モエギお兄ちゃんから渡された新しい外套を出してきて広げる。

 今まで着ていたのは短距離のお出かけとかちょっと羽織るもの、って感じだったから、丈夫さとか実用性とかを考えて作ってもらったのだ。


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